表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/72

52.誓い

『リーゼロッテ、魔道具が光っているぞ』


 ミニ狼姿で、リーゼロッテのベッドの上で寛いでいたテオは声をかけた。やはり、大きなベッドの方が寝心地が良いらしく、テオの目はまだトロンとしている。


 リーゼロッテは、ジョアンヌに貰った王都で流行していたハーブのバスオイルを使っての湯浴みを済ませ、長旅の疲れ――いや、精神的な疲れを取るために、ソファーでのんびりマッサージしている最中だった。

 身体に魔力を流し、リンパの流れをよくすれば簡単に治るのだが。転生前の習慣だったせいか、この方が気持ちもリラックスできた。


 浮腫んでしまった足を揉んでいた手を止め、顔を上げたリーゼロッテは、チェストに置いてある魔道具を見た。


「あ、本当だわ。ジェラール殿下ったら……まるで、私たちが今日到着するのが分かっていかたのようね」


 王都でリーゼロッテがジェラールと会ったのは、初日だけだった。絶妙なタイミングに首を傾げつつ、魔道具の文字を読む。


(あれ……ジェラール殿下からじゃない?)


「……えっ!?」


『どうした?』


「これ、殿下からじゃなく……お父様からだわ。今夜、魔玻璃の所へひとりで来るようにですって……」


『本当にルイスからか?』


「それは、間違いないわ。筆跡も、サインもお父様のものよ。でも、どうやって魔道具を使ったのかしら?」


『一緒に行くぞ?』


「いいえ、大丈夫よ。もう、狙われる心配も無いしね。今は、安全な場所だわ。それに……」


 今日は、あの魔玻璃の洞窟でリーゼロッテが殺された日だ――。


 どの道、洞窟へは行くつもりだった。今日で終わった1周目のリーゼロッテの人生。けじめ――というか、前に進む為にもあの場所へ行かなければと思っていた。


 もしかしたら、ルイスも同じことを考えていたのかもしれない。




 ◇◇◇




 着替えを済ませ、完全に日が落ちるとリーゼロッテは洞窟へと向かった。


 静かな洞窟内を進む。

 リーゼロッテが魔玻璃へ近付くと、輝きが増して辺りが明るくなる、すっかり見慣れた光景だ。


 うっすらと揺れる光の中に、ルイスの姿が見えた。


「リーゼロッテ、急にすまない」


「お父様。突然、魔道具で呼び出すなんて驚きました」


「ああ、魔道具はジェラール殿下から頂いたのだ。来年、リーゼロッテが貴族学院に入ったら使えと言ってね。早速、試してみたが大丈夫そうかな?」


「ええ、全く問題無かったですが……出来たらそれも書いてほしかったです。一瞬悩んでしまいました」


「それもそうだな。すまん」と、ルイスは申し訳なさそうに言う。


 1周目とは違う穏やかな時間。

 ふたりは顔を見合わせ、クスッと笑う。こんな風に過ごせる日が来るとは、あの時は思いもしなかった。


「……お父様はどうしてここに?」


「此処は、リーゼロッテにとって辛い場所かもしれないが……。今のリーゼロッテと、私達が生きていられる運命をくれた場所でもある。だから、この場所を()()()んだ」


「……選んだ?」


ルイスの言葉の意味がわからず、聞き返す。


「そうだよ」と頷いたルイスは――。


 片膝を地面につくとポケットから何かを取り出し、リーゼロッテに差し出した。

 パカッと開いた小さな箱の中には、ルイスの瞳と同じ色の魔石が真ん中に埋め込まれた……美しい指輪が輝いていた。


(これ――)


 リーゼロッテはコクンと唾を呑んだ。

 どんどん速くなる鼓動を、必死で落ち着かせようとするが……ダメだった。


「此処で、誓う。私は、一生をかけてリーゼロッテを守り、共に生きることを。どうか、私の妻になってほしい」


 真剣なルイスの瞳は、リーゼロッテを真っ直ぐに見ている。


「……共に生きる?」


 視界が涙で歪み、震える声でまた聞き返してしまう。


「そうだ。リーゼロッテが繋いでくれたこの命、父親ではなく生涯の伴侶として。指輪……受け取ってくれるかい?」


「……はい」


 破顔したルイスは、リーゼロッテの指に指輪を嵌めると、そのまま胸に抱き寄せた。細く見えるが、鍛え上げられた厚い胸板に顔を埋める。


「……愛している」


 吐息のような、甘いルイスの声が耳をくすぐる。


「お父様、私も……です」


 リーゼロッテだけではなく、ルイスの鼓動も速くなっていく。


「リーゼロッテ。お父様ではなく、名前で呼んでくれないか?」


「あ……。ル……ルイス、愛してます」


「……ありがとう。最近どうも、私は嫉妬深くなってしまったみたいだ。リーゼロッテを離したくないと思ってしまう。だが、これで……どうにか、リーゼロッテの貴族院の卒業まで我慢できそうだよ」


 驚いて顔を上げると、真上からルイスの優しい眼差しが向けられる。


「卒業したら、結婚して式を挙げよう。それまでは、父エアハルト辺境伯としてリーゼロッテを守ろう。好きなだけ学んでおいで」


 リーゼロッテが1周目で行けなかった貴族院。ルイスはちゃんと分かってくれていた。リーゼロッテはルイスの背中に手をまわし、もう一度その胸に顔を埋めた。


「ありがとう、お父様……」


 そして、ルイスとリーゼロッテは魔玻璃に魔力を注ぎ、この結界をふたりで守り続けることも誓う。

 心なしか魔玻璃の光が強くなり、祝福された感じがした――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