それが番というもの 1
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アバッティーニ侯爵夫人である私、フィリッパは、目元に浮き出た小皺に悩んでいたの。周りのお友達がシワが出てきちゃって〜なんて話をしていた時には、私はまだ出てきていないわねって安心していたんだけど、遂に私にも出てきちゃったみたいなのよ、目元のシワが。
そういう年齢だから仕方がないって夫なんかは気にもしないんだけど、男の人には分からない悩みよね!ああ、どうしたらこのシワが消えるのかしら〜、と、鏡の前で悩んでいたら、辺境伯領から帰ってきた息子のベルトルトが私に言ったのよ。
「婚約者の母君が美容についてはかなり詳しいみたいだから、母上も相談してみたらいいんじゃないかな?」
まあ!辺境伯夫人って美容にお詳しい人だったのね!
「それに、婚約者殿は聖女の家系らしく、癒しの力を持っているらしくてね、その力を使って貰えば、母上の悩みもなくなると思いますよ」
「癒しの力?以前、王都でお会いしたことがあるけど、癒しの力なんてあったかしら?」
「母上が王都でお会いしたというのは、辺境伯の前の奥方の事ではないですかね?」
「ええ?」
「辺境伯の前の奥方とその娘は、流行病で亡くなったのですよ。ですので、今の辺境伯夫人は後添いの方という事になりますし、俺が婚約した相手も、その後添いの方の娘という事になります」
「まあ!そうだったの?」
ベルトルトが戦地で身染めたのが辺境伯の令嬢だと聞いていたのだけど、後妻?連れ子?跡取りとなるため、女性であっても帝国との戦争に参加したというお話は聞いていたのだけど、その令嬢とは別の令嬢になるのかしら?
アバッティーニ侯爵家は武辺を誇る家だから、お嫁さんが武人でも問題ない。ベルトルトがあちらに婿入りするのだから問題ないと言っていたけれど、
「それじゃあ、ベルトルトのお嫁さんは、貴方のお父様みたいに剣を振り回して戦う人じゃなくなったの?」
流行病で亡くなったので後添いの娘さんと結婚するというのなら、そういう事を意味するのかしら?
「剣など持った事もないような人ですよ」
息子はあっさりと答えると苦笑を浮かべた。
「それじゃあ、ベルトルトのお嫁さんは後添いの方の連れ子という事は、血筋的に大丈夫なのかしら?」
辺境伯領は血筋に重きを置くという話は聞いているのよね。何でも竜人の血を色濃く残すとか何とかで、辺境伯宛てに送ったベルトルトの身上書には、私の家系の事も書き加えていると夫が言っていたもの。
「後継が直系以外になってしまう事になるのではなくて?」
「大丈夫です、ビアンカが爵位を継ぎ、俺が婿入りする形なのは変わりませんから」
そこまで断言するという事は、辺境伯家の直系に近い血筋の人が後添いになったという事かしら?
ベルトルトの婚約者となるビアンカ嬢を社交界デビューさせるため、ほどなくしてビアンカとダニエラ親子が王都へとやって来る事になったの。
「マルサラの地も大変な事になってはいるのですが、戦後の復興は男の役目だから言ってくれて、私は娘と一緒に王都で人脈を広げるようにと言われて、送り出される事になったのですのよ」
ピンクブロンドの髪をゆるやかに結い上げ、純白のブリオーを着たダニエラ様の姿は神々しく見えたわ!鮮やかな髪色は貴族の象徴、祖先である竜人の鱗の色が子孫にも反映されていると言われているのだけれど、ピンクブロンドの髪色だけはこの世の中に存在しないと言われているの。
二百年近く前に現れた聖女がこの髪色だったと言われているけれど、滅多に見ない髪色である上に、神々しいまでに美しい親子の姿に目眩がしそうになった。
ビアンカさんは17歳かしら、18歳かしら、この年齢のお子さんがいるのにシワの一つもないスベスベのお肌ってどういう事なのかしら?
「あのね、私、ダニエラ様にお会いしたら是非ともお尋ねしたいと思っていたの!」
ダニエラ様は悪戯っぽい笑みを浮かべると、
「ええ、ええ、私もその事についてはベルトルト様にお聞きしておりますよ?フィリッパ様にお渡し出来るように美容液もいくつか持ってきたんですの」
と言って、侍女が並べた茶器の横に、可愛らしい花細工が施されたピンク色の小瓶を置いてくれたのだった。
貴族女性の中で美容に悩まない人なんて絶対にいないわ!
顔のシワの事で相談したい〜なんて言うのは恥ずかしいから、常に悩まされる頭痛について相談したい、なんて暗号みたいに言い合って、ダニエラ様親子を呼んでお茶会を開き、ダニエラ様特製の美容液をお友達みんなに分けてもらう事にしたの。
驚く事に、小瓶に入ったピンク色の液体を毎日お肌に塗り付けていくと、目尻の皺も、口周りのたるみも、あっという間になくなってしまうのよ!
貴族女性の間で大人気となったダニエラ様の噂を聞きつけて、チェレスティーナ王子妃様まで興味をお持ちになられたみたいで、私が仲介をして紹介する事になったのよ。
小皺なんかの悩みはチェレスティーナ妃殿下にはないけれど、なかなか授からないお子について相談されたみたいなの。ダニエラ様は子供を作りやすくするお薬を処方されたそうで、お陰でチェレスティーナ妃殿下はすぐに懐妊し大喜び。私たちはダニエラ様の事を聖女様とお呼びするようになったの。
聖教会もダニエラ様の功績を十分に理解しているようで、王家にも承諾してもらうような形で聖女として認定するつもりでいるのですって。
そのダニエラ様の娘となるビアンカがベルトルトと結婚して義理の娘となるのだから、夫だって大喜びするはずよ!
帝国との戦後処理をようやく終えた夫が侯爵家に帰って来たのは、ダニエラ様が王都に来てから三ヶ月ほど経った頃の事で、夫は嬉しそうに今まであった事を報告する私を見下ろすと、
「美しい?今のお前が美しいだって?」
そう言って、手にした鏡を私の前に持って来たの。
目尻の小皺もなくなり、肌もツルツル、見た目にも十代に見えるんじゃないかと思えるほど若返った私に対して、どういうつもりで鏡を向けるのだろうと疑問に思ったわ。
顔色が悪い夫は、私に鏡を見ろと言って突きつけるから、美しい自分の顔を見るために鏡を覗き込むと、私は気持ち悪くなって思わず吐きそうになってしまったの。
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