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絶叫が轟く恐怖の館にて愛を語る  2

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 巡礼よもやま話に掲載されるほど、カタンザーロ領主館の怪談話は有名だ。


 巡礼地でもあるカタンザーロの現当主は地元の観光地化に力を入れており、オカルト好きや歴史好きの人間が満足するようなツアー(有料・物凄く高額)を組んで、領主館に入れるようにしたわけだ。


 この頃には領主一家は別館を住居としていた為、本館の方は周辺の貴族を歓待したり、パーティーを開いたりする時に使用するだけのもので、その管理費が頭を悩ませるほど高額となっていた為に、屋敷を巡る金持ち向けのツアーを開催して、それで屋敷の管理費を賄おうと考えたらしい。


 最初は貴族だけに向けて行われたツアーが、歴史研究家、オカルト好きが加わるようになり、さらには富裕層の平民身分の者も巡礼の途中で立ち寄って、王都に帰った際の土産話とするようになったらしい。


 僕自身も過去に二度ほどツアーに参加した事があるのだが、オカルトに特化したツアーだった為、夜中に悲鳴が響き渡る廊下だとか、夜になると真っ赤な血で満たされる井戸だとか、発狂をして皿を割る伯爵夫人の霊が現れる厨房だとか、気がつけば目玉が動いている絵画の間だとかを巡ったのだが、最高にエキサイティングな体験だった。


 地下にあるユケイラ人によって作られた神殿にも足を踏み入れる事が出来るのだが、更に地下にあるパルメイラ帝国の神殿は、崩落の危険があるため、領主に許された者しか入る事が出来ないだと説明を受けた事がある。


 酔狂な金持ちが小国家一年分の予算を積み上げて、是非ともパルメイラ帝国の神殿を拝見したいのだと申し出た事があるそうなのだが、

「崩落の危険は勿論のこと、万が一にも呪いがかかっては困りますから」

と、怖いような笑顔で領主が言い出したそうで、


「パルメイラ帝国の神殿には竜の呪いが掛かっているのです。血筋の者以外が踏み込めば、その体全てに鱗が生え、苦しみ悶え死ぬ運命にあるのです」

そう語り終えた後に、まるでタイミングを測ったかのように悲鳴が轟渡ったものだから、金持ちは積み上げた金を引っ込め、逃げるように屋敷を飛び出して行ったという。


 私も見学中に何度か悲鳴を耳にしたのだが、カタンザーロ領主館には確かに何かがあると断言できる。マニア垂涎のホラースポットだけに、この館に住み暮らしたいとまで思ってしまう。住み暮らさないまでも、ツアーガイドとして雇われてみたい。



「本日は私がお二人のご案内させて頂く事になります、本館を管理している責任者となるジバオンと申します。どうぞ宜しくお願い致します」


 僕は思わずパチパチパチパチと拍手をしてしまった。

 ツアーガイドは複数存在するのだが、ジバオンさんは特別な案内者となる。通常では行けないような場所もほんの少しだけ見せてくれるし、歴史にも造詣が深いため、歴史学者にも人気のガイドなのだ。


 重厚な扉を開けると、そこにはエントランスホールが広がった。

 ここはロンバルディア聖国時代に建てられた聖堂部分であり、人が縦に五人ほど並んでも届くことがないだろうと思うほどに天井が高い。

 側面を飾るステンドガラスから差し込む光に浮かび上がる石作りの床は、奥へと先導するように七色の道となって見えた。


「聖堂の側面を飾るのは創世記にも記される物語であり、竜の青年がある少女に恋をして求愛を示すのですが、横恋慕した女竜に恋人は殺されてしまうのです」


 ステンドガラスを見上げたジバオンは、早速説明を始めてくれたわけだ。

「聖国ロンバルディアがこの地に神殿を建てた際にこのステンドグラスを作ったと言われており、最古の部分は建設当初に取り付けられたもので、約五百年の歴史があると言われています」

