絶望の果てにある力 3
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「僕の番、僕の番、ああ、僕の番はあったかくて柔らかくて、何て甘い匂いがするのだろう」
馬上で私を抱きしめながらエリアさんが頬ずりをしてくるので、柔らかいおっぱいは背中に押し付けられるし、エリアさんの頬はスベスベだし、鮮やかな金環が浮かぶようになった琥珀色の瞳は美しいし、
「可愛いお人形さんを抱きしめて可愛がるようなこのテンション、愛娘を抱っこして可愛がるようなそのテンション、人がいなくなっても尚、続けるその心意気が良くわかんないですよ!」
馬の上で抱きしめられたままの私は、エリアさんの重みに耐えかねて自分の体が押し潰されそうです。
オストラヴァ王国や、今は滅びたロンバルディア聖国、パヴィアナ山脈を越えた向こう側に広がるパナマ公国の人間は、竜人の子孫とも言われています。
そんな土地柄ゆえの考えだと思うのだけれど、祖先に根強く憧れる傾向にあるため、竜人の特性でもある生涯ただ一人だけの伴侶、番の存在に対して、憧憬にも似た思いを抱いているわけです。
番っていうのは魂の伴侶とも呼ばれていて、より優秀な子孫を後世に残すため、同性同士で生まれ出るという事はないのだそうですよ。
ありえない事だからこそ、同性でありながら番だと言い出す場面は良くあるもので、
「ごめんなさい、私の番はこの子だから私は貴方とは一緒になれないの」
と、容赦無く相手を振りたい場合に、同性の友人を番だと言って連れてくる場合が度々あるそうです。同性を番だと言い出すほど、貴方の事は対象としてあり得ない、絶対に交際に発展することはないから宜しくねという合図であり、
「そうか、すでに番が居るなら仕方がない」
と言って男の方もあっさりと諦めるという構図が出来上がる。
いくら遠い祖先に竜人がいるとは言っても血が薄くなりすぎて、今の時代に本物の番など見つけられるわけないし、連れて来れるわけがないんです。ああ、俺の番!とか言い出した上に結婚して、その後、浮気しまくる男を山のように知っていますからね?
そういう事もあって、異性の番を連れてくるよりも、同性の番を連れてきた方が洒落が効いてて面白い、という事で話を終わらせる事が出来るんですね。
嫁になってくれと申し出てくれたダミアンさんに私を番として紹介する理由は理解できますよ。女性だけど女性が好きといった性癖を晒してダミアンさんを退けたエリアさんだけど、更にダミアンさんを諦めさせる為に、同性の番を利用したという事でしょう。
だけどね、なぜ、人に会うこともない馬上の人となった後も、私の事を番、番と呼ぶのでしょうか?私の知らない間に、エリアさんの何かの楽しいスイッチが押されてしまったのでしょうかね?
「エリアさん、私、あなたが女性だから番呼びを許しますけど、もしも男性だったらぶっ殺している案件だと思いますよ」
馬に揺られ、後ろから抱きつかれ、押し潰されそうになりながら私は文句を言いました。
「私、自分の事を番って言われるのが大嫌いなんです!」
「まさか!君は今まで誰かに自分の番だって言われた事があるのかい?」
「そのまさかですよ!」
私の全身は怒りのあまりブルブルと震えてきました。
「私が辺境伯の娘だっていう事は説明したと思うんですけど、ノストラトの戦いで多くの親族を亡くした私の元に、入婿として王都からアバッティーニ侯爵家の次男が送られて来たんです。彼は私の事を自分の番だと言い、甘い声で近づき、愛を囁いて来たんですけど、私みたいな不美人を都会から来た侯爵家の令息が本気で相手にすると思います?」
「君は不美人じゃないよ!」
美人すぎるエリアさんに真剣に言われても何も嬉しくないですよ!
「美人、不美人は置いておくとして、彼としてはさっさと私を孕ませたら、王宮に出仕するとか何とか理由をつけて王都に戻るつもりだったそうなんです。彼は自分の侍従と笑っていましたよ。今時、番だって言われてあれほど喜ぶ女なんて見た事がないって!」
本当にクソみたいな奴だよ。
そんな奴を送り込んできた奴らは滅びれば良いと思う!
