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30.領地の教会

「ごきげんよう、皆様」


 馬車から降りたリーゼロッテは、和かに挨拶をした。


 キラキラと揺れる金髪に、瑠璃色の瞳の華やかな少女を初めて見た子供達は、一瞬ポカ〜ンとした。

 13歳の少女ではなく、大人が降りて来ると思ったらしい。


「あっ! リーゼロッテお嬢様、ようこそお越し下さいました!!」


 垂れ目のイケメンは、慌てて挨拶をする。それを見た子供達も真似をした。


「「「お嬢様ー、ようこそぉ!!」」」


(ぶっ! 可愛いっっ!!)


「初めまして、よろしくねっ」


 リーゼロッテが、小さな子に目線を合わせるようにしゃがんで言うと、子供達は嬉しそうに笑う。

 令嬢らしからぬ仕草に周りの大人は驚いていたが、そんなことは気にしない。


 転生前は、甥っ子や姪っ子と遊ぶのが、唯一の癒しだったのだ。


「私は司祭をしております、ラシャドと申します」


 子供達の後ろから話しかけて来たのは、人の良さそうな中年の男性だった。ちょび髭を生やしたら、喫茶店のマスターの方が似合いそうな風貌だ。


「こちらの青年は、助祭をしておりますユベールです。主に、孤児達の面倒を見ております」


 紹介された美青年ユベールは、丁寧にお辞儀をした。

 そして、今度はユベールが、その場に居た孤児達を紹介してくれる。


 一通りの紹介と挨拶が終わった頃合いで――。


「荷物はどちらに運んだらよろしいですか?」


 従者らしく振る舞うテオが、馬車から荷物を下ろし、ユベールに尋ねた。

 人間の姿であっても、テオはフェンリル。

 力もあれば魔法も使えるので、大量の荷物を軽々移動させる。


 イケメン二人が並んで歩く姿は、絵になる事この上ない。


 漸く全てが運び終わると、リーゼロッテは一つの大きな箱の中から、ある物を出すようにテオに言った。

 

「司祭様、あれを孤児院に飾ってもらえませんか?」


「あ、あれは、一体……?」


「王都で買ったお土産です! 可愛いでしょう? 撫でると良い事があるそうなんですよ」


 ふふっ、と無邪気に可愛い笑みを浮かべてお願いする。


 狛犬ならぬ、可愛くキャラクター風にデフォルメしたフェンリル像だ。言わずもがなリーゼロッテ作である。

 素材は勿論、洞窟の石英を加工した物で、像の土台部分に魔力を込めて魔玻璃にして、その上から魔法で塗装してある。


 像に触れるには、必ずその土台に手をつくように設計した。大切なのは土台の方。上の像は、ただのカモフラージュだ。


 孤児院の子供達に、魔石が埋められて利用されないようにする為の、ある意味お守りだ。教会ではなく、孤児院に置けば、教会の上の者がやってきても気付かれにくい。

 

 フェンリル像をみた子供達は「きゃー、可愛いっ!」と大喜びしている。

 

「設置してよろしいですか?」


 領主の娘の頼みを、断れる訳などないとは分かっているが、再度確認した。


「も、勿論です! リーゼロッテ様、ありがとうございます」 


 リーゼロッテはその言葉にニッコリ頷くと、テオに設置を促した。


 テオはヒョイっと軽々持ち上げて、ユベールの指示で孤児院の入り口付近に置いた。


 リーゼロッテは、設置した像にこっそり重力魔法をかけておく。魔玻璃とバレても、誰も持ち逃げ出来ないように。リーゼロッテ自身が魔法を解かない限り、1ミリも動かすことは出来ないだろう。

 

「子供達が登っても、倒れない様にしてありますので。もし、移動させたい場合はご連絡下さいませ。重いので、テオしか運べませんので」

 

 リーゼロッテの言葉に、ユベールを目を見開いた。


「それでは、申し訳ありませんから、その時は私がやりますよ。これでも、なかなか力は有るのです!」


 と見目麗しい笑みを浮かべる。


「まあ凄い! ですが、本当に重いのですよ」


「では、試しに少しだけ」


 よっ! と、ユベールは像を持ち上げようとしたが、ピクリともしない。顔を真っ赤にしながら、数回試すが無理だった。


(でしょうねぇ)


「……ざ、残念ながら無理なようです」


 ユベールは肩で息をしながら、ヒョイヒョイ持ち上げていたテオに、尊敬の眼差しを送った。

 

「私は、かなり鍛えておりますので」とテオはいけしゃあしゃあと言って退けた。


 それから――。


 持ってきたお菓子を一緒に食べたり、遊んだり。本の読み聞かせをしたりと、リーゼロッテはたった一日で孤児院の子供達に相当好かれた。

 良い意味で、貴族らしくない気さくな振る舞いと、見た目や年も子供達に近いことも功を奏した。


 更には、人見知り時期の1歳の女の子を、リーゼロッテがあやしながら抱っこしていた姿には、皆驚きを隠せなかった。


「きゃっきゃっ」と笑いながら、リーゼロッテの頬をペチペチしてくる。


(なっ、何て天使みたいに可愛いのぉ!!)


 姪っ子を思い出し、つい頬擦りしてしまう。

 

「お嬢様は、まるで聖女様のようですね」とラシャドとユベールは言った。


(へ? まだ癒しとか見せてないけど?)


 思わず首を傾げた。




 そんなこんなで、あっという間に時間は過ぎて、他の施設等を回るのは後日になった。

 持ってきた食べ物は、教会から身寄りの無い家へ配ってくれるそうだ。


 リーゼロッテは近いうちにまた来ると約束をして、邸宅へと馬車を出発させた。

 


「教会の人間には、全員に魔力を流してみたわ。……誰も、魔石を埋め込まれていなかった」

 

 馬車の中でリーゼロッテはテオに言う。


「教会も、孤児院も、変な魔力の流れは感じなかったぞ」


(……てことは。怪しい人間は、他からやって来る者なのかしら? まぁ、まめに通えば、そのうち会うでしょ)


 


 

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