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67.ジェラールの意志

 ジェラールが魔玻璃に触れても問題がなければ、あの王太子の生まれ変わりだとハッキリするだろう。

 つまり、魔玻璃である凛子に認められた人であると。

 

「テオの言うように、魔玻璃に触れることが出来たとして――今迄もあの洞窟に何度か足を運んだが、特段何も起こらなかったぞ?」


 そう、最初のループを除いては。


「確かにそうですね……」


 リーゼロッテと違い、ジェラールが魔玻璃に近付いても光が強まるようことなど無かった。


「だが主人よ。何か変化が起こるのは、来るべき時……全て意味のある時期ではないだろうか? リーゼロッテの場合は、徐々に記憶と共に魔力が増えている。ジェラールが本当に王太子の生まれ変わりなら、それを感じた今こそ魔玻璃に会いに行くべき時なのではないか?」


 リーゼロッテは頷いた。


(私はテオの意見に賛成だわ。でも、それを決めるのはジェラール殿下自身じゃなければ……)


「ジェラール殿下のお気持ちは? 私が一緒なら結界の心配もいりません」


 万が一、ジェラールが魔玻璃に触れたことで結界に亀裂が入ったとしても、今のリーゼロッテの魔力を持ってすれば何の問題もない。

 向こうの世界から魔獣がやって来ても、リーゼロッテに牙を剥くこともないだろう。寧ろ、懐かれ「魔王、魔王」と騒がれる予感しかしない。


(それはちょっと困るけどね)


 それよりも、問題はヨルムンガルドだろう。

 

「私は……これを読んだ今、ナデージュに会ってみたい。それと、この青年にも」

 

 ジェラールは、肖像画に視線を落とした。

 その憂いを帯びた表情のジェラールに、ナデージュとヨルムンガルドを会わせてあげたいと強く思った。


(会わなきゃ仲直りも出来ないしね)


「……その本、持ち出したらダメでしょうか? 三人の肖像画、見せてあげたくて」


 敢えて誰にとは言わないが、ジェラールもリーゼロッテの思いを分かっているようだ。


「正規の手続きを踏めば、王族なら可能だ。元々が白紙の本だから問題もないだろう。……それは私がやっておく。辺境伯領へ向かう時間を作るから、魔玻璃の元へ連れて行ってほしい」


 ジェラールの真剣さが伝わってくる。心からナデージュに会いたいのだと。


「はい、承知しました。私も、その間にヨルムンガルドを探してみます」 




 ◇◇◇




 ジェラールを王宮に送り、自分の部屋に戻ったリーゼロッテはすぐに魔道具を用意する。


 ルイスに宛て、今回の出来事を書いていく。

 そして、近いうちにジェラールを連れて洞窟へ向かう予定だとも。

 

「ねえ、テオ。ヨルムンガルドは、魔玻璃の近くに居るのではないかしら?」


 書いている手を止めずに、ベッドで伸びているテオに尋ねた。この時間にテオを部屋に入れるなら、ミニ狼姿でないとまたアンヌに叱られてしまう。

 

『そうだろうな。リーゼロッテの近くに居ないなら、向こうだろう』


 ふと。

 リーゼロッテは、ナデージュは森のどの辺りに住んでいたのか気になった。

 辺境伯領として邸宅を建てたのは、ナデージュが爵位を与えられた後のはずだ。


(大昔の辺境の地って、一体どんな所だったのかしら……)


 テオなら知っていると思った。


「ナデージュは森のどこに住んでいたの?」


『ああ……確か、いつもの花がある湖の近くだ』


「へぇ、あそこなの。……あれ?」


 リーゼロッテがヒュドラーを倒す前の湖は、随分と禍禍しい場所ではなかっただろうか。

 それに、ナデージュが魔物に慕われていたことを思い出すと、サー……ッと血の気が引いていく。


「も、もしかして……。あの私が倒した魔物って、ナデージュの大切な友達だったのかしら?」


 青くなったリーゼロッテに、テオはフッと鼻で笑った。


『安心しろ、あれが住み着いたのは最近だ。私が捕らえられる少し前だったな。タチの悪い奴だから問題ない。魔物全てが凛子を慕っている訳ではないからな』


 ホッと胸を撫で下ろした。


 どうやら、魔物の世界にも色々あるらしい。

 テオ達みたいに、理性や知識がある高位魔獣は極々少数なのかもしれないと思う。

 魔玻璃の結界の先ではなく、()()()()に残ったまま悪さをする魔物もいるのだから。

 

「ヨルムンガルドは、ナデージュが住んでいた場所に居るのではないかしら?」


 あの洞窟で、彼を見かけたことは一度も無い。


『一度行って見てくるか?』


「ええ、そうするわ」

 

 今の話も書き加えると、ルイスに送った。 


 暫くすると、返事が届いた。

 すぐに目を通すと、リーゼロッテは固まった――。


『どうした? ルイスは何と言ってきたのだ?』


「お父様も、一緒に湖に行くって。その時に、今回の件を全て詳しく話すようにって書いてあるわ」


(そうだった……)


 リーゼロッテが危ない場所に行くなら、次からは自分も行くと言っていたと思い出す。

 文章から『また危ないことに、首を突っ込んでいるんだね』と、ピリピリした雰囲気が伝わってくる。


 ルイスと一緒に居られるのは嬉しいが、ヨルムンガルドとルイスが会ったらどんな反応が起こるのか……。

 妙な胸騒ぎがした。


(どうか、穏やかにヨルムンガルドを説得できますように……)


 

 


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