絶叫が轟く恐怖の館にて愛を語る 1
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「これが『巡礼よもやま話』に載っていた悲鳴と絶叫が轟く恐怖の館かあ・・・」
「私が住み暮らしていたマルサラ辺境伯領の館は『首なし幽霊騎士の叫びが轟く恐怖の館』と地元住民には呼ばれていたので、王都から離れた場所にある領主館なんてものは、大概、『○○の恐怖の館』みたいな名前をいただく事になるんでしょうかね」
「首なし幽霊騎士の叫びが轟く恐怖の館だって?」
エリアさんの目がキラキラと輝きだす。
「首がないのに何故、叫び声が轟くんだ?そもそも、首なしというのなら、切り落とされた頭の方は何処に落下しているんだ?めちゃくちゃ気になる!気になって仕方がない!」
マルサラ辺境伯のオカルトの屋敷まで、幽霊の頭を確認がてら遊びに行きかねない勢いですよ。
私は今まで何度もこの悲鳴の館の前を素通りして来たのです、少年の霊だけでなく、様々な幽霊に、この館には行った方がいい、ちょっとこの館は他の館とは違うぞ?絶対に気にいるから、面白いから、ちょっと試すだけというように、散々勧誘されて来たわけですが、面倒くさくて無視していたのです。無視していたのですが、それだと先へと進めない。そう判断した私は遂に!カタンザーロ領主館に来てしまったのです!
「私が案内できれば良かったのですけれど、お父様からお許しが出なくてごめんなさい!」
馬車の窓から声をかけてくれたのは領主様の娘さんであるジュディッタ様で、亜麻色の髪の毛を緩やかに結い上げた美しい令嬢は、申し訳無さそうに私たちを見つめます。誘拐されて衰弱し、一時は意識が混濁していたお嬢様も、今では大分元気になりました。
「大丈夫です!ちょっと覗いてくるだけですから!」
私がお嬢様に向かって手を振ると、隣に立つエリアさんまで手を振って声をかけています。
「屋敷で新しいオカルトに出会ったら絶対に教えてあげるから楽しみにしていてね!」
ジュディッタお嬢様は実はオカルトが大好きで、複数の建物が縦に繋がるカタンザーロの屋敷に一番詳しい人物とされています。
屋敷の一番下の階層がパルメイラ帝国時代のもので、この古代遺跡を礎としてユケイラ人の神殿やらロンバルディア聖国の神殿やらが上に積み重なるようにして建てられている上に、パルメイラ帝国時代の建物とユケイラ人が建てた建物は、地下に埋もれているような状態となっているのです。
小高い丘の上にある領主館ですが、地上に出ているのはロンバルディア聖国時代に建てたものとオストラヴァ王国となってから改築を進めた建物部分で、それ以外は地下室的な感じで埋もれちゃっているんですって。
「地下に広がる迷宮みたいなものだろう!ロマンじゃないか!」
ジュディッタ様から内部を教えてもらったエリアさんは大興奮でしたけど、全く理解ができません。
地下に広がる迷宮かどうかは知りませんけど、地下深くまで潜るみたいなんですよね。途中で空気を入れるための空気穴みたいなものが掘られているので窒息する恐れはないらしいんですけど、歴代の当主は最下層まで行くのが義務として決められている事もあって、ジュディッタ様自身も、何度も最下層までは潜り込んでいたらしいです。
「何かあったらジバオンに言ってね!」
窓から手を振りながらお嬢様は馬車で別館の方へ帰って行ってしまったけれど、常時お嬢様に張り付いていた少年の霊(お嬢様の守護霊だと思っていた)がこちらの方へと歩いてくる。
その霊を見下ろしたジバオンさんは、白髪白髭の方だったのだけど、恭しく頭を下げながら言い出したのよね。
「ミスト様、お帰りなさいませ。これ程長い時間を外に出られるのは始めての事で心配しておりました。お嬢様をお守り頂いたこと、誠に有難うございます」
領主様であるティモテオ様が言うのには、元々あった複合施設みたいな状態の本館は隙間風が多いし、歴史があり過ぎて住みにくい場所だっただけに、別館を用意して移り住んでいるのだそう。なので、お客様が訪れた時には歓待の為に本館を使用する事もあるけれど、普段の生活は別館で行っているので、本館の方は必要最低限の人間で状態を維持しているような状態だったらしいです。
