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66.これは告白?

(お父様に、会いたいな)


 無性にルイスが恋しくなった。


 きっと、あの手記を読んだせいで感傷的になっているのかもしれない。


(今からでも……)


 リーゼロッテはチラリと時計に目をやる。

 辺境伯邸へ転移して、顔を見てくるくらいは出来そうだと思った。

 けれど、勘の良いルイスは、リーゼロッテに何かあったのだと直ぐに気付いてしまうだろう。


 説明をする時間は、残念ながら無い。

 何より会いたくても会えなかった、凛子と王太子のことを思うと、自分ばかり申し訳ない気がしてしまった。

  

(今日くらいは、嵌めてもいいわよね……)


 首からネックレスを外し、指輪を嵌めた。指でそっと魔石をなぞると胸が熱くなる。


(よしっ!)


 リーゼロッテ、自分に気合いをいれた。




 ◇◇◇




 眠気を堪えつつ、普段通りに戻った一日を過ごした。


(今、ヨルムンガルドはどこに居るのかしら?)


 リーゼロッテの頭の中は、手記のことでいっぱいになっている。


 どうやったら、あんな風に感情的になってしまうヨルムンガルドに、王太子が裏切り者では無かったと理解してもらえるか――。

 リーゼロッテが凛子ではなく、別の転生者の凛であることも。


 ナデージュなら、辺境の地に戻ってから王太子のことを説明しているだろう。

 だとしても、素直にヨルムンガルドが納得出来たのかは疑問だ。頭では理解できても、心がついていかない場合だってある。


(それと、ジェラール殿下にも……。この過去の出来事を、知ってもらわなければいけないわ)

 

 あの本は、鍵となる凛子を知らなければ、誰も読むことが出来ない。

 日記なんて、他人に読まれたくない物だから当然だ。この世界には、漢字が存在していないのだから、絶対わざとに決まっている。


 だが――。


 魔玻璃によってループさせられ、王太子の生まれ変わり()()()()()()次期国王のジェラールは、あれを読む権利があるかもしれない。


 授業が終わると、急いで寄宿舎に戻った。


 リーゼロッテの指輪を見て、パトリスとジョアンヌは何か言いたそうだったが、敢えてその視線に気付かない振りをした。


 魔道具に【至急、ジェラール殿下に見ていただきたい本があります】と書いて送った。


 リーゼロッテがジェラールを迎えに行き、そのまま一緒に書庫へ転移してしまえば簡単だ。一度行った場所なら、それが一番手っ取り早い。


 いつもの如く、ジェラールからの返事はすぐに来た。

 王太子としての仕事が山積みのジェラールが、宮廷から抜け出せる時間は限られている。


(また深夜になりそうだわ)


 リーゼロッテはしっかり仮眠を取り、約束の時間になると、テオと共にジェラールの部屋へ転移した。


 珍しく、少し遅れて静かにジェラールがやって来た。

 周りに勘付かれないように、一度ベッドに入ってから抜け出したのだろう。セットされていない髪にラフな服装のジェラールは、年相応の青年だった。

 無防備な姿を晒され、ドキッとする。


(どうして、この世界のイケメンて色気があるのかしら……。完全に負けてるわ、私)


 そんな心の内を悟られないように、書庫で見つけた本について説明をした。王族であるジェラールも、存在すら知らなかったそうだ。

 本の内容については、自分の目で確かめてもらった方が良いと考え、詳しくは伝えない。


 書庫へ転移し、目的の本を棚からおろす。

 鍵を解除し、浮き出てくる文字に、やはりジェラールも瞠目した。


「……凄いな、これは」


「ジェラール殿下、こちらを読んで下さい」


 本を渡すと、黙ってジェラールが読み終わるのを見守る。

 読み始めてすぐは、王太子に感心しているようだったが、思うところがあるのか段々と顔が険しくなっていく。

 そして、最終ページを開くと――。


「まさか、そんな……」


 ジェラールの口から小さな声が漏れる。

 自分そっくりな王太子と、リーゼロッテによく似たナデージュを凝視する。

 顔を上げたジェラールにグイッと手首を掴まれた。


(え!?)


 ジェラールの瞳は、嵌めたままだったリーゼロッテの指輪に向いている。


「これが本当なら……。リーゼロッテは、転生や生まれ変わりを信じるか?」


 目を細めたジェラールは、絞り出すように言った。


(ああっ!)


 ジェラールに、自分も転生者だと言っていなかったことを思い出した。


「えっと。まあ、そうですね、私も転生者なので」


「なん……だと?」


 ジェラールが鋭い目をリーゼロッテに向けた。


「言ってなくて、申し訳ありません。どうやら私は、その凛子さんの曾孫みたいです。あっ……! 因みにそれは、昨日これを読んで思い出したことですから! 以前の名前は桜坂凛でした」


 慌てて謝り説明するリーゼロッテに、ジェラールは大きな溜め息を吐くと、掴んでいた手を離す。


「其方が転生者だと……ルイスは知っているのか?」


 何故、ジェラールがルイスのことを尋ねているのか、リーゼロッテにはよく解らなかった。

 首を傾げつつ素直に答える。


「お父様は知っています。ただ、この本の存在や凛子さんのこと。私が曾孫の凛だとは、まだ話してはいません」


「そうか……私は、肖像画を見て懐かしさを感じた。その青年に一度も会ったことすら無いのに、だ! リーゼロッテが、そのナデージュの生まれ変わりだったのなら――ルイスから奪ってしまいたいと思った」


 真剣な表情で見詰めてくるジェラールに、リーゼロッテは首を横に振った。


「それはちょっと、勘弁して下さい。私は、ナデージュの生まれ変わりではありませんし。彼女の心はまだ、あの魔玻璃の中に居ますから。それに、私はお父様を愛しております」


 リーゼロッテは、自分の指に嵌っている指輪を見る。

 

「はあぁぁぁ、分かっている! その様な顔を見せられたら、流石の私も傷付くぞ。ルイスから奪うようなことはしないから安心しろっ」


 リーゼロッテはその言葉に笑顔を返した。


「もし、ジェラールが本当に王太子の生まれ変わりなら、魔玻璃に触れる事が出来るのではないか?」


 ずっと二人のやり取りを静観していたテオが、口を開いた。



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