第五話「守るもの」
「じゃあ、お望み通り、君から先に殺してあげるよっ!」
桜を襲った少年が、今度は青年を襲おうとしていた。
長く鋭い爪が、青年に襲い掛かる。
(危ないっ!)
桜は危険を伝えようとするが、声が出ない。
しかし、鋭くとがった爪が、青年の胸元に届く前に、青年は身を翻して避けた。
「なっ!」
勢い余って地面に突っ込みそうになる少年。
大きな衝撃音を桜は予感したが、それは訪れなかった。
時が止まったかのように静かになる。
決着は一瞬だった。
「うそ……」
威勢のよかった少年は、青年が手にした刀によって身体を貫かれていた。
「──っ! そんな……まさか……じゃあ、お前が……」
少年が言葉を言い終える前に、青年は少年から刀を抜いた。
その瞬間、一気に少年は灰になって消えた。
「僕の大切な人には触れさせない」
少年は跡形もなく消え去った──
青年がゆっくりと桜のほうに近寄ってくる。
桜はプロポーズされたこと、ファーストキスを奪われたこと、そして今少年を殺したこと、様々なことが頭をよぎった。
青年は桜に目線を合わせるように少し屈むと、慈しむようにそっと頬をなでた。
「僕の前からいなくならないで。僕は君を守りたい。一生をかけて愛すから」
街灯に照らされて、青年の黒髪は美しく光り、顔がはっきりと映し出される。
はじめてはっきりとみた青年の顔を見て桜は思った。
(こんなにも綺麗な顔を私、見たことない)
切なくて甘く、そしてガラスのように繊細な印象を桜は抱いた。
目が離せず、桜は確かではなかったが、こう思った。
(一目惚れってこういうこというの?)
平気で人を殺せるという現場を見たが、桜は不思議と安心感を抱いていた。
「僕は三琴。この古墳の墓守であり、鬼を退治する者。人間ではない、墓に眠る者に作られた式神、精霊」
「鬼……式神……?」
聞き馴染みのない言葉に桜は困惑した。
「大丈夫、僕の全てをかけて君を愛するよ。そして何があっても君を守る。今はゆっくり休んで。また会いに来るよ」
桜はしばらくその場に立ち尽くしていた──
翌日──
「眠れなかった……」
「え? 桜、寝不足ー?気を付けなよ~お肌に大敵だからね~」
「うん……」
『また会いに来るよ』
そういって去った青年について、桜は一晩考え続けていた。
(一目惚れかそうでないかはわからないけど、不思議な体験だった……)
桜は思いにふけりながら、窓の外から校庭を眺める。
「はーい、席についてー」
担任の遠坂先生が、教室で騒ぐ生徒たちへ向けて声をかける。
「新学期もはじまったわけですが、今年も先生が担任でーす」
「えー!!」
さっそく嬉しい悲鳴と野次が飛び交う。
この科は歴史科であるため、学年に一クラスしかなく、担任は持ち上がりのケースがほとんどだった。
「だが、ここで嬉しいニュースがある。転入生の紹介をする」
桜は校庭から教室の前に目を移した。
「橘 三琴くんだ。仲良くしてやってほしい」
桜は驚いた。
そこには昨日の青年がいたからだ。
桜は自分の目をこすって何度も確認するが、間違いなく彼だった。
「橘です。一ノ宮 桜さんは僕の許嫁です。そのつもりでお願いします」
クラス中が絶句するその瞬間、桜も例外ではなく息が止まりそうなほど驚いていた──
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