この本館を取り仕切るのがジバオンさんだと言うのですが、胸の開いたシャツとトラウザーズ姿の上に、床に引きずるほど長いシャウべ(ローブ)を身に纏っている彼の顔は、領主軍を率いるダミアン団長に良く似ています。
「あのぉ、貴方様は、ダミアン団長のご親族様か何かでしょうか?」
「さようにございます、ダミアンは私の息子になります」
ジバオンさんは恭しく辞儀をしました。
「代々、我が家はアメンタ家に仕えているのです」
「幽霊が、見えるのですね?」
私の問いかけに、
「一応、聖国人の血を引いておりますので」
と答えたジバオンさんはにこりと笑います。
領主のティモテオ様は聖国人の名前を出すだけで頭を抱えて嫌がるんですけど、この人はそんな感じがありません。きっと、オカルト好きのエリアさんと話が合うでしょう。
「この幽霊の名前がミストというお名前とは知りませんでした」
「正式な名ではございません、水のように弾けて消えてしまうので我々がそうお呼びさせて頂いているのですよ」
「幽霊の名前について語り合っている、僕も幽霊が見えたら良かったのに・・・」
エリアさんが悔しそうな顔をしていますが、知ったこっちゃありません。
誘拐犯を捕まえてから十日ほどが経過しており、今日、領主館で幽霊の用事を済ます事が出来たら、すぐに聖都に向かって出発する予定でいます。
パルマ皇国軍がやってきたら呑気に古代遺物探しをしている場合じゃなくなるので、今のうちに聖都まで移動をして、幽霊が見えなくなる古代遺物を回収して、アルバリオ湾に移動して、新大陸へ向かう船に乗る予定でいるのです。
屍の竜とか、聖女復活とか、呪いとか、国家転覆とか、世界の破滅とか知った事じゃありません!巡礼中の少女には荷が重過ぎます!
そんな訳で早々にオストラヴァ王国を脱出するつもりでいるのですが、この領地の領主様がブーブー言っていて物凄くうるさいです。
幽霊のアドバイスに従って、誘拐された娘が救出された事、その裏には聖都が関係していること。生贄の儀式によって溢れた呪いが信者や神官に降りかかったとして、叫びの館もあるカタンザーロにいては状態が悪化すると脅せば、我れ先にと巡礼者たちはカタンザーロを後にしました。
教会の神官や修道女たちもまた、あっという間に逃げ出して行ってしまいました。
そんな訳で、用意した天幕に移動させられたのは地元住民の信者だけとなり、神官、修道女たちは天幕には寄りもせずに、聖都に向けて旅立って行きました。
この頃にはパルマ公国からの侵攻があるかもしれないという噂が商人の間で誠しやかに囁かれるようになっていたので、巡礼者たちは聖都に向かわず、王都に戻るようになりました。
信者への食糧は街の人々が用意する事になった為、浮いた食料が軍に回される事になりました。ダミアン団長はニコニコ顔となっています。
エリアさんに求婚したダミアンさんですけど、パルマ公国軍に対抗するために軍を仕切り直す事になった事もあって、プロポーズが中断状態になっているようです。
暇が出来ればエリアさんを口説きに足を運ぼうとするんですけど、その暇が発生しない。そりゃ当たり前です、いつ、敵と衝突するかわからない状況に陥っているのですから。
軍がこの状態なので、街の有志を集めてサラハンの森への捜索を始めたのですが、森の中の整備された道を見て、みんなの怒りは爆発寸前となったようです。
なにしろ、巡礼者だけでなくカタンザーロの領民も誘拐されていたのです。しかも、誘拐されていた娘たちの生き血が聖女復活のための儀式に利用されていたというのですから許せる事ではありません。
本当に生き血が儀式に利用されていたのかどうかを私は知りませんが、領主様がそうだっていうのなら、みんなもそうなんだ〜って感じで信じてしまうみたいで、最近のカタンザーロの領民は聖教会に対して、物凄い怒りと嫌悪感を抱いているような状態です。まあ、こうなる事を予想して、神官や修道女の方々はさっさと聖都に帰ってしまったのかもしれませんけどね。
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