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43.地下牢の罠

本日二話目の投稿です。

 ――それから間もなくして。


 打ち合わせ通り、テオ達とは別行動をする。


(……ん? 来たわね)


 やはり、あのイヤリングは盗聴器で、聞き耳を立てていた者が居たのだ。リーゼロッテがルイスを刺したと伝わったらしく、直ぐに動きがあった。

 

「お父様、掛かりました」


 リーゼロッテは、ニッコリと怒りを滲ませた笑みを浮かべ、ルイスと一緒に屋敷の地下牢へと向かった。

 

 地下牢は、特殊な結界によって外と遮断されているのだと、以前テオに教えてもらった。

 だから、操られたフランツが描いた魔法陣の周辺には、前もって感知魔法を施しておいたのだ。


 そして、あの牢屋に一度入ったら自力では出られないように、幾つか罠を仕掛けておいた。

 たとえ高位の魔術師であっても、絶対に逃げられないように。


 百年もの間、フェンリルの魔力を封じたあの魔紐を使い、今ごろ侵入者はグルグル巻きになっていることだろう。


 ――扉を開けて、二人で階段を下りる。

 

 足音が聞こえ、捕らえられた者達の空気が張り詰めたのを感じる。鉄格子の向こうには、数人の男達がグルグル巻き状態で転がっていた。


 転移陣から現れた途端、勢いよく四方八方から蜘蛛の糸のように、魔紐が飛んできて巻き付かれたのだ。悲鳴を上げる暇も無かっただろう。

 その転移陣からやって来た転がっている者の中に、見覚えのある人物が混じっていた。


「まあ! 枢機卿猊下ではありませんか?」

 

 大体は予想していたが、敢えて驚いたフリをしてあげる。

 リーゼロッテは、枢機卿の口元の魔紐を切り、会話が出来るようにする。


「な、何故だっ! どうして、私達がこんな場に!? この枢機卿である私にこんな事をするなど! 其方は……聖女失格だっ!」


「えっ? ちょっと猊下……失礼ではありませんか?」


 リーゼロッテは呆れてしまった。


(私を聖女にして、利用したのはそっちでしょうがっ)


「まったくですね、枢機卿。此処は、私の屋敷です。不法侵入しておきながら、私の大切な娘にその言い草は何ですか? しかも、私の息子を操り転移陣(そんなもの)を描かせるなど……!」と、怒ったルイスは枢機卿を威圧する。

 

「ぐっ……! エアハルト辺境伯だと!? あの毒で何故生きている? リーゼロッテ、失敗したな!! 役立たずめが!」

 

 苦しそうに喘ぎながらも、リーゼロッテを罵倒した。


「はい? 失敗なんてしていませんよ。寧ろ大成功です。あんなゲスな指示を出すなんて、聖職者とは到底思えませんね。私達の演技は中々のものでしたでしょう? あ……因みにこれは、私には効きませんからね」


 首の後ろから、魔石を取り出すと枢機卿の目の前で粉々に砕いた。

 唖然とした枢機卿の目が点になる。


 そして、転がっている男達にリーゼロッテの魔力を浴びせると、枢機卿以外の全員から魔石が浮き上がり、砕けた。

 

 リスクが高い仕事を任せられる、口の堅い者を雇うなら支払う対価は大きくなる。

 だが、魔石を利用すればその必要は無くなるのだ。

 事が終わり、何かあって捕まった者が出ても、魔石さえ回収すれば記憶が残らないようにしておけばいいのだから。自分の懐はいためない、本当にせこい人間だ。


 リーゼロッテとルイスの冷たい視線を浴びた枢機卿は、慌てて話し出す。


「私は、怪しい魔術師に騙されただけだ! そ、そうだ、私は被害者だ。私をこんな場で捕らえていたら、大変なことになるぞっ!」


「……大変なこと?」


「そ、そうだ!帝国と私は繋がっている! 私に何かあれば、こんな辺境伯領など直ぐに壊滅させられるだろう!」


 ニヤニヤと、下品な笑みでしてやったり顔をする。


「ふふ、そんな事ですか? それなら、とっくに対処済みですわ。帝国に裏切られたれたのは、猊下の方ですよ」


「その辺の事情はもう手を打ってある。安心して、牢の中で過ごすがよい。そのうち、国王陛下から処罰が下されるだろう。それまで、此処でゆっくりするがいい」


 それだけ言うと、言葉を失い呆けた枢機卿を無視して地下牢を出た。


「お父様、帝国の件も上手くいったのですね」


「ああ、ジェラール殿下と共に話は済んでいる。ジェラール殿下は、立派なお方だ。この国にとって、最も必要な方だろう……」

  

 やはり、ルイスもジェラールの本質を見抜いていたのだ。


 自分のことではないが嬉しかった。


 あれ程、周りの目から自分を偽り、評価を落としてまで国や兄の為に奔走しているのだ。全てが終わったら、純粋にジェラールには幸せになってほしいと思っている。――勿論、ループ仲間として。


「では、お父様。次は洞窟へ向かいましょう」


「そうだな。そろそろ向こうも終わった頃だろう」


 リーゼロッテとルイスは屋敷の外へ出ると、今度は魔玻璃のある洞窟へと向かった。


 

 今、洞窟の中に居る者が誰か――だいたい予測は付いていた。


 夜風に吹かれ、リーゼロッテは目を細める。

 リーゼロッテは、自分の予想が外れてほしいと思いながら黙って歩いた。

 ルイスも、リーゼロッテの考えを知っている。だからこそ、何も言わない。


 洞窟の入り口を開くと、丁度テオからの念話が届いた。


『主人よ。こちらは片付いたぞ』

『ありがとう、テオ。ファーガスは無事?』

『無事だ。ピンピンしているぞ』


 テオの言葉にクスっと笑い、安心しながらも重い足取りで洞窟の中を進んだ。

 

 

 

 

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