絶叫が轟く恐怖の館にて愛を語る 4
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「誠に申し訳ありません!」
ジバオンが平謝りに謝り出したけど、僕は一向に気にならない。
この巨乳を前にして、一発やらせろと言い出す男は、それこそ星の数ほど存在する。百年近く停戦を続けていた隣国パルマとの戦いが始まると言うのだから、この巨乳を拝み、地べたに這いつくばりながら懇願し、一晩の嫁にと求める気持ちも良くわかる。良くわかるが、それに応えるつもりは死んでも無いけれど。
それよりも僕は、ダミアン団長の虚しい失恋よりも、目の前に広がる異常現象の方が気になって気になって仕方がなかった。
冗談半分、本気半分で後ろからアンジェラに抱きついたところ、僕の目の前にはファンタジーが展開される事となったのだ。
壁の隙間という隙間からドロドロとした黒いものが溢れ出し、おぞましくもあり、うっとりする程の屍の塊が、ホールの隅の方から這いつくばるようにして進み出る。
僕らを餌食としようとしているのか、開いた口には数本の歯しかなく、腐った舌がネトネトと動いている様までよく見えた。
『あれれ〜?ようやく覚醒が済んだのかな〜』
「は?」
『親も先祖返りしているから、その子も同様かと思ったが、なかなか覚醒しないものだから、期待外れだったかな〜と思ったんだけど、番に触れる事で、ようやっと覚醒したんだね〜』
純白の貫頭衣を着た少年は、腰のあたりを金色の紐で縛り付けている。蔓と皮を編んで作られた編み上げのサンダルを履く少年は、金色の自分の髪の毛をボリボリと掻きむしりながら僕を見上げる。
瞳孔が縦に変形していて、瞳だけ見れば爬虫類と類似しているように見えた。
『爬虫類と類似って失礼じゃない?我が子孫じゃなかったらぶっ殺している案件だよ?』
この少年は幽霊なのだろうか?僕の思った事まで理解しているのか?
「ああー〜・・あなた様はやっぱり彼の方という事ですよね?」
ジバオンにも少年の言葉が分かるようで、喜色満面となって僕の方を振り返ったけれど、鋭い僕の視線を受けて黙り込む。
「彼の方って何処の方なんですか?」
僕に後ろから抱きしめられたままのアンジェラの疑問に、僕はキッパリと答えた。
「大事な跡取り息子を瞬殺するように失恋させた、悪虐非道の女戦士といったところだろう?」
僕は後ろから彼女を頬擦りしながら囁いた。
「しかも、君に抱きついた事がきっかけで、僕にも幽霊が見えるようになったんだ」
「えええ?」
「最高のファンタジーだよ!幽霊、幽霊、幽霊、この世の中には溢れるほどの幽霊で満たされているのだね!」
腐ったものから、何かの塊となって怨嗟の声を上げるものから、目玉の塊まで。形のあるものは、パルマ人、ユケイラ人、顔の濃いものから薄いものまで、様々な時代の、様々な階層の人々の姿が目に映る。情報量が多すぎて頭痛がしてきた僕が彼女から離れると、ぱったりとその幽霊の姿が見えなくなってしまったのだ。
「嘘だろ?離れると見えないだと?」
すぐさま彼女の手を取って握りしめると、目の前に再びオカルトで染め上げられたファンタジーの世界が広がっていった。
◇◇◇
何処をどうしてどうやったから、こんな事になったのかが私には良くわからないんですが、どうやらエリアさんは私と視覚を共有しているような状態みたいですね。
「アンジェラ!すごい!すごい!君は常にこんな世界で生きていたんだね!羨ましいよ!」
エリアさんは興奮の声をあげていますが、これが羨ましいですって?意味がわかりません!
