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68.湖で

 ルイスとの予定を合わせ、リーゼロッテは学院の休日に辺境伯領へ戻った――。


 早速テオの背中の上に乗り、ルイスとリーゼロッテは湖に向かうことにする。


 湖まで行くには、馬では到底無理な道のりだ。

 すると、珍しくテオがリーゼロッテ以外……ルイスも背中に乗せてくれた。

 もしかしたら、以前勝手にリーゼロッを結界の向こうに連れて行ったことを、テオなりに気にしていたのかもしれない。


 邸宅から湖へ直接転移しても良かったのだが……そうはしなかった。

 もしも、途中にヨルムンガルドいた場合に気付けないと思ったからだ。


 テオの案内で、ナデージュが住んで居たという場所にも寄ってみた。

 ただ、余りにも年月が経っているので、家はもちろん人間が居た形跡は全く無い。そこでも、ヨルムンガルドの気配を探したが、残念ながら何も感じられなかった。




「……これは、見事だな」

 

 ルイスは初めて見た、キラキラ輝く湖と虹色の花畑に目を奪われているようだ。

 この花のお陰で、辺境伯領では高濃度の回復薬を作れている。


 リーゼロッテは、如何にも騎士といったルイスの佇まいを後ろから眺めていた。


 一周目の時からずっと目で追って来た後ろ姿。

 本当は、ちょっとだけ歩み寄れば届いた背中に、手を伸ばすことが出来なかったのを思い出す。


(あの頃の私には、考えられなかったわ……。素直になるって結構難しいのよね)

 

 自分は本当は伝えたいのに、卑屈になって口に出せなかったり。相手の思いが分かっていても、素直に受け入れられなかったり。


(手遅れになってからじゃ、後悔しても遅いのにね)


 ループしたからこそ、そう思う。

 転生前にも「言わなくても分かるだろう」なんて一方的に言う人もいたが……そんなの、口に出さなければ相手には伝わらないのだ。


(相手の心を見ることが出来たら、簡単なのかもしれないけど……。でも自分のが見られてしまうのは、ちょっと嫌だわ)


 ヨルムンガルドと一周目の自分を重ね、つい感慨に耽っていたら……。

 不意にルイスが振り向き、リーゼロッテは一瞬心が読まれてしまったのかとドキッとする。


 勿論そんなことはなく――。


「さて。今回の件、詳しく教えてもらおうか?」とルイスは美しい笑顔で言った。


(あはは……目が笑ってないわ)


 湖がよく見える場所に、二人で並んで座る。


 貴族院で偽レナルドと遭遇したことから始まり、書庫の本の内容についてまで全てを話した。

 領地の最果での一戦については、少しだけ……いや、がっつりオブラートに包んで伝えたが。


 ジェラールが、王太子の生まれ変わりかもしれないことや、ヨルムンガルドに会いたがっていること。

 その話を聞いたルイスは、複雑そうな表情をする。

 しばらく考えてから、ジェラールが魔玻璃に会いに行く時は、ルイスも一緒に行くと言った。それは元近衛騎士としての矜持(きょうじ)だろう。


「あ、それから! 私の、転生前の名前を思い出しました。凛、桜坂凛です」


 ルイスは目を細め、リーゼロッテの頬に触れる。


「私にも、王太子の気持ちがわかるよ。リーゼロッテであっても、リリーであっても、凛であっても……全てがお前であり、愛おしいのだ」


 ルイスの言葉に胸が熱くなる。

 ドキドキしながらルイスを見上げると、ルイスもまたリーゼロッテを見詰めていた。


(きっと、王太子に愛されたナデージュも、こんな風に嬉しかったんだろうな……)

 

 いつの間にか、リーゼロッテとルイスの距離が近くなる。

 

 ――すると突然、ビューッと風が吹く。


 それに反応したのか、テオが何もない空をジッと見上げていた。まるで、そこに何かが居るみたいに。


(まるで猫ね。あ……もしかしたら)

 

 リーゼロッテは立ち上がると、テオが見ている方向に向かって大声で言った。


「ヨルムンガルドー! 一週間後、魔玻璃の前で会いましょう! 待っているわ!」


 突然叫んだリーゼロッテに、ルイスは目を見開く。


「テオ、リーゼロッテ。そこにヨルムンガルドが居るのか?」


『いや、分からない。魔力は感じなかった。何となく気になっただけなんだが……』とテオは言った。


「テオが気になったのなら、きっと。彼と初めて会った時、魔力を感じなかったのにいきなり背後に現れたのです。ですから、今も居たんじゃないかと」

 

 自信なさげに言ってみるが、リーゼロッテの呼びかけを、ヨルムンガルドは聞いていたに違いない。


 さっきの突風は、ヨルムンガルドがリーゼロッテ達の脇を通ったせいで起きたもの。

 何故なら、あれだけ風を感じたのに、花も揺れず湖も凪いでいたのだから。


 もし、最初からリーゼロッテ達の話に聞き耳を立てていたのなら――。

 手記にあった王太子の思いを知ってくれたかもと、ちょっとだけ期待してしまう。


(あれ……? でもどうして、私達が居なくなるまでジッとしていなかったのかしら? 動かなければ、だれも気付けなかったのに)


 と考え――ハッ!とした。


 あの場に居たのなら、ルイスとリーゼロッテのやり取りも見ていた筈。カーッと、顔に血が上った。


(だ、だから、あのタイミングで!?)


 気を利かせたのか、見るに耐えなかったのか。


(は、恥ずかし過ぎる……)


 一人でリーゼロッテはあたふたする。


「そ、そうだわ! せっかくだからお花を持って帰りましょう!」


 顔を真っ赤にしたリーゼロッテは、それを誤魔化すかのように、夢中で花を摘む。

 テオとルイスはポカンとしたが、リーゼロッテに促され、みんなで大量に花を摘むはめになった。



 そして、またリーゼロッテはルイスの腕の中におさまり、テオに乗って邸宅へと向かう。


(あ、帰りは転移すれば良かったんだ)


 それに気付いたのは、邸に到着してからだった……。

 




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