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38.新しい生活

「聖女様、お支度宜しいでしょうか?」


 いつもの時間にやって来たのは、リーゼロッテのお世話係の修道女見習いのセリーヌだ。


 ――早いもので、もう半月が経った。



 教会堂へやって来ると、直ぐに御偉方との謁見だった。


 正直な感想は……純粋な信仰をしている者と、全くそうでない者の二種類の人間がいるのだと呆れた。

 その中でも、圧倒的に最悪だったのは、まるで俗人上がりの様な枢機卿だった。


 昔は、俗人でも枢機卿に成れたらしいが。今は、聖職者からしか成れない筈だ。

 枢機卿は国の政治に関わる為、ずる賢……元い、計算高くなってしまうものなのだろうかと、リーゼロッテは首を傾げる。


 テオは、聖女の側仕えとして助祭の衣が与えられた。


 テオを側に置く条件は、こちらから出したのだが。

 ユベールが、あんな思いをしてまで試験を受け手に入れた助祭の資格を、体裁の為こんな簡単に与えてしまって良いのだろうかと、教会に不信感が募る。


 まあ、それは置いておいて。

 テオの助祭姿はあまりにも美しく、銀髪が風に靡くだけで修道女達の感嘆のため息が聞こえて来る。

 

(……修道女がマズくない?)


 そんな聖職者の一員としての聖女の役目は、主に大聖堂に礼拝にやって来る貴族に、祝福や加護を与えることだった。


 当然、怪我や病気も癒しをかけて治したりもするのだが――。

 リーゼロッテは聖女じゃないので、祝福や加護がよく分からなくて、片っ端から少量の癒しをかけておいた。


 物凄く元気になって帰って行く貴族を見て、慌てた司教から指導された。祝福の言葉と共に、ほんの少しの魔力を浴びせれば良いと知った。


(なるほど、その程度でいいのかぁ)

 

 リーゼロッテは指導を受けながら、司教を観察する。


(あの時、ラシャドに魔石を渡したのは、この司教の筈だけど……。うーん、悪い人に感じない。なんでだろう?)


 


 幸いなことに、この教会の聖職者の中に、ファーガスの様にテオの魔力に感付く者は、誰一人居なかった。


 お陰で安心して、リーゼロッテはこの教会堂と修道院に、魔力感知の魔法を張り巡らせることが出来た。

 あの魔石を作っている魔術師が、誰かと接触する為にやって来るかもしれない。可能性が高いのは、司教だろうが。

 

(どう考えても、この教会内にその術者は見当たらないわ)


 不思議なことに、此処へやって来てから一度も魔石からの指示が聞こえない。

 まだ、リーゼロッテを操る必要が無いという事なのだろうか。


(……ん?)


 リーゼロッテの魔力感知に引っかかった者がいる。

 他の貴族とは、魔力量が全く違う。


『テオ、誰かやって来たみたいね』

『奴は何しに来たのだ?』

『んん? 奴?』


「聖女様、お客様がいらっしゃいました。枢機卿様が、お呼びです」


 セリーヌに連れられて教会堂に行くと、そこからは司教に案内された。

 普段は一切使われていない、特別な応接間に促されるまま入ると――その客人は居た。


()()()()()、聖女リーゼロッテ」


 そう声をかけてきたのは、第二王子ジェラールだった。テオはジェラールの魔力だと判っていたのだ。

 いつも、魔道具でやり取りをしているのに、今日やって来るとは何も言っていなかった。ジェラールなら、魔力が多くて当たり前だ。王族なのだから。


 一瞬、驚きでリーゼロッテの眉が上がったが、枢機卿に気付かれないように、習った通りの聖女の挨拶をする。

 ジェラールは悪戯っ子みたいに、その姿を楽しそうに眺めていた。


(絶対、私を驚かせようとしたのねっ。全く……子供かっ!)


「聖女リーゼロッテ、貴女に頼みがある」と、ジェラールが話し出す。


 それは、王家からの正式な依頼。

 今迄の聖女よりも、リーゼロッテが力の有る聖女だと聞いた王と王妃が、王太子の病を診てほしいと言ったそうだ。


(ああ、だから正式に会いに来たのね。まあ、事前に言わなかったのは……わざとだろうけど! ボロが出たらどうするんだか。後で文句言ってやるっ)


 とはいえ、一度は王太子に会ってみたいと思っていたので、ちょうど良かったかもしれない。

 まあ、王命を受けて断れる訳も無いのだ。

 リーゼロッテが登城する話は性急に進んで行った。勿論、内密に。


 ――後日、ジェラールが迎えにやって来た。


 何で王子が直接迎えに来るのかと、突っ込みたかったが、人前でそんな無礼な態度は許されないので、聖女らしくジェラールの馬車へ乗った。

 テオは枢機卿の手前、御者の隣りに乗る。

 

 枢機卿もジェラールの馬車に、一緒に乗り込もうとしたが……。ジェラールは、ちゃっかり枢機卿用に別の立派な馬車を用意しており、そちらに乗るようにと言った。

 こういう時、女好きな無節操な馬鹿王子との評判は役に立つのだろう。


「やっと、二人になれたな」


 魅力的な笑みを浮かべ、今にも口説き出しそうな言葉を発する。

 リーゼロッテは、明らかに嫌そうに顔を顰めた。


「今度から、ちゃんと連絡して下さい。ボロが出たら、どうするんですかっ」


「はっ! リーゼロッテがそんなヘマをする訳が無いだろう。堂々と、離宮に潜り込む程の神経の持ち主が、何を言っている」


 ジェラールは久しぶりのリーゼロッテとのやり取りが、楽しくて仕方なさそうだった。

 

 それからの道中――。

 馬車で邪魔が入らないうちに、王太子の病状についてを詳しく訊いた。



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