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29.教会接近作戦

 ジェラールが、あの教会の男をもっと詳しく調べると言った。それも、国から許可がないと行えない、特別な尋問方法を使って。


 何故、あの洞窟から男だけ逃げることが出来たのか?

 どうやってフランツに接触し、洞窟に入れたのか?

 誰の指示によるものだったのか?


 その他、諸々……知りたいことが沢山ある。


 ジェラールは、リーゼロッテが宮廷に地震のような揺れを起こしてしまったのを、上手い具合に男が原因を知っていそうだと関連付けるようだ。

 知り得た情報は、特殊な魔道具を使ってリーゼロッテに連絡くれると約束した。


 ――そして。


 何やら閃いたらしいジェラールから()()()()をされた。


「リーゼロッテ、聖女候補にならないか?」


「……はぃぃ?」


 理解出来ずに間の抜けた返事をしたリーゼロッテは、コテンと首を傾げた。


「勿論、ただの候補だ。この国は、聖女を守護の象徴として讃えていながら――実際は軟禁状態。教会と王族の権威を守る為、少女をお飾りにしてバランスを取るやり方……私は嫌いだ。だから、この制度を壊す」


「……壊すって? まさか、国王にでもなるつもり?」


 冗談めかして聞いたが、ジェラールはニヤリと笑っただけだった。


「リーゼロッテが、聖女候補になってその力を見せれば、教会の上の奴等が目を付ける。飾りの聖女じゃ無くなるんだ、王族よりも教会が優位に立てると考えるだろう。政治に介入してくる枢機卿辺りが、すぐに動く筈だ」


「では、アニエス様は?」

 

「癒しが出来る貴重な存在である事には変わりないが、上手く降格すれば……婚姻は無理でも、あの従僕とずっと一緒に居られるだろう」


(あ、バレてたのね二人の関係。……本当、侮れない王子だわ)

 

「ですが、私は()()()聖女にはなりませんよ」


 胡乱げに、ジェラールを見た。


「だから、壊すと言ったのだ。考えがある」


「分かりました。どの様に動けば良いですか?」


 


 ◇◇◇




 辺境伯邸に戻るとすぐ、ルイスの執務室へ向かい、ジェラールからの提案と趣旨を伝えた。


「そうか……。私も気になる事があった」と、ルイスは話し出す。


 リーゼロッテとテオが宮廷へ向かった後、屋敷の使用人を集めて、あの魔玻璃に触れさせた。

 驚いたことに、魔石が埋め込まれていた者が数名いたそうだ。


「共通点は、姉上の慈善活動で、一緒に教会や領地内の小規模施設をまわった者。それから、フランツを初めて礼拝に連れて行く時に一緒だった、ナニーもだ」


 エディット付きだった侍女と、フランツのナニー、従僕と御者の計4人だった。


(慈善活動で教会……ね)


 この国での慈善活動は、領地を治める者の妻の義務だ。


 教会に寄付をしたり、孤児院や身寄りのない者を訪問し、施しを配ったりする。辺境伯領は、騎士として戦いに赴く者が多い為、どうしても身寄りのない者が他の領地よりも多いのだ。

 

「怪しいのは――やはり教会ですね?」


「……その感は否めない」とルイスは渋い顔をした。

 

「殿下の案で、動いても良いですか?」


「この領地内の教会だ。リーゼロッテ、私からも頼む」


 ルイスから許可も出たので一安心だ。


(よーし! やるぞぉ!)


 早速、リーゼロッテは準備を開始した。

 

 本当は、平民のふりをして潜り込みたかったのだが、それだと後で身元を調べられたら困る。聖女候補なら尚更、誤魔化すことなど不可能だ。

 だったら、最初から辺境伯令嬢として教会に目を付けられれば良い。教会(あちら)にとったら、聖女と聖遺跡を一度に手に入れるチャンスになるのだから。


(ついでと言っては何だけど。ちゃんと領地の内情を把握する良い機会だわ)


 この世界は、貴族と平民の差が激しい。

 回復薬の流通事業でだいぶ潤っては来たが。まだまだ辺境伯領は裕福な地とは言えず、苦しい民もいる。

 そんな平民の通う学校も見てみたかった。


 エディットがやっていた慈善活動を引き継ぐ感じで、リーゼロッテと従者のテオが教会へ赴く。


(お母様の意思を継いで……。うん、名目としては十分よね)


 善は急げとばかりにリーゼロッテは動く。

 執事マルクに、エディットが今までやって来たことと全く同じになる様に、施し用の品や寄付金の準備を頼んだ。


 ――数日で全てが揃った。


 リーゼロッテは、令嬢らしいが派手ではなく、手伝いが出来そうな動きやすいワンピースを着ると、沢山の荷物を馬車に乗せて教会へと向かった。




 教会は、邸宅からだいぶ離れた街の外れに建っていた。どうやら、孤児院は隣に併設されている様だ。


 エアハルト家の馬車が教会の前に到着すると、中からバタバタと慌てたように人が集まって来る。


「うわぁっ! すっげぇ、綺麗な馬車だあ!」


 元気よく一番に飛び出して来たのは、焦茶色の短髪の少年で、その後を追うように数人の子供と大人がやって来た。


「こらっ!! ラルフ、待ちなさいっ!!」


 少年を叱るように呼んだのは、亜麻色の柔らかそうな髪を緩く後ろで束ねた、少し垂れ目の優しそうな美青年だった。





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