表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

男との出会い


「ひ、ひとさらい?!」


もうなにがなんだか分からないけど、人攫いが危険なのは分かる。


「おう。なんでも子供から大人まで数人いなくなってるらしいぜ。ってそんなことよりさっさと宿でもなんでも探しに行ってくれ。」



車掌に急かされ、無駄に警戒心があがったまま言われた通りにヘイゼン通りの方から駅を出た。交通系IDが使えるのか心配だったが、そもそも出口はフリーだった。一応入口の方にはゲートが置かれていたがそちらも無人で入ったり出たりが完全に自由で驚いた。しかしもっと驚いたことがある。



外はもう夜だった。



会社に行くために朝、通勤電車に乗っていたのに乗り過ごしただけで夜になるなんてありえない。だが目の前に見える現実は、確実に夜だと語っている。そして景色もまるで違っていた。木製の建物多く、空いているお店を照らしているのは多くがランプだった。闇の中に炎の赤々とした輝きが幻想的で美しかった。でも今はその美しさが余計に非日常観を醸し出して辛かった。

 こんなことありえない、そう思うと同時にここは日本ではないのかもしれないという考えが浮かんできた。それでもこんな突拍子もないことは到底信じがたく、自分がどこにいるのかも分からない不安が足を重たくした。ここは日本のどこかかも、夢を見てるのかも、そう言い聞かせようとするが、むしろ違う世界に迷い込んでしまったと考える方が目の前の現実とは合っている。そう思えば進もうとした歩みも止まってしまう。

たまに異世界とか生まれ変わったら、なんて想像をしたことはあるけどそれが現実になるなんて夢にも思わないし、突然一人で放り出されるくらいなら今までの生活が続く方がましだった。



(どこにいけばいいか分からない…。どうしよう…。)



不安で視界が滲む。私を追い越していく人々は、みんな知らん顔して通り過ぎていく。こんなに困って途方に暮れているのに誰も助けようとしてくれない。なかには、ちらっと見てくる人もいたが私と彼らの服装があまりにも違っていたためか、それとも私がひどい顔でもしていたのか分からないがそのまま過ぎ去ってしまった。


 いつまでも立ち止まっているわけにはいかないと動き出してみたはいいものの、宿を探すにしても右も左も分からず、ただただ時間だけが過ぎていく。


 取り敢えず人の多い方へと足を動かすうちにテラスをかまえ、にぎわうレストランをみつけた。楽しそうな声と暖かい明り、それにおいしそうなにおいがした。朝食べたばかりだというのに空腹を感じた。それも昼も夜もまだ食べていないかのようなひどい空腹だった。入りたい気持ちと、入って大丈夫なのかという不安から店の前に棒立ちしていると、店内のウエイトレスらしき女性と目があった。女性は客だと思ったのか声をかけてきた。



「お姉さん、どう?うちの店はおいしいって評判ですよ!見たところ旅の人みたいだし、ご飯まだでしょ?」



 そう言われ引っ張られるままに店内に入り、カウンター席に案内されてしまった。飲み物は、注文はと矢継ぎ早に聞かれ適当に答えているうちにウエイトレスは行ってしまった。

去っていくウエイトレスの後姿を見ながら、ふとお金が使えるのか気になった。もしここが本当に日本ではないなら無銭飲食になってしまう。外国は日本よりも法律が厳しいと聞くし、まずいかもしれない。不安からきょろきょろしていると声をかけられた。



「お姉さん、ずいぶんそわそわしてるみたいだけど何かあったのかい?」



「あ、あの。そのお金が使えるか不安で…。」



そう言って振り返ると、そこには紺のシャツに紺色のスラックスを履いたとてもかっこいい人がいた。かっこいいというか大人の男!という雰囲気がすごい。服だけ見ればシンプルなのに彼が着ると色気がすごい。第二ボタンまで開けてるせいでなおさらだった。男は私の言葉を聞くと不思議そうに眼を開いた。



「お金? いったいどういうことかな。」



…やばい、なんていえばいいんだろう。そもそも私だってまだ状況がよくわかってないし、説明のしようもない。電車に乗ってたら見知らぬ世界に迷い込んでました~、なんて頭のおかしいやつ確定だし。



「えっと…私ここに来たのは初めてでお金が違うかもって…。」



心臓がばくばくいって声が震える。



「ふーん、ちょっと見せてくれない?」



男にそういわれ、財布の中を見せる。途端に男の顔が曇る。それを見てやっぱりお金が違うんだ、と確信する。どうしよう、お金が違うならさっきの注文はキャンセルしないといけない。それにこのままいくと宿さえ取れない可能性が出てきた。不安ばかり大きくなってついに涙が頬を伝った。



「このお金は…って、え?! ちょっとまって、どうしたの…。」



男が慌ててハンカチを渡してくれたが、私の涙はとまらない。このわけわからない状況で不安なのもあるし、今目の前には助けてくれそうな人がいる。いや、もはや男が助けてくれなくても構わない。話を聞いてくれるだけでもかなりありがたかった。


もう、変な奴と思われてもしょうがない。そう思い男に今までのことをすべて話した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