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42.エアハルト劇団

お読みいただき、ありがとうございます!


誤字脱字報告、いつも助かっております(≧∇≦)

評価、ブクマ登録も本当にありがとうございます。


誘惑…難題です。

甘く無かったら、申し訳ありません。

「私の可愛いリーゼロッテ、よく帰ったね。それから、誕生日おめでとう」


 ルイスは、使用人達に囲まれたリーゼロッテに優しく声をかけた。


「お父様! ただいま帰りました」


 リーゼロッテは、淑女らしくお辞儀すると嬉しそうに微笑んだ。今朝、会ったばかりだとは感じさせない、麗しき親子の再会だ。


「ささ、リーゼロッテお嬢様。お疲れでしょう! 湯浴みの準備は整っております」


 侍女のアンヌに連れられて、移動する。


「失礼致します。あら? お嬢様、珍しいアクセサリーをされていらっしゃるのですね。よくお似合いです。湯浴みの間、こちらのケースに仕舞わせて頂きますね」


 そうヨハナは言って、イヤリングをケースに入れる。

 

 ――透かさず!

 リーゼロッテはイヤリングが仕舞われたケースを遮音結界で閉じ込めた。


「はぁぁぁ。ヨハナ、ありがとう! これで普通に喋れるわ」


「全く! 女性の生活を盗聴などと……断じて許せませんわ!」とヨハナ。


「本当です。盗み聞きしている輩は変態ですね!」とアンヌもプリプリ文句を言う。


 事前に話を聞いていた侍女達は、相当頭にきていたようだ。


「本当よね」

 

 予想通り、()()魔石からの指示は来ない。


 馬車での移動は、一定の区間はゲートを使い馬車ごと転移する。そうでなければ、こんなに遠い辺境伯領まで簡単に行き来などできないのだ。

 リーゼロッテやテオのように、自由に転移出来る者はそう居ない。

 だから、リーゼロッテを追う者は、徹底して自分たちの存在を隠すため、時間差でゲートを使うはず。


「明日は……逆にこれを利用させてもらうわ」

 

 リーゼロッテはケースに入ったイヤリングを睨む。


 その日は疲れもあり――。

 湯浴みを終えると、そのままイヤリングは放置して就寝することにした。


 


 ◇◇◇

 



 翌日。


 ルイスやフランツを筆頭に、皆に祝福され楽しい誕生日を過ごすことができた。


(これで、盗聴されていなければ最高だったのにね)


 昨日、先にルイスの元に転移した時に、軽く打ち合わせ済みだ。

 

 どう考えても、14歳の小娘が大人の義父をいきなり誘惑するのは無理がある。ルイスのように、リーゼロッテの中身が大人だと知っていれば別だが。

 前世の記憶があるリーゼロッテにしてみたら、指示を出した人間はロリ……頭がおかしいとしか思えない。


 だというのに――。


「ならば……実の親子ではないのだから、最初から親子以上の関係にしてしまえば良い」


 そうルイスは言った。不敵に笑い「私に任せなさい」とも。


(任せるって、いったい……何を?)




 ――その夜。



 リーゼロッテはドキドキしながら、ルイスの部屋を訪ねた。


 警戒心の無い声で、ルイスは奥に来るようにと促す。


 耳にはイヤリングをつけ、手には玩具化した短剣を持つと、剣を背に隠したリーゼロッテは、部屋の中を進んで行く。


 そもそもルイスは全て知っているのだから、短剣を隠す必要など無いのだ。

 ただ、何となく雰囲気でリアリティーを出してみた。


「……ルイスお父様」


「リーゼロッテ、よく来たね。こっちにおいで」


 リーゼロッテは、ルイスが座っているソファーに近付く。 

 ルイスは笑みを浮かべ、リーゼロッテの手をグイッと引くと、自分の膝の上に座らせた。


(ひえぇぇぇっ!! 腰にお父様の手がぁっ!)


 イヤリングから、リーゼロッテの鼓動が聞かれてしまうのではないかと思うほど、速く大きく鳴っている。


「私のリーゼロッテ……おや? そのイヤリングは、私があげた物ではないね? 悪い子だ、誰かに貰ったのかい?」


 嫉妬を滲ませた声でそう言うと、リーゼロッテの耳を触る。演技だというのに


 ―――ゾクっとした。


「いいえ。これは、私が自分で買った物ですわ。……だって、お父様に会うのですもの。愛しい方の為に美しくありたいと思うのは、女心ですわ。……私には、ルイスお父様だけです」

 

 リーゼロッテは、ルイスの頬に自分の手を添える。

 ルイスは、その手を包み込むように握ると……そのまま、リーゼロッテをボスッとソファーに押し倒した。


「可愛いことを言ってくれるね。これでは、リーゼロッテが婚姻できる年齢まで、待てないではないか。……愛しい子だ」


 何故か、演技の筈のルイスの瞳が熱を持っているのを感じた。心臓の高鳴りと、冷や汗が止まらない。


「……イヤリングが邪魔だね」


 耳元で囁くと、リーゼロッテの耳からイヤリングを外し、コトリと下へ落とした。

 

 ――それは、ルイスからの合図。


 ルイスがリーゼロッテにのし掛かると、隠し持っていた短剣をルイスの胸にグサリと刺した。


「……な、に?」


 刺した短剣をリーゼロッテの手から取り上げ、壁に投げつけカシャーンッと落ちる。

 ルイスは、ソファーからドスッと落ちた。


「……え?」と、操られた状態から、意識を取り戻したようにリーゼロッテは錯乱する。


「お、父様? い、いや、いやああぁぁぁ―――!!」


 リーゼロッテは叫びながら、ソファーから飛び降りると、ガチャリとイヤリングを踏みつけた。


 イヤリングは見事に壊れる。


 即座にリーゼロッテは、壊れたイヤリングを魔法で完全に消滅させた。


(……はあぁぁぁぁ。終わった)


 リーゼロッテは大きく息を吐く。


「お父様、終わりました」

「どうだ? なかなかの演技だっただろう」


 ムクリと起き上がったルイスは、楽しそうに言う。

 越えてはいけない関係……決して人には言えない恋人同士の演技。


「ええ……本当に。私、心臓が止まってしまうかと……何度も思いました」


 ルイスは床に座ったまま、グイッとリーゼロッテを引き寄せると


「それは困るな。……私は、本当にリーゼロッテを手放すつもりは無いのだから。こうやって、時々私に慣らすのも良いね」

 

 リーゼロッテにだけ聞こえるように、耳元でまた甘く囁く。

 そして、ルイスの唇がリーゼロッテの額に落ちた。


(ひゃあ!?)


 頭から煙りが出そうなリーゼロッテを、満足そうな顔でルイスはギュッと抱きしめる。


(……ぐうぅ、恥ずかしくて死んでしまいそう。だから、嫌だったのよ……。この指示を出した奴、今に見ていなさいよっ!)


 薄く開いた扉の向こうからエアハルト劇団……じゃない、協力してくれた使用人達が、二人を微笑ましそうに見守っていた。




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