救いの手?
「なるほどね…つまり君はこの国の人じゃないんだね?」
「はい…たぶん。」
男はひとりで少し考え、黙ってしまった。
(そりゃそうだよね…。やっぱり話さなきゃよかったかな…。)
だいぶ泣いてすっきりしたからか、男の表情がさっきよりもよくわかる。確実に困らせているのは確かだった。端正な顔にしわが寄っている。そしてその視線の先には先ほど先ほど運ばれてきた料理があった。まだ暖かく湯気を上げている。因みに運んできたウエイトレスは私が泣きじゃくっていることに若干引いていた気がする。
(断る前に料理来ちゃったなあ…。これって捕まっちゃうのかなあ…。)
そう思うとせっかくのおいしそうな料理にも全くそそられない。むしろ気が滅入ってきた。
「…うん、とりあえず食べようか。僕も何か頼むとしよう。」
「え?…でも…。」
「いいんだ、とりあえずお腹を膨らませないことには正しい判断なんてできやしないし。女の子を泣かせたままにはしておけないからね。ここは僕がごちそうするから一緒に食べよう?」
そう言うと男は優しく微笑んで、まだ伝っている涙を指ですくった。突然触られて、しかも色気全開の微笑みを向けられて思わず顔が熱くなった。
「…食べないなら食べさせてあげようか?」
「た、たべ、ますっ…。」
さっきよりも含んだ笑みを向けられて声が裏返ってしまった。すごくどきどきしたせいで涙も引っ込んだし、とっさに口にいれた何かのトマト煮のようなものはとてもおいしかった。
「おいしいっ…ふっ…う…。」
暖かいおいしさにまた涙が出てきた。
「ねえ…さっき知り合った男の言うことなんて信じるべきじゃないんだろうけど…、よければ俺と一緒に来ないかい?…仕事を探して、なんとか生活できるまで手伝うよ。」
男の申し出に言葉がつまる。
「でも…お金もないし…さっきの話、信じてくれたんですか?おかしいと思わないんですか?」
「正直まだ信じられないけど、君は本当に困っているんだろう?僕は顔が広い、住み込みで働けるところも知ってるから、何か手伝いができると思うんだ。…どうかな?」
この人とここで出会えてよかった。
知り合ったばかりで、信用するには危険かもしれない。
(…でも。…でも、この人と行く以外に私に選択肢なんてない…。)
「…お願いします…。」