 聖堂の奥に位置するステンドガラスの色は、手前ほど鮮やかな色合いを持たない。


「聖国が滅んだのが今から250年近く前の事であり、その際に、ほとんどのガラスが落下して壊れてしまいました。その後、オストラヴァ王国の領土となり、修復工事なども行われる事になったのですが、約150年ほど前に起こった聖女と魔女の戦いの際に、再びステンドガラスは落ちて壊れました。つまりは、今見ているガラスは約500年前、約250年以前、約180年前に作られた三種類のガラスで出来ており、その時代、時代のガラスの精製技術を垣間見る事ができる訳です」


 ステンドガラスは緻密な絵画で物語を作り出しており、そこには求愛された少女が殺される姿がありありと描かれていた。


「ステンドガラスに描かれている物語は500年前に作られた物と同じ、内容が変わる事はありませんでした。女竜は少女に姿を変えて青年の竜の愛を得ようとするのですが、うまくいく訳がありません。青年の竜は女竜を怒りに任せて殺してしまいますが、その切り割った屍の中から愛した少女が出てくるのです」


 なぜ、500年前の人間は、あえてこの物語を選んだのだろうか?

 聖堂とは宗教的に意味がある場所であるべきだから、時の為政者を称えるような物だったり、神を称えるようなものだったりするべきだろうに。


「助け出され、息を吹き返した少女は青年の竜と結婚式を挙げます」

 花嫁と花婿が微笑み合うガラスは約五百年前のものになるのだろう、嵌め込まれるガラスの枚数自体は少ないが、その色味は濃く、鮮やかな色合いを呈していた。


「結婚式のガラスの中で、花嫁の後ろ、柱の影を見てください。羨ましそうに覗いているのが誰だかわかりますか?そうです、殺したと思った女竜が羨ましそうに覗いているのです」


なぜ、宗教施設にこの題材なのだろう?恋のいざこざの末、幸せを勝ち取った者と敗れた者を美しいステンドガラスの中で並べる意味は一体なんなんだ?


「ホラーですね!」


 ゾッとした様子でアンジェラは説明をするジバオンの方を見上げた。


「つくづくホラーですよ!何で竜の腹を掻っ捌いたら愛した少女が出てきて、しかも、息を吹き返すところが理解できないし、殺したはずの女がこっそり結婚式を覗いているだなんて!ホラーですよ!ホラー!」


 小さく笑いを漏らすと、ジバオンはアンジェラを見下ろした。


 今のカタンザーロでは巡礼者そのものの頭巾をかぶっていると迫害を受けるので頭巾はかぶらず、彼女は新緑の髪を編み込むようにしてまとめて、ジュディッタ嬢の侍女に譲ってもらった青いコルセ(ワンピース)を身に纏っている。


 腰を締めるのは今まで使っていた鮮やかな組紐で、頭巾を止めていた組紐は腕飾りのようにして巻き付けている。

 彼女の紫水晶のような瞳に、年寄りとはいえ、男の姿が映ることを良しとする事が出来なかった僕は、彼女とジバオンの間に入り込み、


「そんなホラーじゃなくて、普段通りのオカルト話を是非とも拝聴したいと思うのだが」

話題を転換するようにして笑みを浮かべる。


「あのお・・ホラーとかオカルトとか、私はどうでもいいんですけど」


 僕の後ろからアンジェラが飛び上がるようにして声を上げると、


「そうだよ!親父のオカルト話はセンスが無さすぎる!俺がエリア殿に最高のオカルト話を教えて差し上げるんだからな!何で俺を無視して勝手に始めているんだよ!」


荘厳とも言えるエントランスホールに男の叫び声が木霊した。


二人がかりでも開けるのが大変な重厚な扉を蹴り飛ばすようにして開けたのはダミアン団長であり、父親を押しのけながら僕の前へとやってくると、


「我が女神!あなたに会えない間は俺にとって一日が千日に思えるほどの長さと苦しみでした!ああ、あなたに会えてどれほど俺が嬉しいのか、この心を開いてあなたにお見せできたら良いのに!」


跪き、僕の手を取って頬擦りし始めたのだ。


 これもまた、僕にとってはホラーといえばホラーだな。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

本日 この後、20時にも更新します

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よろしくお願いします!

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