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50.意味

 ジェラールとのダンスを終え、ルイスの元へ戻ると、その後は誰からもダンスを申し込まれることは無かった。


 反対に、(たま)にしか社交界に顔を出さない、辺境伯のルイスは多くの人から声をかけられ忙しそうだ。


 リーゼロッテは、少し風に当たりたいからとルイスに耳打ちし、広いバルコニーへ一人で向かった。

 そして、敢えて人がやって来そうもない場所を選ぶ。ゆっくり移動すると、背後からやって来る人物を待った。ずっと感じていた視線。


「ご一緒しても、よろしいでしょうか?」


(やっぱり……来た!)

 

「はい」と返事をして振り向く。

 

 そこには、何となく見覚えのある美青年が立っていた。かなり高価な衣装を身に付けている為、位の高い令息だとは理解できる。


「パトリス・ド・ヴィラールと申します。パトリスとお呼び下さい」


(どこかで聞いたことがあるような? ヴィラール……あっ、ヴィラール公爵家!)


 必死で記憶を呼び起こすと、顔だけでなく名前にも覚えがあった。教会の聖女として、魔石から祝福を多めにするよう指示があった貴族の一人だと思い出した。

 つまり、クリストフが魔石を埋め込ませないようにした人物ということだ。

 確か、妹と一緒に来ていた。


「パトリス様。私は、リーゼロッテ・フォン・エアハルトと申します」


 リーゼロッテの返事を聞いたパトリスは、嬉しそうに微笑んだ。


「リーゼロッテ嬢。突然こんな事をお聞きするのは、失礼かと思ったのですが……」


「はい、何でしょうか?」


 何かやらかしてしまったのかと、ヒヤヒヤしながら返事をする。

 

「貴女は、教会にいらっしゃった……聖女様ではないでしょうか?」


「……え? 聖女様って、あの聖女様ですか?」


 キョトンとして、小首を傾げて知らないフリをする。


 内心、冷や汗がダラダラだが――。聖女の衣装の時は、顔を隠すように白いヴェールを被っていた。

 だから、本来なら聖女がリーゼロッテだとは判らない筈だ。


「あ、いや、人違いですよね! 大変失礼いたしましたっ」

 

 慌てて謝るパトリスに興味が湧いた。公爵令息なのに、やたら腰も低い気がする。


「どうして、そう思われたのでしょうか?」


 しらばっくれて、理由を尋ねる。


「その……実は妹のジョアンヌが……」


 パトリスの妹もデビュタントだった。


 リーゼロッテを拝謁の儀の時に見かけ、あのブーケの花が気になり、ずっと目で追っていたらしい。

 ジョアンヌは人を見る力に優れ、リーゼロッテの仕草や振る舞いで、教会にいた聖女ではないかと思ったそうだ。


 ジョアンヌ自ら、リーゼロッテに話しかけようとしていたとパトリスは言う。

 ただ、内気な性格の彼女は、ルイスとずっと一緒に居るリーゼロッテに話しかけることが出来ず……兄に頼んだのだ。


「そうでしたか。私が、聖女様だったら良かったのですが……」


 と、申し訳なさそうな表情をして謝っておく。


「いえ! こちらの勘違いで申し訳ありません! そもそも聖女様なら、エアハルト辺境伯とご婚約されてないでしょうし。……考えたら、分かることでした」


(んんん? 今なんて言った!?)


「あの――誰と誰が婚約したと、仰いましたか?」


「え? ち、違うのですか? そのネックレスとイヤリング……辺境伯の瞳と同じ色の魔石ですよね? ですから、てっきり辺境伯がプレゼントされたのかと……」


「確かに、プレゼントして頂きました」

 

「では、やはり。あ、発表はこれからなのですね。自分の瞳の色と同じ魔石を好きな女性にプレゼントして、受け取ってもらうのは、両想いの証ですから。そんなに立派な魔石、私もいつかプレゼントしたいと憧れています」


「両想い……」


 夜風は涼しいのに、顔はどんどん熱くなる。


「ええ。本当に素晴らしい魔石ですね。私もリーゼロッテ嬢にダンスを申し込みたかったのですが、それ程立派な魔石を用意することは出来ませんから……」


 漸く、ジェラールの言った意味が理解できた。


 俗に言ってしまえば『この魔石以上のプレゼントが出来ないなら、俺の女に近付くな!』ってことだ。

 嬉しくて、涙が出そうになる。


 だから、リーゼロッテにダンスを申し込めたのはジェラールだけだった。

 しかも、ジェラールにはちゃんと婚約者がいて、リーゼロッテのことを理解している。それで、ルイスはすんなり送り出したのだ。


「パトリス様。素敵なお話を聞かせていただき、ありがとう存じます。今度ジョアンヌ様に、お花を差し上げますわ」


「ありがとうございます。それは、妹もとても喜びます! あ、だいぶ冷えて来ましたね……そろそろ中に戻りませんか?」

 

 パトリスはリーゼロッテを気遣うが……。

 リーゼロッテは首を横に振ると、そっとネックレスに手を乗せた。


「私は、もう少しだけここに」

「分かりました。それでは、また」

 

 ちょうどその時、会場からリーゼロッテの元へ歩いてくるルイスが見えた。

 リーゼロッテがパトリスと一緒に居たのが、向こうからも見えた筈だ。いつもと変わらない表情だが、目が笑っていないことは直ぐに分かった。


「リーゼロッテ、こんな所に居たのかい? ……今のは、ヴィラール公爵家の」

 

「パトリス様です。少し、お話をしていました。私を教会の聖女だと、妹さんが気付いたようです。勿論、誤魔化しましたけど」


 リーゼロッテの話を聞き、ルイスの表情に安堵の色が見える。

 リーゼロッテは、それ以上のことは伝えなかった――ジェラールから言われたことも。


「お父様」


「なんだ?」


()()()()()()()


 リーゼロッテは笑みを浮かべると、ルイスが魔石に託した想いに、この世界では伝わらない言葉で返事をした。




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