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6.可愛い従魔

 リーゼロッテとフランツが、子供部屋で家庭教師に礼儀作法や勉強を習っている間に、テオはマルクに言葉遣いや仕草、執事や従者が何たるかを指導されていた。


 あの尊大な態度だったフェンリルが、だいぶ従者らしくなってきた頃――。


 開け放たれた窓の外を眺めながら、リーゼロッテは自分が最後を迎えた場所を特定したいと考えていた。

 時々、吹いてくる夕暮れの風が、長いブロンドの髪を靡かせる。


 目を閉じると、あの時のことが鮮明に蘇る。


 薄暗い洞窟のような場所だった。

 辺境伯領に連なる山脈のどこかにあるのか、それとも森の中なのか……見当もつかない。

 ただ、ルイスに振り下ろされた剣に、反射したものが何だったのかが思い出せれば、それがヒントになるような気がした。

 

(何故、私はそんな場所に行ったのだろう? それに、あの怪我は……何か魔物にでも襲われた?)


「うーん……」と唸ると、背後から声を掛けられた。


「リーゼロッテ様、何をお考えですか? あまり風に当たりますと、お身体に障ります」


 品の良い男性の声に、思わずガバッと振り返る。


「テオ! びっくりしたわ。もう、すっかり有能な執事の様ね」


「リーゼロッテ、私は完璧だろう?」


 テオは「どうだ!」と言わんばかりの表情になる。

 意識していないと、喋り方は以前と同じに戻ってしまっているが……。


(ちゃんと、一人称も()()になってるわ)


 もしかしたら、テオは褒められて伸びるタイプなのかもしれない。


「流石だわ! これで、何処でも一緒に行けるわね! マルクの指導は厳しかったのかしら?」


「いいや、そんな事はない。マルクは中々の人間だ。説明がとても分かりやすかった。まあ、元々……私の食事や管理は代々の執事が担っていたからな。正直、他の人間よりも私を分かっている」


 色々と訊いてみたいことはあるが、初めて会った時の様子では詳しく話したくなさそうだったので、敢えて触れなかった。


「それより、リーゼロッテ。何を見ていたのだ?」


「私は何処で殺されたのかと思って……」

 

 窓の外に視線を移す。


 殺されるのは――まだ何年も先の話だ。

 今、その場所が分かったとして、何が出来るのかは分からない。フェンリルと出会ったように、一周目では知り得なかった事柄が、見えてくる予感がするのだ。


「リーゼロッテ、今回は私が居る。絶対に、其方を殺させはしない」


 真剣な目を向けるテオが、とても頼もしく嬉しかった。


「テオ、ありがとう。でも……、私自身も強くなりたいの。どうやったら、そうなれるかしら?」

 

 ルイスやフランツを守れるくらい、リーゼロッテは強くなりたいのだ。その為に、力が欲しいと願ったのだから。


「何を言っている? リーゼロッテの魔力は、普通ではないのだぞ?」


「……はい? あ、前にもテオは言っていたけど。私には何がどう普通じゃないのか、さっぱりで……」


「そうか……。では、明日あの森へ行ってみるか?」


 テオが指差した森は、小さな頃からこの家の者に、決して近付いて行けないと言われていた場所だった。

 ちゃんとルイスに許可を取りたかったが、リーゼロッテの魔力の説明が出来ないので迷ってしまう。

 

(でも……)


「ええ、お願いするわ」

 

 頷いたテオは、リーゼロッテの心を見透かしたかの様に言った。


「さて。では、ルイスをどう説得するかだな」

 

 任せておけとばかりに、テオは部屋を出て行った。

 



 暫くすると、ご機嫌そうな表情でルイスの許可を貰ってきた。


 少し、嫌な予感がしたのだが……聞く方が怖いので、よしとした。

 テオは豆柴サイズのミニ狼の姿になり、さも褒めて撫でろと言う感じでヒョコヒョコ寄って来る。


「明日、よろしくお願いね」と、リーゼロッテはテオを撫でる。


 最近、テオ用のブラッシングブラシを、侍女のヨハナが買ってきてくれた。

 艶のある灰色の毛を梳かすと、気持ち良さそうに目を細め、リーゼロッテの膝の上でウトウトしている。

 これが、あのフェンリルだとは到底思えない。


(くぅ〜、癒されるわっ)


 こんなに可愛いフェンリルが、百年もの間、重い枷をつけられ地下牢に入れられていたと思うと……。


(どんなに辛かっただろう……)


 リーゼロッテには、想像もつかない。

 多分、魔獣の寿命はとても長いはず。

 せめて、一緒に居られる間は――フェンリルが認めてくれた主人として、精一杯愛してあげたいと思った。


(いや、逆か……。私が愛情を貰ってるのかも)



 

 ――そして翌日。


 大型犬サイズになったテオの上に乗って、森へと向かった。


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