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8.疑念

 虹色の花は滅多に手に入らない、高濃度の回復薬が作れる貴重な素材だった。


 テオの背中に乗せられるだけ摘んで来たので、かなりの量を持ち帰ることができ、ルイスにとても喜ばれた。

 まさか、あんな魔物の魔素のおかげで咲いたとは、誰も想像しないだろう。

 他国からの防御や、魔物との戦いが絶えないこの領地では、回復薬は必須アイテムなのだ。


 早速、使用人達によって領内の専用施設に運び込まれると、回復薬作りが始まった。


 一輪だけは、こっそりとリーゼロッテの部屋に持ち帰り、自分のために飾ることにした。


(あんなに怖い思いをしたのだから……うん、戦利品だもの。いいわよね)




 それから、数ヶ月経ったある日――。


 ルイスが、宮廷に呼ばれた。


 リーゼロッテは首を傾げる。

 今は社交界シーズンではないのだ。そもそも辺境伯が領地から離れるのは、国にとってもリスクが高く、宮廷側の考えが理解出来ない。


 リーゼロッテは、あどけなさを装い、ルイスに探りをいれることにした。

 またテオに『大人の女』とか言われそうだが、背に腹は変えられない。一周目の見落としは、全て回収したいのだから。


 執務室へ向かい、ルイスに自分も寂しいから一緒に王都へ行きたいと言ってみた。

 無論、リーゼロッテは年齢的に、国王拝謁の儀も社交界デビューもしていない為、宮殿に入れない事は百も承知だ。


(それでも……)


 外からでも構わないので、宮廷を見てみたかった。


 ルイスは困った顔をして、リーゼロッテに連れて行けない理由を話した。子供にもわかるように……要点だけを。


「今回の宮廷行きは、国王陛下と聖女様に直々に呼ばれたのだよ。遊びではなく仕事だから、どうしても連れては行けないんだ。賢いリーゼロッテなら、分かってくれるね?」


「国王陛下と――()()()?」


「そうだよ、聖女様はこの国に結界を張って守って下さる、大切なお方なのだよ」


(聖女……。あ! 一周目の社交界デビューの日に会った、()()()だ……)


「お父様は、聖女様にお会いしたことがあるのですか?」


 コテリと首を傾げて聞いてみた。


「ああ、私は近衛騎士団の副師団長だったからね。聖女様は、まだお若いが御力も有り、無邪気で可愛いらしい方だったよ」


「へえぇぇ……。それは、さぞかし再会が楽しみですわね!」


「……リーゼロッテ?」


 少し刺のある言い方で、さっさとルイスの部屋を後にした。

 背後から名を呼ばれたが、ムカついていたので振り返らなかった――わけでは無い。

 拗ねたフリをしてみた。


 どうしても、ルイスについて王都へ行きたかった。

 子供の駄々にルイスが折れる筈はないが、僅かな可能性に賭けて試してみたのだ。

 そう……思い出してしまったから。


(あの聖女は、清い人間ではない――)


 初めて会った日。

 国王から見えない所で、聖女は嫌らしい目つきでルイスを見ながら媚を売っていた。

 しかも、ルイスから離れると、見栄えの良い顔立ちの側近を何人も侍らせていたのだ。


 それを目撃してしまった15歳のリーゼロッテは、聖女に嫌悪感を抱いた。


 この国では、聖女は特別な存在で大切にされている。

 国を守ってくれているのだから、当然のことだと納得していた――だが。


()()()()()()()()()()()ね)


 ――この国には、本当に結界が張ってあるのか?


 張ってあるならば、何故この辺境伯領がこんなに大変で、両親が死ななければならなかったのか。

 不信感が膨れ上がった。


(……聖女って、いつから()()()()を知られる様になったのかしら?)


 辺境伯領は随分と昔から、この国の防壁として大切な役割を担ってきたのだ。

 聖女がずっと結界を張っていてくれるなら、なぜ代々の当主が結界を張るのだろうかと疑問に思う。


(二重の方が安全だから?)

 

 しかも、リーゼロッテの父リカードの結界は強かった筈だ。

 簡単に結界内の領地に魔物が侵入するとは考え難い。

 

(その上、戦地や森には行かないお母様まで……本当に魔物にやられたの?)


 転生者としての記憶があるせいか、今のリーゼロッテは色々と冷静に考えられる。

 以前は、周りの大人の話を鵜呑みにして、悲しみや感情のままに行動し、違和感に気がつかなかった。


 しかも、この屋敷の地下には、百年もの間フェンリルがずっと閉じ込められていたのだから、魔物が寄って来る訳がない。

 それは、テオと森に行った時に証明されている。


(じゃあ……お母様は()()()()()()()()


 テオにも、当時の状況を訊きたいと思った。

 この屋敷内で、他の魔物の気配を感じたのかと――。

 



「残念だが……」


 とテオは申し訳なさそうな表情で言う。


「あの地下室は、特別な結界で囲われていたから外の状況はわからない。だからこそ、リーゼロッテが中に入って来るまで、その魔力にも気付けなかったのだ。私の魔力も、あの魔紐によって抑えられていたしな」

 

「……そうなのね。いいのよ、もし手掛かりが有ればと思っただけだから。ルイスお父様や、マルクにもっと上手く訊いてみるわ。それと……私が王都へ行く方法をどうにかして考えないと」


(絶対に謎を解いてやるんだから!)


 リーゼロッテは、可愛らしい顔に笑みを浮かべ、決意を新たに動き出した。

 

 

 

 

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