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33.ユベールの姉

お読みいただき、ありがとうございます。

今夜、もう一話投稿する予定です。


ユベールの闇、苦手な方には申し訳ありません。

 翌日も、リーゼロッテは教会へ向かった。


 教会の御偉方が動く前に、領地内の病人に癒しをかけ終えてしまいたかったのだ。

 連日やって来るリーゼロッテに、ラシャドもユベールも驚きはしたが、とても喜び感謝していた。


(いっそ、一気に全員癒しちゃいたい)


 そうすれば、さっさと終わるのに……と思ったが。そんな大それた魔法を使えば、大変な騒ぎになるのは確実なので諦める。


 ――数日間かけて、漸く成し遂げた。


 孤児院に戻って一息つき、お茶をしている時だった。


「リーゼロッテ様に……お願いがあるのです」


 真剣な表情のユベールは、周りに聞こえないように、そっと言う。聴覚の発達しているテオには、当然聞こえているのだが。


「どうかされましたか?」


 警戒を悟られないように、自然に聞き返す。


「誰にも言っていないのですが……。私の姉コリンヌの具合が良くないのです。ですが、姉は恥ずかしがり屋でして」


「……お姉様、ですか?」


「ぜひ、一度会って頂けないでしょうか?」


「もちろん、構いませんよ」


 ユベールはチラリとテオに視線をやり、申し訳なさそうに言った。


「姉は、私以外の者と会うのを嫌がります。……出来ましたら、リーゼロッテ様だけでお願いしたいのですが」

 

「わかりました。具合の悪い女性の部屋に、知らない男性が入るのは嫌ですよね。テオには近くで待機してもらいましょう」


 リーゼロッテの返答にユベールは喜ぶと、早速彼の自宅へ向かうことになった。

 テオに念話し、一応確認する。

 

『テオ、今の話聞いていたでしょ? 近くで待機してくれるかしら?』


『聞いていた。ならば、リーゼロッテの影の中に入っていよう。ユベールの視線が逸れたら入る』


『え? 影って?』


 周りに居た人々の視線が逸れた一瞬の隙に、テオはリーゼロッテの影の中に飛び込んで消えた。思わず自分の影を食い入るように見る。


「どうかされましたか?」とユベールに話しかけられ、慌てて顔を上げた。


「いえ、何でもありません。コリンヌさんは、どんな方なのですか?」


 移動しながら尋ねる。

 

「私の二つ上の23歳で、とても優しく明るい人です。私達はよく似ていて、小さな頃は双子に間違えられたくらいです。……ただ、姉は病弱で。いつも、母が薬草を森に取りに行っていました」

 

「そうですか、双子のように……。コリンヌさん、お綺麗な方なのでしょうね」


 リーゼロッテの言葉に、ユベールは嬉しそうに頷いた。


「ご両親は?」


「……他界しています。数年前、魔物が大量に出てきてしまった時に、母は森で……。父はその時、召集がかかり騎士として行った、魔物討伐の際に」


(……数年前の、魔物たちが大量に動き出した日?)


 結界に亀裂が生じて、リーゼロッテの両親が殺された日かもしれないと思い至る。亀裂のせいで、魔玻璃で保たれていた森の結界が弱まったのだろう。


(あの日の出来事で、領民も辛い思いをしたんだ……)


 リーゼロッテは悔しくて、ギュッと自分のスカートを握り締めた。


「国の聖女様は頼りになりません」


 唐突なユベールの言葉に、リーゼロッテは驚く。

 

「どうしてかしら?」


「だって、そうでしょう? ()()()()には、国を守る結界を保てる力が無いんですよ? 今もこの領が守られているのは、領主様のおかけなんです。役立たずの聖女なんて……」


 ――ゾクッとした。

 

 見たことのないユベールの表情。

 国の聖女に対して、嫌悪と軽蔑が入り混じる……憎悪。冷ややかな目だった。


「あ、あれが私の家です」


 パッと表情を変えたユベールは、にこやかに言う。


 ユベールの切り替えに戸惑いつつも、案内されて家の中に入ると――奇妙な感じがした。


 埃や部屋が片付いてないのは、病人の家ならよくあることだが……。いくらユベールが教会に殆ど居て、なかなか帰れないとはいえ、余りにも誰かが生活をしている雰囲気でははかった。


(そんなに、重篤なのかしら?)


『……主人よ。この家の中に、人間の気配は無いぞ』


 影の中からテオが念話してきた。


『うん……そんな気がする。もう少し様子を見るわ』

 

 階段を上がり、コリンヌの部屋の前にやって来ると、ユベールはノックをして扉を開ける。


(うっ、臭い!)


 独特な臭いが鼻をついた。


 返事が無いのに、一緒に入ってしまって良いのか迷ったが……。吐き気を堪えてユベールの後をついて行く。

 

「姉さん、()()()()()()が来てくれたよ」


 ユベールはそう声をかけ、コリンヌのベッドに腰をかけると、優しく上半身を起こしてあげた。


(……ああ、やはり……)


 ユベールが愛おしそうに抱き上げたコリンヌは――。


 水色のワンピースを着た、白骨化した亡骸だった。


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