絶望の果てにある力 2
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女戦士は問題といえば大問題となる存在だったが、更にそれを超えた問題の人物といえば、本来は巡礼に向かっていたはずの紫水晶の瞳をした少女になるだろう。
アンジェラという名前の少女は、古代遺物と思われる異次元収納のずた袋の中から竜の角で出来た剣を取り出して、
「貴方たちが封印の一族だっていうのは、幽霊から聞いて知っています。それから、ロンバルディアでの生贄の効果もあって、近々、パヴィアナ山脈となった長龍が目を覚ますと思われます。竜の感覚から言っても、すでに時が経ちすぎているという事もあって、おそらく復活した長龍は屍の龍として蘇る事でしょう。屍の龍だったら案外始末は簡単だから、この剣で即座に再封印しなさいって言っていますね」
と言って、みんなの前に7本の剣を並べたのだった。
「位置は龍星座と同じ並びにしてくれ、力あるものでやれ、間違いは犯すな、以上だそうです」
「む・・む・・無理―〜!」
と、領主は叫び、私は頭を抱え、慌てて息子や、カタンザーロの後継者となるジュディッタ様を呼びに人をやったのだが、本館の応接室は今も混沌の状態が続いている。
「お父様、文句を言ったって仕方がないですわよ。伝説の長龍が蘇るというのなら、私たちはご先祖様に言われた通りに封印の儀をやらなければなりません。ジバオン、ダミアン、私たちに力を貸してくれますね?」
私たちは騎士の礼をして跪いた。
ホラー好きのお嬢様が今の時代に生まれたのはこの時の為だったのかもしれない。
「地図を用意して、竜星座と同じ並びというのなら、三名ほどは山脈の向こう側に移動しなければなりません。敵地に乗り込む事になるけれど、誰を選べば良いかしら」
「俺と親父とサムエルでその3箇所はやりますよ!」
息子は堂々と胸を張って答えたが、あっさりと私と自分の弟を巻き込む事にしたのだな。
「封印を絶対に成功させる為には、パルマとの戦争よりも、こちらの方に戦力を割かなければなりません。私とお父様で頭、首の部分は押さえ込む事にしますが、胴体部分を抑えるのに、貴方たちが失敗しては元も子もないのです。特に山越えには精鋭部隊を連れて移動しなさい」
「そうするとカタンザーロを守る戦力はどうなる?俺達ならどうとでもなるから、単身での移動で何の問題もない!」
「甘えた事を言わないで!」
胸を張って答える息子に向かって、ジュディッタ様が歯をギリギリさせながら吠えたのだった。
「パルマ公国はロンバルディアの信徒どもと手を組んだのよ!ロンバルディアの信徒どもが何を目指していると思う?聖女の復活にかこつけた長龍の復活よ!」
驚き固まる息子の分厚い胸を、ほっそりとした指先で叩きながら燃えるような瞳でお嬢様は息子の顔を睨み上げた。
「封印の地に刺客を送り込んでいるかもしれない、どうあったって私たちの邪魔をしようとしてくるかもしれない。尾根の向こう側は敵の陣地、すでに封印の場所は敵軍によって押さえられているかもしれない。最悪の場合は敵を切り開きながら封印を行わなければならないの!それを貴方一人で出来ると思っているの?」
唖然としていた息子の顔が、みるみる間に赤くなる。
息子よ、流石にそれはちょろすぎないか?女の趣味が丸わかりだぞ?
「あのですねえ・・・」
領主様はオロオロし通しだから、お嬢様を後押しするためにも、私がここで進言しよう。手を挙げた私は、皆の注目を浴びながら口を開いた。
「すでにエルアルディオ殿下が来ているから、カタンザーロの守りは最低限で良いと思います」
「はあ?」
「嘘でしょう?」
「いや、嘘じゃなくて、すでに殿下はカタンザーロを後にしてラルゴ草原に入ったから、殿下を追って王国軍が動くことになるでしょう」
「ええええええ!」
「殿下の背後には常に王国軍の影あり、斥候を飛ばしましたが、すぐに王国軍を確認して戻って来るだろうと確信しております」
「そ・・そ・・それじゃあ、私たちはとりあえずの所、パルマ公国との真正面からのぶつかり合いは王国軍に任せて、封印一本に絞って頑張れば良いという事か?」
領主様は嬉しそうに声をあげたがそうはいかない。
「山を降りてきた部族たちが争いを起こさないように仕切らなければならないし、封印の儀を行う際には絶対に邪魔が入らないように守備を完全な物にしなければならないです。しかも1番の問題は、いつ、封印の儀を行うことになるか分からないから、私たちの待機は長くなるだろうという事でした」
「なんだって!」
「嘘だろう!」
嘘だろうって言われても仕方がない。
遠く離れた7箇所で行う封印の儀、しかも同じ瞬間に行わなければ意味をなさない。少女曰く、そのタイミングは先祖の何かが教えてくれるだろうと言うのだが、その先祖の何かが一体何なのかが分からない。
「実際に山岳部では地震が続き、怯えた山岳の住民はこちらの呼びかけに答えて次々と山を降りています。伝説の〜、神話の〜程度にしか考えていなかった事ですが、先祖から代々託された祭事を、今、私たちの代で完璧行わなければ屍の龍が蘇るのです」
「もう腹を括ろう、もしも失敗したらあの少女のように新大陸に移住すればいいんだと思えば、気も楽になるってものだよ」
カタンザーロの領主であるティモテオ・アメンタはそう言って用意された椅子に腰掛けると太った短い足を組み直しながら言い出した。
「封印の頭の部分は私がやる、首はジュディッタ、胸はダミアン、胴体部分はジバオン、サムエル、私の叔父のマカーリオと従兄弟のミケーレに尾の部分を任せる。祭事が手に余る場合に備えて二人体制とし、予備にあたる者については追って知らせる。先ほども話に出た通り、腹の3箇所は尾根の向こう、敵地の中での儀式となるため、一部隊精鋭三十名を連れて移動しろ。輜重は十分に用意しろ。特に斥候に長けたものをそれぞれ十名は最低でも連れて行け。誰を連れて行くかは各自に任せる。もしも敵軍が攻め込んできたとしても、最悪、カタンザーロは捨てる。屍の龍が蘇って世界が滅びるくらいだったら、一時、パルマの奴らに我が地を明け渡す事になったとて、ご先祖様も文句は言うまい」
領主の言葉に皆が力強く頷いた。
「奪われたら奪い返せばいいのよ」
「我ら聖国人の末裔、しぶとく生き残る我らの姿を見せつけてやればいい」
ああ、平穏に終わると思っていた自分の時代にこんな事が起こるとは思いもしない。
今では本館の屋敷に悲鳴は轟かない。
そうして、ふと気がつけば、ため息ばかりが響き渡るのだった。
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