それが番というもの 4
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力がある者は匂いを嗅ぐだけで、それが番同士なのかどうかを判別する事が出来るという。
ノストラトの戦線に参加している間、主だった将校を集めての作戦会議を行なっている最中に、彼女のすぐ近くに陣取った俺は、彼女こそが俺の番ではないかと望みをかけて、すぐ隣にいる友人に問いかけてみたのだが、
「ベルトルト、アンジェラ嬢はお前の番ではないよ」
と、言い切られる結果となってしまったのだった。
俺はベルトルト、アバッティーニ侯爵家の次男になる。
番は魂の伴侶とも言われていて、根元の匂い、つまり魂の匂いが非常に似ているものであるらしい。力ある者が番かどうかを判断する力は、危機管理能力の一つなんだとか。
騎士団長を父に持つ俺は、同年齢の奴らの間では頭ひとつ抜きん出ていると言っても過言では無い。兄よりも武勇に長けている俺は、きっと自分の番を見つけられるだろうと安易に考えるようなところがあった。
「だけど、あの人には番が必ずいる、危険な匂いがする、俺だったら絶対に近づかないね」
「近くに相手がいるって事か?」
「近いけど遠い、生きている間に顔を一度合わせるかどうかといったところか?」
遠くにいるのなら問題ないんじゃ無いのかな?父上だって自分の番は探さず、母上と結婚しているし、この世の中のほんとんどの人間が、自分の番を見つける事が出来ないんだ。
例え番じゃなくても、あの女が欲しい、俺はあの女が欲しい。
帝国軍とのぶつかり合いで、叔父を亡くし、婚約者候補だった従兄弟たちをも亡くしたアンジェラ・マルサラは、それでも果敢に自軍の兵士をまとめて一撃突破に成功し、敵の軍勢を退けることに成功したのだ。
天に届くほど高く矢を射り、敵の将校を狙って殺していった技は人のものとも思えず、あれこそが噂に聞く竜の力。敵を屠り、一団を率いて馬で駆け抜ける姿は圧巻で、欲しい、欲しいと魂の奥底から叫び声が上がる、あの女との間に子を作りたくて仕方がない。
多くの戦死者を出したノストラトの戦いで、マルサラ辺境伯軍の損害は他に類を見ないほど大きい。今回の戦いでは、辺境伯軍の働きがなければ王国軍は負けていただろうと、皆が皆、口を揃えて言っていたものだ。
「ベルトルト、お前が辺境伯家に婿入りするという話だがな、とりあえず、あちらの令嬢と顔合わせをした後、どうするかを判断したいと言われたよ」
戦争終結後、すぐさま、辺境伯家へ婚姻の申し込みを行ったのだが、返事はまず顔合わせをしてからという事で、すぐに俺は辺境伯領へ向かう事にした。
多くの人間を失ったマルサラ領では、猫の手を借りたいほど忙しいのに違いない。
アンジェラの婿として受け入れられる為には、こちらが優秀であると知らしめる必要があった。
顔合わせの為の移動の際には、俺に仕えていた者たちが俺の世話をするために、辺境伯領まで付き従ってやってきた。侍従なんかは分家の次男、三男が多く、元々都会でしか生活した事がないような奴らだったから辺境の地に馴染む事が出来ないらしい。
「言うほど見た目が美人でもないじゃないですか?」
「まさかあんな娘が好みなんですか?ゲテモノ好きにも程がありますよ!」
俺が辺境の地に嫌気がさして早々に王都に引き返す事になれば、自分たちだって王都に帰る事が出来るわけだ。
真っ向から反発をしても、王都に帰った奴らは俺の事を悪く言うだけだ。
それがわかっていたから、
「父親の方に似ればまだ食指もが動くものを、母親の方に顔立ちが似ているというのだから、興味の一つも湧きようがない。こうなったら、さっさと孕ませるだけ孕ませて、王家に仕える事を理由に王都へと住居を変えよう。なあに、後継者として辺境の泥に塗れて働くのは好きだろうから、王都までくっついて来よう等とは言い出さないだろうさ」
などと言って、奴らの機嫌を良くさせた後に、
「だが、そうである事を父上は絶対に認めないだろう。今、俺が辺境の地に見切りをつけて立ち去れば、おそらく侯爵家から追放、平民の身分とされるだろうさ。もちろんお前たちも同じようなもの。あれだけの貢献を行った辺境伯家に唾を吐くような真似をすれば、どうなる事になるかは俺でも簡単に想像が出来るものよ」
と、脅すように、囁くように、相手を睨みつけながら釘を刺す。
俺の逆鱗に触れたことに気がついた様子の侍従の一人が、それでも茶化すようにして言い出した。
「番と言われて喜ぶ女を始めてみましたよ」
「ああ、田舎は純血主義が根強く残っているみたいだからな、一生涯、ただ一人の伴侶なんてものに夢を描いているんだろうさ」
そう同調しながら、最後には釘を刺す。
「だが、俺もそんな夢を描いているバカの一人なのだろうな。彼女は俺の番ではないかもしれない、だがしかし、俺はあの人を俺の番として生涯、愛し続けようと思っている」
それに文句を言うなら帰ればいい。
所詮、男爵やら子爵の次男、三男なのだから、平民に身分落ちしても何の問題もないだろう。
俺は彼女を生涯一人の伴侶として愛し続けるつもりだった。
風に靡く新緑の髪、透き通るような紫水晶の瞳、友人は彼女には番が他に居ると言っていたが、そんな事は関係ない。
俺の妻とすれば、俺だけのものだ。
そうだ、俺だけのあの人になるはずだったのに。
何故だ?何故こんな事になってしまったんだ?
あの人を追いかけたのは誰だ?
あの人の腕を断ち切ったのは?
聖女の披露目のパーティーを王宮で行う事になったという事で、ビアンカをエスコートしながら会場へと赴く。
オストラヴァ王国の王宮は、パルメイラ帝国時代に建てた神殿を増改築したものであり、多くの貴族が集まった場所は竜の間と呼ばれる場所で、天井は見上げるほどに高く、宴の場としては最大の広さを誇る事となる。
ドーム状の建物の壁一面に、パルメイラ帝国時代に描かれた鮮やかなタイル絵が飾られている。創世記を物語ったもので、この世界はまず双生の竜が生まれ出たという原初の生の物語から語られ、後に戦いへと続く歴史が描かれているのだった。
この歴史ある宴の間には、王族が座するための貴賓席が一段高い場所に設けられており、すでに着席しているルクレッツィオ王子とチェレスティーナ王子妃が、楽しそうに二人で話をしていた。
やがて周囲が静かになっていくのと同時に、王子夫妻が厳かに立ち上がる。
最奥にある重厚な扉が近侍によって開かれ、まず入って来たのが聖教会で聖女として認定されたダニエラ夫人であり、その隣には夫人をエスコートする辺境伯がいた。
辺境伯は、年齢を感じさせない美丈夫で、銀色の艶やかな髪を後一つに結えている。紫水晶の瞳を向けられた貴婦人たちが黄色い声をあげて興奮しているようだ。
その後ろに煌びやかな衣装を身に纏った国王夫妻が続き、更にその後ろ、かなり遅れて現れた二人の姿を見つめて、俺の頭を包み込む靄が、あっという間に消え去って行ったのだった。
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