「今の時代『番』というものがどういう扱いなのか理解していますよ。憧れが強いけれど、今ではほとんど存在しないもの。洒落や冗談で語られるばかりのもので、男にとっては女性を口説くためのキーワードの一つに過ぎない。田舎育ちであの時は知らなかったけど、今では十分に理解しています。番、それは戯れの言葉、洒落で番呼ばわりされるのは分かっているんですけど、正直言って反吐が出そう。エリアさん相手とはいえ、もうそろそろ限界が来そうです」
『番』それは私にとって呪いの言葉、過去の恥辱と絶望にも似た後悔を思い出す呪文のような言葉なのだから、金輪際、私の前で言わないで欲しい。
「ごめん、嬉し過ぎて君の考えまで思い至らなかったよ」
甘えるように頬擦りする、エリアさんの後悔が滲んだ色気ある声にゾクっとする。
「あのね、エリアさんは、女の子が女の子にラブする、本当に、本当にそういった系の人じゃないんですよね?」
「僕は同性を決して愛す事はない」
「そうですよね?そう言っていましたよね?」
別に女の子が女の子にラブする事に忌避感はないんですよ?お好きな者同士、どうぞ御勝手にやってくださいと思うだけ。だけど、それが自分に向けられるとなると、ちょっと違うだろうと思いエリアさんに確認したところ、エリアさんは異性が好きだと強く断言されていた。
「ところで、そのアバッティーニ家のクソ野郎含め、どうして君が辺境伯領を逃げ出す事になったのか、そこの辺りの詳しい話を教えてくれると助かるんだけどね?」
ベルトルト様はエリアさんの中でクソ野郎になったんですね、まあ、本当にクソ野郎なんでどうでもいいんですけど。
ラルゴ草原は、徒歩では丸三日、歩きなれていない人では五日かかると言われています。今回は馬を利用しているので、急げば一晩野宿するだけで聖都には到着する事が出来るでしょう。
馬を走らせる私たちからは、聖都に向かわずに引き返してくる巡礼者の姿がよく見えた。
この十日間の間に、パルマ公国からの進軍の話は王国中に広がった事だろう。聖教会が王国を裏切り、聖女復活のため誘拐していた女たちを生贄として捧げていた(幽霊談ゆえ本当かどうかはわからないけども)という話も同時に流れているため、巡礼者の間には激震が走ったに違いない。
それだけ、巡礼者の間では誘拐が大きな問題となっていたのだから。
「ただ草原を進んで行くのも味気ないし、愚かな私の話をしましょうか」
思い出したくもない物語、子供に刺され、あの場に置き去りにされた母の亡骸はどうなったのか。
母を見捨てた私の物語は、口から吐き出すにはあまりにも辛すぎるけど、
「心の中にしまっておくよりも、いっそ話してしまったほうが私の心は楽になるかもしれないです。私は、聖都で幽霊が見えなくなる古代遺物を手に入れて、アルバリオ湾から船に乗って新大陸に移動するのですから、辺境伯の跡取り娘が、本当はどんな目に遭ったのか。大陸に残るあなたに真実をお話しするのは、置き土産として洒落ているかもしれないですよね」
私はエリアさんの方を振り返って笑みを浮かべました。
「エリアさん、あなた、アンドリアの街でも、カタンザーロの街でも、幹部級の王宮役人とこっそりやりとりしていましたよね?つまりあなたは、戦士として王家にも雇われるほど優秀な方なんだと思います」
ああ、気分が沈む、沈没したい、地面にのめり込んで沈むか、海の藻屑となって消えたい。
そんな状態だけど、私は今も生きていて、ここから必死に逃げ出そうともがいている。
「そうして、もしも王宮の偉い人と話をする機会があるのなら、王家に伝える術があるのなら、今話す私の話を伝えてください」
これは世界が破滅へと向かう序章の物語。
私は新大陸に移動するから、こんな世界、本当のところ、どうなったってどうでもいいの。
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