カタンザーロの領主館は歴史がありすぎる所為でもあるのでしょう、力がある霊がわんさか残っているんですよ。
ところどころ、思いの残滓みたいなものが黒い塊となって残っているのですが、それだって相当力があるものが残した物ですからね?巨大なパワーに引き寄せられた有象無象が多すぎて頭が痛くなってきます。
「この館の最下層にはパルメイラ帝国時代に建設された神殿が残されておりますが、山脈を超えて東から移動を続けて来たユケイラの民が神殿の上に自らの神殿を建設したのは、パルメイラ帝国人が信奉する神よりも、ユケイラの民が祀る神の方が位が上だと主張するためのものでした」
どうやらガイド役に戻るつもりみたいですね。
ジバオンさんは鍵束の一つを手に取ると、それを指先で弄びながら私たちの前を進んで行きます。
「ユケイラが崇め奉るのは鷹の神であり、炎を身に纏う鷹の神は神の使いともされています。自然の中には数多の神が存在し、その数多の神の使いとなる鷹を信奉するユケイラは多神教と言えるでしょう。オストラヴァ王国は太陽神を崇めている事にはなりますが、パルメイラ帝国も、今は滅びたロンバルディア聖国も、信じる神は今も一つ、燃え上がる竜の神を我々は信奉し続けているのです」
ホールを抜けて長い廊下を進んでいくと、その突き当たりは応接間となっており、歴代のアメンタ家の人々を描いたものと思われる絵画が壁いちめんに飾られています。
「目玉が動く応接間だな」
私の手を握りしめたままのエリアさんは興奮の声をあげていますが、絵画の目玉は動いていません。何処かの幽霊の目玉でも動いたのでしょうか?
幽霊のミストが壁の一番下の位置に飾られた、太った女性の肖像画の中に吸い込まれるようにして入っていくと、ジバオンさんがその絵画を横にスライドさせるようにして移動させます。
その絵画の後には隠し扉があり、ジバオンさんは持っていた鍵で扉を開けました。
扉の先は小さな空間となっていて、足元には人が一人程度通り抜けることが出来る程度の竪穴が広がり、木製の梯子がかけられていました。
この領主館は観光客を迎えて、オカルトツアーとか歴史ツアーを高額の参加費を設定して行っているという話は巡礼中に聞いていたので、おそらくツアーでは、下の階層に行くための別の道を利用しているのでしょう。
屋敷に轟わたる悲鳴は、地下水を利用して作った水車が軋む音だったりするんですよね。先ほどから聞こえてくるかすかな悲鳴も、辺境の領主館と同様のもののように聞こえます。
地下の第一階層はユケイラ人が作った神殿なのですが、彼らが祀る神は鷹なので、無数の鷹が天から舞い降りる壁画や、頭だけが鷹となっている人間が、神殿の祭事を行う姿が絵画として描かれており、とても美しい情景が松明の明かりに浮かび上がっています。
白漆喰の壁が何処までも連なる神殿は三階層あり、居住部分には昔の人が利用したと思われる竈の残骸が残されていました。
「地下神殿といってもユケイラ人の作り出した神殿地区とパルメイラ帝国の神殿の二つしかないから」
領主様の娘であるジュディッタ様の言葉から、私は地下に埋もれた神殿といってもそれほど広い物ではないと思っていたわけですよ。二つって言うから、二階層程度のもの、ちょっと行ってちょっと帰る程度のものだと思っていたんです。
だけどジバオンさんの説明によると、領主館がある小高い丘の部分、土に埋もれた部分全てが神殿を包み込んでいるというのですよ。
今進んでいる螺旋階段が、アホほど長いはずですわ。
移動距離自体は、辺境領から歩いてここまでやってきた私には問題ないんですけど、重圧が、周囲を取り巻く重圧が耐えられないんです。
霊の重みが物凄すぎる、これは神の威圧とでも言った方が良いのだろうか。
『アンジェラちゃん、昔々、魔法が物凄く発展していた時代は、現在に生きている人が後生大事に高値で取引している古代遺物を、ただの魔道具として補助的に利用していたの。だから、昔々の人々は、今よりもはるかに進歩した世界で生きていたのよ?』
パルメイラ帝国の神殿へと繋がる螺旋階段を照らすのは魔道具の一つで、動力源としている魔石が巨大な事もあって、半永久的に使えるのだとジバオンさんが教えてくれました。
幽霊のエリーナさんが言う通り、昔の方が進歩していたわけですよ、移動に松明とか必要ないですし。
ああ、頭痛い・・・目が回る・・もう歩けない・・・
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