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56.重大です

(二度目だ――お父様に、あんな顔をさせたのは。アニエス様の危機に呼ばれ、離宮から帰って来た時に、もう勝手にいなくならないと約束したのに……)


 成り行きとはいえ、ちょっと考えたら分かることだった。

 かといって、黙っているのも(はばか)られた。

 そもそも、魔玻璃の結界を超えるとは、リーゼロッテも想像もしていなかったのだから。


(私って、成長しないなぁ。いっそテオみたいに、離れてもお父様と念話できたらいいのに……)


 チラッと、テオに視線をやった。

 先にさっさと執務室から抜け出したテオは、バツが悪そうにリーゼロッテにケーキとお茶を出してくる。


「主人、すまなかった。……結界の話は先にしておくべきだったな。ルイスのことは頭に無かった」


 銀色の髪を揺らし頭を下げた。

 あの時、テオは自分がいない方がルイスの怒りがリーゼロッテに向かないだろうと、気を利かせたようだ。

 実際、二人だけだったからこそ、ルイスは気持ちを口にした。

 

「本当よ。今度から、前もって教えてね。ま、聞かなかった私も悪いわ」


 申し訳なさそうな顔をしたテオは、聞いてもいない弟の話を始めた。


 テオ――つまりフェンリルは果てしなく遠い昔、神と巨人の間に生まれたらしい。

 その後に生まれた弟が、ヨルムンガルドという大きな蛇で、氷の海に捨てられて世界よりも大きくなってしまったのだとか。ずっと孤独だったヨルムンガルド。


 不憫に思った魔王……ご先祖様の力により、今は地の底で丸まって安眠しているそうだ。起きれば破滅を呼ぶので、人間は戦わないといけなくなる。


(世界より大きいって……勝てる人間なんているのかしら? うぅーん。起こさず、ずっと眠っていてもらわないとだわ。そういえば――)


 ジェラールの一周目の最後は、魔玻璃が壊れ洞窟が崩れたと言っていた。魔玻璃の魔力……魔物たちにとって魔王存在の証でもある力が消えて、寝ていたヨルムンガルドが起きた……。そうは考えられないだろうか。


 リーゼロッテの全身が粟立つ。


 考えたくないが、一周目のあの後に世界が滅んでしまったのかもしれない。


(だから、ループが起こった? まさか……ね)


 リーゼロッテはチラリとテオを見る。


「テオは、私のループの話と魔力を感じて何を思ったの?」


 唐突な質問だとは思うが、リーゼロッテはテオを見据えるように訊いた。テオは、何か知っている。そう思ったのだ。


「……初めは、あの方の力を受け継いだだけだと思った。だから、従魔契約もした。だが、リーゼロッテとジェラールの最後の話に、強くなるリーゼロッテのその魔力。あの方が、()()()()()()()――そう思うようになった」


 ただ、それ以上はテオにも分からないそうだ。


「テオの弟を起こさないようにするには、魔王が居ない今……魔玻璃を維持し続けるしかないわよね?」


 それしか、皆が助かる方法が無い気がした。


「そうだ。だが、もう一つ方法はある。リーゼロッテが魔王となり、向こうの世界に行くことだ。向こうの玉座に座れば、もう死ぬこともなくなる」


「…………それは、嫌」


 即答する。


「……だろうな」


「だから、ちゃんと考えるわ」


 この、規模の大きい話は一人で抱えるには、巨大過ぎた。

 確信はないが、もう一人ループした人間……ジェラールにも、何かループした意味があるのかもしれないと思う。


「私と、ジェラール殿下は、ループした根本を理解できていないのかもね」


 お互い大切な人だけ救えれば良いと思っていた。

 それが、大きな間違いなのかもしれない。

 カラカラに乾いた口の中を潤す為、テオの入れてくれたお茶を一口飲んだ。


(ん、美味しい)


 神と巨人の子供……よくよく考えてみたら、フェンリルにお茶を入れてもらうなんて、凄いことなんだと可笑しくなった。


「ふふっ、みんなが幸せになる方法を……探しましょう!」

 

 何が可笑しいのか理解できない、テオはそんな不思議そうな顔で主人であるリーゼロッテを見ていた。 

 

 リーゼロッテは二つの魔道具を並べると


【大至急、お話しがあります。極秘事項です。ジェラール殿下、ルイスお父様、私とテオだけで集まりたいです。 リーゼロッテ 】


 と、同じ文を送った。


 直後、【いつもの部屋へ来い】と、ジェラールから返事が届く。


(はやっ! 殿下は、魔道具を持ち歩いているのかしら?)


 あまりに早くて驚いていたら、今度は勢いよく部屋の扉が開いた。


「何があった!?」


 ルイスは、文章書くのがもどかしかったのか、リーゼロッテの部屋に直行して来た。


「お父様、早いですね。丁度、ジェラール殿下からも連絡が来ました。すぐに王宮に向かいましょう」


「……リーゼロッテは、何か腹が決まるとリリーになるな」と、ルイスは呆れ気味に言った。

 

「そうでしょうか?」


 ちょっと意味が分からなかったが、ルイスがそう言うなら、きっとそうなのだろう。

 王太子を待たせてはいけないので、急いで転移する。


 久しぶりのジェラールの部屋に転移すると、案の定ジェラールはイライラしながら待っていた。


「お前たち、遅いぞっ!」


「ジェラール殿下、大変お待たせして申し訳ありません。この部屋に、結界を張らせていただいてもよろしいですか?」


「構わない。好きなだけ張れ」


 リーゼロッテの言葉に、ジェラールとルイスは事の重大さを感じた。

 

 そして、テオから聞いた話と、リーゼロッテの考えを順を追って話し出す。

 見る見るうちに、ジェラールとルイスの顔色が悪くなっていった。


(うーん、そうなるわよねぇ)



 

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