それが番というもの 2
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
「私がいない間に異界の雌龍を引きれるとはどういうつもりなんだ?」
夫は私の肩を強い力で掴みながら言い出した。
「我が侯爵家が雌龍を王家に引き入れたのだと言われ、慌てて戻ってみれば、お前まですっかり侵食されているじゃないか!」
「嘘よ・・嘘!嘘!私は美しい!私は美しくなったんだから!」
「眷属化させられて何を言っている!」
夫は絶望しきった様子で自分の頭を抱えると、
「ああ、親の言う事なんか聞かずに、私も自分の番を探しに行けば良かったんだ・・・政略のための結婚など受けなければ、こんな事にはならなかったはずなのに・・・」
と、うめく様に独り言をこぼしたのよ。
私と夫はいわゆる政略結婚というもので、家同士の結びつきを強くするために結婚する事になったのは間違いないわ。
夫ほど強い人であれば、きっとこの世に魂の番がいるだろうと言われていたのだけれど、領地の運営に失敗した侯爵家には、私の実家の資金援助がその時は必要だったの。だから、仕方なくって言ったら私に対して失礼だとは思うけれど、夫は私と結婚する事になったの。
「あれほどお強いのに、番、番と世迷言を言わないあたりがアバッティーニ侯爵様の素晴らしさですわ!」
と、ダニエラ様にも褒められていたのよ!
今の国王様と王妃様は先祖返りと言われていて、二人は魂が結びついた運命の番だと言われて有名だった。そういう事もあって、番を探そうと躍起になる馬鹿が今の世の中には驚くほど多いのよ。先祖が竜人とか言い出す人もいるけれど、一体どれくらい前の話になるのか分かった上で言っているのかしら?
「私は番を引き合いに出された女性たちが、殿方に弄ばれる今の風潮を憂いてますわ」
ダニエラ様の言う通り、番を引き合いに出されれば、女性は何も言えなくなってしまうのよ!それで泣きを見る女性も沢山いるのよ!
番なんていない!この世の中にいるわけがないのよ!
会える人なんて僅かなものじゃない!夢を見るのも大概にしてほしいわ!挙げ句の果てには人違いだったとか言い出す輩が増えるんだから番を探すとかやめて!やめて!
それに貴方は、
「私は番は探さない、私の人生にフィリッパ、貴女がいればそれでいい」
求婚の時に、私に対して言ってくれたじゃないのよ!
「ひどい!ひどい!本当に酷すぎる!」
今更、番と結婚すれば良かったと言い出すなんて酷すぎる!番を探しもせずに私を選んだくせに、自分の選択の上で今のこの生活が成り立っているというのに!私と結婚しなければお金で困っていたはずなのに!
床にうずくまって大泣きをする私を介抱するように抱き起こしたのは、夫でも息子でもなく、今日、我が家に遊びに来る予定だったダニエラ様で、
「アバッティーニ侯爵家はベルトルト様とビアンカで継げば問題ないじゃありませんか?貴方にとって、今になって番などと言い出す自分の夫など人生に不要だと思うのなら、それは要らないものという事でございましょう?」
と、優しく声をかけてくれたのだった。
涙で歪んだ視界で、美しい笑みを浮かべるダニエラ様を見上げた私が、
「侯爵家は長男のデメトリオ、辺境伯家をベルトルトが継ぐ事になるんじゃないですか?」
と、問いかけると、つまらない話を聞いたといった様子でダニエラ様は皮肉な笑みをお浮かべになったの。
「デメトリオ様は先の戦で番をお見つけになったのですって、ですから侯爵家には戻って来ません」
「番ですって?」
腹の奥底から嫌悪感が広がっていく、デメトリオが番を見つけた?
「その報告のために王都へと向かっていたお二人が馬車の事故で亡くなったと聞いて、私、慌てて侯爵家にやって参りましたのよ?」
「馬車の事故?」
敗戦処理を終えて帰ってきたはずの夫は、馬車の事故に巻き込まれた形で、遺体となって帰って来た。凄惨な事故だったらしく、夫も息子のデメトリオの遺体も、体の部分はボロボロで、損傷を受けずに残った顔の一部を見て、ようやく二人の遺体なのだと分かるような状態だった。
葬儀にはたくさんの人が訪れてくれたけれど、悲しみのあまりなのか、全てのことが良くわからない。
息子のベルトルトが喪主となり全てを取り仕切ってくれたけれど、私は何の役にも立たなかったかもしれない。
葬儀が終わると、私たちを心配したダニエラ様親子がうちの屋敷に移動してきてくれて、ラディカーティ公爵様もたびたび、我が家に顔を出すようになったの。
我が侯爵家は武辺を誇る家柄であり、貴族派を率いるラディカーティー公爵様とは距離を置いていたはずよ。公爵様は次の王はルクレッツィオ殿下がふさわしいと言っているけど、夫はエリアルディオ殿下こそ相応しいと言っていたはず。
王国軍をまとめる立場のわが家が、エルアルディオ殿下を推さずに、公爵に与する形でも大丈夫なのかしら?
「母上、母上は何も心配しなくてもいいのです。全ては私に任せてください」
息子のベルトルトが私の手を握りながら言っているけれど、息子の後ろには常にビアンカ嬢がついているの。
ビアンカ嬢は何かのショックが原因で、何も口に出して喋ろうとはしない。ダニエラ様に良く似た美しい令嬢で、殿方にもとても人気だという事も知っている。
喋らない令嬢だけど、時折醸し出される女性の色香がたまらない、清廉な令嬢に見えて、淫らなところがたまらないと言う言葉は、誰から聞いたのかしら。
あの日、夫から渡された鏡で自分の顔を見ると、顔の全てが茶色の鱗に覆われた、奇妙な縦型の瞳となった自分の顔が映る。
竜の呪いは、自分よりも下等の生物へと変容させるものが多いと聞くから、いつの間にか呪われてしまっていたのかしら。
夫と息子の死が受け入れられないようだと周りから言われた私は、床についたまま起き上がれなくなってしまったの。
みんな、床にふせっていても私の事を美しい、美しいって言うの。だけど、今の私は美しさとはほど遠い存在で、どんな時でも、
「君はいつでも美しいよ」
と言ってくれた夫はいない。
私が小皺なんか気にしたのがいけなかったのかしら、若さがどんどんと衰えていく自分自身の姿に、恐れを抱いたのがいけなかったのかしら。
「歳をとったとしても貴女は美しい私の妻なのに変わりはない」
番ではない私に対して夫は常に誠実で、確かな信頼と愛情を向けてくれていたのに、最後の最後に番が良かったと思わせてしまったのは、私の所為なのよね。
ああ、息子のベルトルトが自分の選択に後悔することがないと良いけれど。
あの子はああ見えて本当に親思いで、本当に優しい子だったはずなのだから。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
毎日更新しています!
モチベーションの維持にも繋がります。
もし宜しければ、☆☆☆☆☆ いいね ブックマーク登録
よろしくお願いします!




