第六話「許嫁ライフのはじまりは」
「じゃあ、お母さんいってきまーす」
「はい、いってらっしゃい」
桜は靴をコンコンと地面にあてて履くと、後ろを振り返り母親に手を振る。
玄関を開けて、扉を閉めて前を向くと、そこには『許嫁様』がいた。
「うわあっ!」
「おはよう、桜。」
「なんで家わかったの?」
「ん?それは人間じゃないし、それに……」
「それに?」
「僕は常に君のことを一番に考えてるからね」
「──っ!」
昨夜同様、甘い愛の言葉をささやかれて、胸が高鳴る桜。
しびれる脳内で、必死に「学校に遅刻する」という正常な判断だけを手繰り寄せて歩き出す。
桜の歩みに合わせて隣を歩く三琴。
「ずっと昨日からあなたのこと考えてた」
「それは嬉しいな」
「でも、どうして私をここまで気にしてくれるの?」
桜は愛の言葉をささやく理由は照れ臭く、言葉を濁して聞いた。
だが、昨日の戦闘もそうだが、気にしてくれる理由は桜の中で気になっていたのは事実だった。
「僕は君を一目見たときから結婚してほしいなと思った。それに守りたいと思った。その言葉に従っているだけだよ」
『結婚』という響きに年頃の桜は気になってしまった。
だが、どうしてか心の底から喜べなかった。
「僕はあの中でおそらく何十年も、何百年も眠っていた。なぜ眠っていたのかわからない。だけど、君がその眠りから解放してくれた」
(そうか……何十年も……何百年もずっと)
桜は三琴の言葉に真剣に耳を傾けていた。
そして、桜の横から聞こえていた靴音が止まり、気配が後ろになったことに気づいて彼を見ようとするがそれは叶わなかった。
制服に身を包んだ桜の腕を、三琴が力強く引き寄せた。
桜が気づいた時にはすでに目の前が、彼の真新しい制服の胸元に独占された。
「君は真っ暗だった世界から、僕を引っ張り上げてくれた女神。天照大神のような、明るく僕を照らすそんな存在。そんな君が目の前にいて愛さずにいられるわけがない」
「み、三琴……くん?」
「三琴でいい。なんたって……」
三琴が桜の顔を覗き込むようにして屈み、頬をなでる。
「僕の大切な『許嫁』だからね」
いまだかつて、桜の人生でここまで甘い朝はなかった。
朝日に照らされて輝く三琴の黒髪をみて、桜は初めて会った時のことを思い出す。
『僕の全てをかけて君を愛するよ』
桜は顔を赤らめ、頷く。
「ごめん、ちょっと意地悪しすぎたかな? でもごめんね、もう離す気はないから」
三琴の獣のような飢えた瞳に捕らわれて、逃げられなくなる。
身体ごと三琴に捕らわれてしまったかのように、桜は全く動けなかった。
それが解けたのは意外にも、彼の次に紡がれた言葉だった。
「それに、君はたぶん霊力がある。それで鬼に狙われてる」
「霊力……?」
突然の話題の転換に桜は驚く。
(霊力って神聖な何かだよね……? そんな特別な力が私にあると思えない……)
「君からきちんと霊力の気配を感じる。だから鬼はその力欲しさに、君を襲いに来る」
「鬼が……でも今までそんなことなかったし……」
「たぶん何かしらのきっかけで潜在的にあったものが、発現したんだろうね」
にわかには信じられない情報を突きつけられて戸惑う。
「だから、僕に守らせてほしいんだ、君を」
胸の高鳴りの原因がわからずに、困惑する桜。
(鬼の存在が怖いの? それとも三琴が言う甘い言葉……?)
情報過多な朝を迎えた桜の心は、バランスを保つのに必死だった──
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