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49.おかしい

 ――ついに社交界デビューの日。


 ブランディーヌの邸宅で朝から支度し、ルイスから歯の浮くようなセリフを浴びて、漸く王宮へと向かえた。


(なんだろう……始まる前から、どっと疲れが)


 最礼装に身を包み、手には白い花束を持ち馬車に揺られる。


 もう、教皇の件は終わったので心配は無いと言ったのだが……。『念には念を』と、テオはリーゼロッテの影の中で待機している。


(……心強いから、まあいいか)


 リーゼロッテは、花束を膝に置くと、改めてじっくり見詰める。

 肝心の花を何にしようかと、結構悩んだのだ。


 白が無難だが、多少色があっても問題ないと言われたので、いつもの森で摘んできた虹色の花で、ブーケにしようかとも考えた。


 試しに作ったら、想像以上に可愛いかったのだが――。


 虹色の花の存在を公にしてしまうと、それを狙う怪しい輩が森へやって来るかもしれない。そう考えたら不安になったのだ。

 花の乱獲の心配よりも、あの森に魔物に殺された死体がゴロゴロあるのは、考えただけでゾッとする。普通の人間が、花が咲く場所まで辿り着けるわけないのだから。


 ふと。

 あの花が、ヒュドラーの魔素を養分として咲いたのを思い出し、石英のように魔力を流したらどうなるか試してみた。

 何故か、花は真っ白になってしまったのだ。しかも、全く枯れない。


(うーん、不思議だわ)


 色も目立たなくなったし、花びらの形も可愛いので、それをそのまま使うことにした。




 リーゼロッテ達が王宮に到着すると、その後を追うかのように次々と他の馬車が到着した。


 拝謁は、家柄により優先される場合がある。それ以外は、到着順になるのだ。

 エアハルト家も優先されているので、急いでやって来る必要は無かったのだが……。

 一周目で、恐ろしい程の馬車渋滞に巻き込まれたので、かなり早めに出発しておいた。


 案内人に連れられ、順番に移動した先で、長官に名前を呼ばれた者から国王陛下に挨拶をする。


 リーゼロッテも呼ばれると、足がつりそうなのを堪えて、深々と正式なお辞儀を披露した。

 無事に終えると、国王の側に座っていたジェラールと目が合う。


(なるほどね。前回も、こうやって見られていたのか)


 周囲に気付かれない様に、ジェラールは口角を上げた。

 そして、リーゼロッテの顔をじっと見たかと思うと、動きがピタッと止まった――気がした。


(な、なに?)


 何か失敗したのかと内心焦ったが、もう終わってしまったのだから仕方ない。この場で、王太子に声など掛けられないので、諦めて謁見の間を出る。

 

(―――!)


 突然、強い視線を感じた。


 順番待ちをしている大勢の令嬢が並んでいる方から、明らかにリーゼロッテを見ている気配がする。

 だが、余りにも似た格好の令嬢が多く、皆終わった令嬢がどうだったか窺うように見ているので、相手を特定できなかった。


『悪意は無さそうだぞ』

『そうみたい。もしかしたら、舞踏会で何か起こるかもしれないわね』


 テオと念話しながらも優雅に歩く。

 気のせいか、先程の視線の他にもチラチラ見られているような感じもした。


(何か、おかしい……)


 首を傾げつつ、王宮を後にした。




 ◇◇◇

 



 いよいよ、舞踏会が始まる。


 お気に入りのドレスに着替え、輝くアクセサリーを身に着けると気が引き締まった。

 一周目の今日が、あの出来事のきっかけ……リーゼロッテにとっての始まりの日だったのだから。

 ルイスにエスコートされて会場へ向かう。




 名前を呼ばれると会場の扉が開かれた。


 ――騒ついていたのが、一気に静まりかえる。


 元近衛騎士団副師団長で、美貌の辺境伯がエスコートして来た相手に注目が集まった。


 リーゼロッテがルイスの実の娘でないことは、多くの貴族の間で知られていた。ルイスは元々、有名な騎士だったのだから当然のことだ。


 ブランディーヌの関係で、社交界デビュー前の予行練習で出会った人達はリーゼロッテを見たことはあるが、この会場には殆ど居ない。

 状況的には一周目とさほど変わらない筈なのに……


(一周目もお父様にエスコートされたけど……。こんな感じじゃなかったわ)


 不思議に思い、隣のルイスを見上げる。

 

「大丈夫、心配いらないよ」


 とルイスは、甘く大人の色気溢れる微笑みをリーゼロッテに向けた。

 そんなルイスを見た令嬢達はうっとりとし、ため息を漏らす。


(いや、そういう事ではなくて……)


 入り口で立ち止まっていては次の令嬢の邪魔になるので、さっさと会場の奥へと入って行く。

 一周目では、この辺りでルイスは誰かに呼ばれ、リーゼロッテから離れたのだ。そして、跡をつけた。


 けれど――今回ルイスは、リーゼロッテにピタリとくっつき離れない。



 その後、王族がそろって入場し、ダンスパーティーが始まった。


 流石に、義理とはいえ親子でダンスはしない。


 リーゼロッテ的には、別にダンスはどうでも良いのだが、壁の花は辺境伯令嬢として不味いのでは……と、ルイスに視線を送る。

 全く伝わらなかったのか、極上の笑みを返された。


(うーん……このままでいいのかな?)


 すると、ジェラールがやって来てリーゼロッテにダンスを申し込んだ。

 またしても、会場が静まり返った。


(あー、完全に注目の的じゃない? これ)


「行っておいで」


 とルイスに優しく送り出され、ジェラールの手を取ってホールの真ん中へ移動する。

 ジェラールにリードされ、軽やかに踊り始めた。


(凄く……踊りやすい!)


 予想以上のダンスの上手さに驚いていると


「その魔石は、ルイスからのプレゼント?」


 ジェラールは、引き寄せたリーゼロッテの耳元で、そっと尋ねてきた。


「ええ、そうよ」と、ターンしながら答える。


「だろうな。その意味分かってる?」


「意味?」


「やはり知らないか。じゃあ、ルイスに教えてもらうといい」


 フッと愉快そうに笑うジェラールは、会場にいる令嬢達の熱い視線を集めている。


 リーゼロッテは意味がさっぱり分からないまま、ダンスは終わっていた――。

 

 

 

 

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