聖女と魔女 6
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恐らく、聖女と謳われていたのがアンジェラに憑依しているエカテリーナで、千年を超えてこの世にしがみついている異界の雌が、魔女と呼ばれた女なのだろう。
「このブス!」
「てめえこそブスだろ!ブタ!」
悪口雑言が酷過ぎて、聖女と魔女の戦いというよりは、魔女と魔女の戦いにしか見えない。外見は愛しい番のはずなのに、中身が変わるだけでこんなにも変わってしまうものなのか?雌の竜の気性が激しいのは知っているけれど、度が過ぎているようにも思うのだが。
両者の戦いに割って入る事など出来るわけがない。
千年を超えて戦い続ける二人、しかも男を間にして取り合った構図なんだろう?
それで世界が滅びるとかなんとか、もう、訳がわからない。
どろどろの怨霊の塊となった自称聖女と、山のような白骨を積み上げて攻撃する元聖女の戦いなのだが、
「怖っ!」
としか言いようがない。まあ、いくら怖かったとしても決着は早く着くだろう。
津波のような怨念の塊の攻撃を純白の骨の塊で迎え撃ったエカテリーナは、地獄のような攻撃と攻撃の合間に光の塊を放ったわけだ。
汚濁の塊にしか見えない龍の鼻柱に光の塊が当たると、衝撃を受けた汚泥の龍は口を開ける。百を越える人の顔に埋め尽くされた龍の口の中には、薄桃色に見える宝石の塊が輝いて見えた。
高々と跳躍したその塊は、剣を一閃させて汚泥の龍の頭を切り割ったそのままの勢いで、輝く宝玉を切り裂いた。その反動で地割れが起こり、黒いタールの龍は飛び散るように霧散した。
剣を鞘に収めたのはベルトルト・アバッティーニ、侯爵家の次男で、アンジェラの元婚約者だ。
「おい!マジかよ!アンジェラの元婚約者じゃないか!」
アンジェラに憑依したエカテリーナが興奮の声をあげ、わざとらしい程の視線で僕の方を何度も振り返る。
汚泥の中に降り立ったベルトルトは、苦しげに顔を歪ませながら、
「ビアンカも宝玉で動いていました、だから、ダニエラも宝玉を壊せば止まると思ったのです」
と言って悲痛な表情を浮かべながらアンジェラを見つめる。
「ああああ、いい、いい、倒してくれたなら何でもいい、アンジェラの番じゃなくても問題はない」
エカテリーナはそう言いながら、意味ありげな様子で僕に視線を送る。
一番美味しいところを元婚約者に奪われちゃっていいのかお前?みたいな感じで、こちらを振り返って見るのはやめて欲しい。本当にこの人が二百年くらい前に現れたとされる聖女なのか?柄が悪いし、今の態度もムカつくし、疑問ばかりが残るのだが?
「今のは鱗か?」
僕が問いかけると、苦笑を浮かべた彼女は、砕けた宝玉の一部を拾いながら言い出した。
「我らの鱗は、外れやすいし再生しやすいが、利用しやすいし悪用しやすい。今の時代の小竜は退化が進んでいて薬の材料にしか使われないだろうが、一千年昔の頃だったら鱗だけでなく生肝や竜骨も、牙も目玉もさまざまなものに利用されたものさ」
砕けた宝玉は鱗の塊で出来ていて、手に取ってみると砂と化して消えていった。
人化した母はボロボロの姿で、足を引き摺りながらこちらに向かってくると、
「竜化をすると体が痛い、本当に痛いんだ!ご先祖様よ、この体の痛みをどうにかする秘術とかそういうものは、ないものだろうか?」
と、アンジェラに向かって問いかける。
すると、彼女は断言するように、
「寝るだな、とにかく寝る、寝てれば治るから寝るしかない」
胸を張って答えるので、
「寝るしかないのか・・・」
がっくりと項垂れる母の後ろから、人に戻った父が抱きしめる。
背中にぐりぐり自分の顔を押し付けているので、母が前のめりになっている。
今まで呆れた目で見ていたけど、今なら分かる。父上、今まで蔑んだ眼差しで見つめてごめんなさい。
「腕を切断したのは俺なんです、あの時は完全に操られていて申し訳ありませんでした」
アンジェラの前に跪いたベルトルトが、足元にひれ伏しながら謝り出す。
「いやあ、私に謝られても困るんで、アンジェラが戻った時に謝ったら?」
困り果てた様子で口を開く彼女の肩を掴み、
「いつまでその体に居るつもりだ?」
と、問いかけると、彼女は困り果てたような顔で笑みを浮かべた。
『これで終わるはずがないだろう?』
そう、これで終わっているのなら、とっくの昔に終わっている。
壊された竜の間、破壊されたタイル、落下する竜の絵。
溶けて無くなった人々の数が多過ぎて、今、廃墟と化したこの建物の中には僅かな人間しか残っていない。
近衛兵がこちらへと叫びながら駆け寄ってくるが、彼らをこちらに引き込んではいけない。王国軍も、とても手に負えるものではないのだから。
銀の竜は?どこに行った?
「あああああああ!生まれる!生まれる!赤ちゃんが生まれる!」
一段高くなった王族の席で、倒れ込んだチェレスティーナ妃が弟の手を掴みながら悲鳴に近い声を上げる。
開かれた足はドレスのスカート部分に隠れて見えないが、破水した水が滴り落ち、真っ赤な血液がスカートの中で盛り上がる。
足の間から覗くのは、確かに胎児のように見えたが、その姿がどんどんと大きくなっていく。生地が破れ、赤黒い赤子の顔が、四方に広がるようにして伸びていく。
「うわああああああああああああああん!」
赤子の泣き声に呼応するようにパヴィアナ山脈の屍となった龍が咆哮し、地面がグラグラと激しく揺れ出した。
「あああ〜やばい、異界の龍の力がこちらに力を流し込んでいる、これは封印に失敗したのかも」
胸元に抱き寄せたアンジェラは紫水晶の瞳を僕に向けると、
「アンジェラの番殿、後は任せた、お前なら出来ると思う、よろしくな」
と言って、その場で気を失ってしまったのだった。
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