絶叫が轟く恐怖の館にて愛を語る 5
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「君は僕の番だ」
背中まで伸びる銀色の髪を後ろ一つに結えているベルトルト様は、多くの武人を輩出するアバッティーニ侯爵家の出身なだけあり、背が高く、逞しい体付きをしていた。冷酷な雰囲気を醸し出しながらも、その整った顔立ちゆえに、王都では年頃の淑女に絶大な人気があったらしい。
侯爵家の次男であるベルトルト様は、一時は一人娘しかいない公爵家の入婿となる話もあったという事なのだけれど、帝国との戦いで、世に隠れなき武辺者と評された叔父や、従兄弟たちの死によって、著しく戦力を損なう事となった辺境伯領へと婿入りする事となったのだろう。
オストラヴァ王国では血筋を守る事を第一と考えるため、爵位は女性であっても継ぐ事が出来る。だから、辺境伯の一人娘だった私は後継者として育てられてきたし、帝国との戦争にも父に代わって参加している。
辺境伯となる父は、社交に出ればいつだって貴族たちに取り囲まれ、既婚、未婚に関わらず、数多の美しい女性たちに愛を囁かれる等と言われるほどの美しい顔立ちをした男だったけれど、武辺についてはからっきし。
戦う為に剣を持つよりも、愛人に手紙を送るためにペンを取ることを良しとするような男で、王都で社交をするには問題ないが、辺境をまとめるにはあまりにも無力。その為、内政は母が、国防は叔父が勤めて何とか回しているような状況だったわけです。
派手な顔立ちではないけれど、無能な当主を支えるにはこれほど有能な人はいないと周囲から言わしめるほどの母は、一人娘である私を身籠った後は、父とは最低限の交流しかしないような状態となり、幼い時から私は、自分の父に名前を呼ばれた事もなければ、頭を撫でられたこともない。王都の偉い人が辺境領に来た時には家族として出迎えるため、その時に顔を見るという程度の間柄だったわけです。
父に求められるのは後継者を作ることだけ、後はご自由にという感じだったので、外に幾人も愛人を持っているような人ではあったけれど、全ては遊びという感じの軽い付き合いだったらしい。
後継者である私が年頃となってからも王都に顔を出さなかったのは、帝国との衝突が続いていたから。私の従兄が私の夫となる予定だったから、私自身が王都まで出向いて行って、辺境伯に婿入りしてくれるような人物を探しに行く必要もなかったわけです。
クシャダス帝国軍とオストラヴァ王国軍との最後の決戦とも言われたノストラトの戦いで、叔父とその息子たちが死ぬような事がなければ、私が今いる場所を捨てて、新大陸を目指す事にもならなかっただろう。
ノストラトの戦いで多くの親族を無くす事になった辺境伯領では、直系の血族が当主である父と私だけになってしまった。
そのため、辺境は国防の要とも言える場所であるだけに、私の夫となるように侯爵家の息子が送られて来たのでしょう。
戦で疲弊した領地を回復させるため、奔走する私の姿は酷いものだっただろう。王都で蝶よ花よと可愛がられ、綺麗に着飾る淑女とは遠く離れた存在である私に幻滅しただろう。
だけど、ベルトルト様は、私の手を握りしめながら言ったのです。
「君は僕の番だ」
竜神の血を引くと言われるオストラヴァ王国の王家や貴族は血筋をとにかく重んじる。竜は生涯己の伴侶しか愛さないと伝承で伝えられる事もあり、伴侶である相手を番として認める事は、生涯その人しか愛さないと宣言したようなもの。
田舎者の私は、竜人の血を引く事に誇りを持っていたのは遥か昔の話であり、貴族の若者たちは何かと『番』を引き合いに出して女性に愛を囁くのが流行の一つとなっていたなどと知りもしない。
今まで私を守ってくれた叔父や従兄弟たちの死を悲しむばかりだった私は、ようやっと、私だけを守ってくれる存在が現れたのだとぬか喜びしたのだけれど、
「父親の方に似ればまだ食指もが動くものを、母親の方に顔立ちが似ているというのだから、興味の一つも湧きようがない。こうなったら、さっさと孕ませるだけ孕ませて、王家に仕える事を理由に王都へと住居を変えよう。なあに、後継者として辺境の泥に塗れて働くのは好きだろうから、王都までくっついて来よう等とは言い出さないだろうさ」
と、王都から連れてきた侍従に話している声を聞いて、体が凍りつきそうになった。
「番と言われて喜ぶ女を始めてみましたよ」
「ああ、田舎は純血主義が根強く残っているみたいだからな、一生涯、ただ一人の伴侶なんてものに夢を描いているんだろうさ」
冷たく笑うその姿は、私に向けられる柔らかな笑顔とは全く違ったものに見えて、あれこそが彼の本性なのだと気がついたとしても、この結婚は王命によるもの。マルサラ辺境伯の直系の血筋は父と私だけ、他の誰かに後継を譲るから結婚から逃れる等という事が出来ようがない。
ベルトルト様は私の腰を引き寄せ、愛おしげに見つめ、私を番と呼び、愛を囁き続けたけれど、その瞳が真実私など映していないのは良くわかっていた。
だったら、どうにか出来ないものか。
私と子を作るなどという無駄な行いはせずに、彼が望む王都へと無事に返すにはどうしたら良いものか。
そう思い悩んでいる間に、父が真実の愛を見つけたと言い出して、ダニエラとビアンカ親子を領主館に連れて帰って来たのだった。
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