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64.手記

 真夜中になると、リーゼロッテとテオは図書館へ転移した。


 厳重に鍵の掛かった書庫の扉。リーゼロッテは敢えてその扉を避ける。

 手に魔力を流しながら壁に触れると、そのまま中へズプリと入っていく。


 壁を抜けると、埃と紙とインクの匂いがした。

 リーゼロッテとテオはぐるりと周囲を見渡すが、窓の無いその部屋の中は真っ暗で、何も見えない。

 

 用意してきた明かりを灯すと、部屋全体を確認するように照らす。

 扉以外の壁は全て本棚になっていて、部屋の中心には、本を読む為の立派なテーブルと椅子が置かれている。

 王族専用の場所だけあって、書庫といえど豪華な造りだった。


(さて、どこから調べていこうかしら?)


 女神について書かれているなら、相当古い物だろう。

 

 リーゼロッテは並んだ本の背に、歴史を感じそうなものがある棚からスタートした。

 勿論、テオにも手伝ってもらう。


 背文字がある本は、分かりやすくて助かった。

 それに最近の物は、天の部分に害虫を防ぐ為の金付けがされているようだ。

 いかにも古そうな物は、装飾はされているものの何も書かれていないので、いちいち開かないといけない。

 

 どのくらい本を引っ張り出した頃だろうか……。天の部分に、見覚えのある花が描かれている本があった。


 ――リーゼロッテの喉がゴクリと鳴った。


(これ……桜だ)


 その本を抱えて梯子から下りると、テーブルへ置くとテオを呼ぶ。

 表紙にも背にも、何も書かれていない不思議な本。

 本を開き、中を見ると……白紙だった。


「何も書かれていないわ……。特殊な細工でもされているのかしら?」


「その可能性は高い。……誰にも見せたくない物なのかもしれないな」


「そうね」


 リーゼロッテは、これに()()についてが記されていると確信があった。天に描かれていた桜は、とても薄くて見難いが……まるで着物の小紋の柄みたいで日本的だった。


 そっと本の表紙に手を添え、目を閉じた。


(……どうか、私に大切なことを教えて下さい)


 祈るように、リーゼロッテは緩やかに魔力を本へと流す。

 すると、今まで何も無かった臙脂色の表紙に、金の魔法陣が現れた。だがそれは、中心部の文字が欠けている、未完成の魔法陣だった。


「どうやら、魔方陣(それ)は鍵のようだな。その、穴の空いた部分に、正しい文字を入れれば開く仕組みかもしれないぞ」


 術式を読み解いたテオの言葉に、リーゼロッテも頷いた。


「二箇所の文字……。それに、この和風な天。それなら、ここに入るのは漢字の――()()しか無いわよね」


 この本の著者は、この凛子と言う人をとても大切にしていたのだろう。本人が書いたのなら、表紙に自分の名前は入れない気がする。

 指に魔力を溜めて、漢字で凛子と書いた。

 

(ん……凛子? あれ?)


 何か思い出しそうになった途端、魔法陣は輝きグルリと回った。

 そして、本は勝手にパラパラと開いていき、白紙だったページに次々と文字が現れた。

 

(すごい……)


 最後のページまで開かれると、その部分だけは文字でなく、絵が描かれていた。仲が良さそうに並ぶ、三人の肖像画だった。


 一人は、偽レナルドになっていたテオの弟ヨルムンガルド。

 もう一人は、リーゼロッテによく似た儚げな美しさの女性。

 そして、もう一人。明らかに王族らしい衣装の、ジェラールにそっくりの男性だった。

 

「もしかして、この女性が凛子さん? そして、こっちはテオの弟。この、ジェラール殿下そっくりな人は――」


「当時の王太子だ」


 リーゼロッテはガバッと本から顔を上げ、テオを見た。

 ジェラールが、何故ループしたのか……少しだけ分かった気がしたのだ。原因は、この人物にあるのだと。


「テオは、王太子を知っていたの?」


「いや、知らぬ――というか会ったことが無い。当時の国王は見たことはあるが。私は弟と違って、人間の世界には興味が無かったからな。弟は、凛子と王太子を慕っていた。それも、書かれているのではないか?」


 リーゼロッテは頷くと、1ページ目から読み始めた。




 ――それは、王太子の日記のような手記だった。


 最初の方は、当時のこの国の情勢や本人の考え、策、悩みの様な内容が綴られていた。

 他人の日記を読むのは、リーゼロッテ的にとても心苦しかったが……心の中で謝りながら読み進めていく。


 途中からナデージュという少女との出会い。ナデージュに惹かれていく様子が切切と綴られていた。


(王太子は、ナデージュが好きだったのね)


 どうやらナデージュも王太子を愛していたようだ。


 ページが進むと、内容は核心へと向って行った。


 ナデージュは、桜坂凛子という日本からの転生者だった。

 戦争で命を落とし、この世界に転生したのだ。だから、絶対に争いは駄目だと王太子に伝えていたらしい。


(戦争の時代の、凛子さん? んん? 桜坂?)


「あーっ!!」と、リーゼロッテは大声をあげた。

 

「どうした!? 何が書かれていた?」


 驚いたテオは、口をパクパクしているリーゼロッテの肩を掴むと心配そうに覗き込んだ。


「テオ、思い出したのよっ。凛子さんは、私のひいおばあちゃんだわ! そして、私は桜坂……凛」


「ほう……」と、テオも驚いたようだ。


「確か、おじいちゃんが自分の母親の――つまり若くして亡くなった曽祖母から名前の一文字貰って、私を凛と名付けたって言っていたわ」


 転生してから、ずっと思い出せなかった自分の名前を漸く思い出せた。

 女神は、本当に本当のご先祖様だったのだ。

 

(なぜ、このタイミングで私は思い出したの……もしかして、転生は偶然では無く必然だったのかしら?)


 



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