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60.図書館へ

 リーゼロッテの心配も余所に、何事もなく入学式は終わると、そのまま学院生活がスタートした。


 華やかな公爵令嬢のジョアンヌのおかげで、リーゼロッテは全くと言っていいほど、目立たずに過ごすことが出来ている。

 多分、リーゼロッテを知らない人は、侯爵と同等の地位である辺境伯の令嬢ではなく、下級貴族だと思っていることだろう。


 ちなみに、通学のお供はアンヌがやっている。

 それに不服そうなテオには、仕方がないので影の中で待機してもらうことにした。


 全コース共通の、基本的な魔法や魔術のカリキュラムは、周りの人達のレベルに合わせ中の中を目指した。


 たまに魔法の授業で、根本である理の部分が間違っているらしく――。

『何だそれは……』と、時々テオの溜め息と鼻で笑っている声が頭に響いてくる。ある意味、テオも楽しんでいるのかもしれない。


 ジョアンヌと別の選択授業では、自由席のため後ろの端の方に席を陣取り、黙々と勉強している。

 集中すると、話しかけられても気付かないたちなので、遠慮なく集中できる環境は転生前のようで快適だった。

 うっかりすると、いつの間にか授業が終わっていたりして、テオが『終わったぞ』と教えてくれる。

 

 そして、ある程度この生活に慣れてきた頃――。


 貴族院併設の王立図書館へ通い出した。

 王立図書館は国内で最も歴史があり、最大級の規模の建物だ。そのため、国の人材を育てる貴族院が後から隣に造られた。


 授業が終わり、学院の生徒が減ってくる時間を狙って、リーゼロッテは図書館へと向かう。

 今日は、いよいよ王族専用の書庫へ入ってみるつもりだ。


『リーゼロッテ』


 珍しく、ピリッと張り詰めた感じのテオの念話が聞こえた。


『どうかした?』


『……門の方で、気になる気配を感じた。図書館にいる間、少々見てきても良いか?』


『分かったわ、大丈夫よ。また後で落ち合いましょう』


 影からか飛び出したテオは、ミニ狼姿で身体を低くすると、タッと地面を蹴り、凄いスピードで走り去って行った。 


 テオが見えなくなると、いつも以上に気配を消して、学院内を人目を避け歩いていく。

 もう数分もすれば、図書館が閉まる時間だ。


(いつもこの時間は、殆ど人が居ないけど……今日は誰一人見当たらないわ。今日にして正解だったかも)


 図書館のど真ん中にある、立派な螺旋階段をリーゼロッテは静かに上る。


 二階は古書が多く並んでおり、その更に奥がリーゼロッテの目的の場所だ。

 古すぎる古語が読める者はとても少なく、生徒は殆ど二階にはやって来ない。幸いリーゼロッテは、転生者特有の能力なのか……一周目とは違い、言語が全て理解出来た。

 

 緊張した面持ちで、厳重に鍵のされた扉に触れようと手を伸ばした時だった。


「あれ? リーゼロッテ嬢ではありませんか?」


 ――ビクッ!と身体が強張った。


 急に背後から声をかけられ、内心焦る。

 不自然に見えない動作で伸ばした手を引っ込めると、声の方を振り返り、平静を装って返事をする。


「ええ、そうですけど……貴方は?」

  

 全く見覚えのない美少年が、リーゼロッテに微笑みかけていた。

 

「僕は、レナルド・アントワーヌです。二年生ですが、文官コースの合同授業で何度かご一緒していますよ。どうぞ、お見知りおきを」


 年上とは思えない、見目麗しい線の細い青年の表情は、まるで陶器のように白く印象的だった。


「あ、アントワーヌ侯爵様の……」


「はい。レナルドとお呼びください」


(アントワーヌ侯爵令息……。想像と全く違うわ)


 パトリスから聞いていた話と、ジェラールからの人物像では、もっと騎士っぽく男性的な人を想像していた。

 目の前にいるレナルドは、とても繊細そうだった。


(……それに、こんな容姿を持つ人に会って、覚えていないものかしら?)

 

 以前、社交界デビューの前にブランディーヌと練習を兼ねて参加した舞踏会で、レナルドがリーゼロッテを見た印象をジェラールに伝えたと聞いていた。


(合同授業に居たかしら? 授業に集中し過ぎたのか……それとも周りにイケメンが多過ぎて、私の感覚が麻痺してるのかしら?)


 リーゼロッテは首を傾げる。


「ところで、リーゼロッテ嬢はこちらで何を探してらっしゃるのですか?」


「あ、え〜と。……少し、古い時代の文献に興味がありまして。レナルド様は?」

 

 しどろもどろにならないよう答えると、レナルドがここで何をしていたのか気になった。


「僕は、リーゼロッテ嬢に興味がありまして」


「へ?」


(あっ、女性に手が早いって。なるほど)


「学院の廊下で見かけて、思わず……後を追って来てしまいました」


 ニッコリと笑みを浮かべたレナルドは、リーゼロッテから一切視線を外さない。


 ―ーーゾワリ。


 とリーゼロッテは変な感覚に包まれた。まるで、頭にもやがかかったみたいだ。

 ポロン〜と閉館の音が流れ、ハッとする。


(今日はもう無理そうね……)


 この時点で書庫の中に入ってなければ、司書がチェックにやって来てしまう。注意されたら厄介だ。ここで目をつけられる訳にはいかない。

 

「そろそろ、閉館の時間になりますので……私はこれで。ご機嫌よう」


「そうだね、これから話す機会は()()()()()あるし。では、またね」

 

 リーゼロッテは軽くスカートを摘み、レナルドに挨拶をするとその場を離れた。

 早足で歩きながらも、頭の中はさっきまで一緒に居たレナルドのことでいっぱいになった。


(彼はいったい――誰?)


 

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