パストーサにて
「おい!ねえちゃん!!終点だよ、起きとくれ!」
誰かにそう言われ、それまで夢見心地だったのがウソみたいにあっという間に覚醒した。
「…!! ごめんなさい!すぐ出ま……え?」
やばい、寝過ごした!そう思って慌てて起きてみれば目の前に広がっているのは、木造のレトロな車両だった。車内は壁に掛けられたランプによって橙色に照らされている。座席はまるで新幹線のように区切られていた。ちょっと前に九州のどこかの鉄道だか電車だかがこんな感じの内装で女子旅にピッタリ!とテレビで取り上げられていたのを思い出した。
「……ここは、いったい……」
あまりにも突然の出来事に言葉を無くして立ちすくんでいると、後ろから車掌らしき男性に声をかけられた。
「ねえちゃん、降りてくれるんじゃなかったのかよ。いったい何をそんなにびっくらこいてんだ。なんだ?もしかして乗り過ごしちまったのか?」
「…乗り過ごしたというか、その。……ここは何駅ですか。」
どう説明していいのか分からず、とりあえず一番知りたいことを聞いてみる。
「どこって、パストーサ駅だよ。本当に乗り過ごしちまったみてぇだな。パストーサがどこの駅かも分かってないんじゃねぇか?」
パストーサ??そんな駅、東京のどこにもなかったはずだし、それを当たり前みたいに言ってくるこの車掌も怪しいを通り越してもはや恐怖を感じる。自分がまだ寝ぼけている可能性を信じ思いっきり頬をつねるも現状は変わらない。
(本当に、いったいどうなってるの?パストーサってどこ?)
黙っている私を見て、車掌は乗り過ごして見知らぬ駅についてしまったことにショックを受けていると思ったのか説明し始めた。実際、ショックを受けているのは事実だったのだが、乗り過ごしたなんてレベルではないので車掌の説明もほとんど右から左に流れてしまった。
「……それでセイランの中心地の方に戻りてぇなら、明日の朝にまた電車がでるからそれまでどっかの宿で暇つぶしてくんだな。っておい、聞いてんのかよ。」
「明日ですか?!もうないんですか??」
「ないに決まってんだろ、何時だと思ってんだ。まったく…。」
「え、あっと…す、すみません。あ、あの…とりあえず、お、降ります…」
「おう、さっさとそうしてくれ。点検終わらせねぇと俺も帰れねえんだ。ヘイゼン通りの方から出れば宿もすぐに見つかると思うぜ。……あと、あんたトロそうだから言っとくけど、一人で宿探すときは気をつけろよ。
ここらじゃ、最近人攫いが出るって噂になってんだ。」