表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/72

19.ルイス視点②

(もしかしたら、リーゼロッテの友人に同じ名前を持つ者がいたのか? ……いや、それは無いだろう)


 リーゼロッテは、まだお茶会等に出席したことはないはず。

 この領地は、他の貴族領からだいぶ離れていることもあり、辺鄙な土地を好んでやって来る者など居ない。同年代の友人を作ることさえ難しいのだ。


(それに……)


 知り合いの貴族は限られている。ルイスが把握している中に、その名を持つ者はいない。


 ブランディーヌの所でも、誰かと会ったとは聞かなかった。屋敷で久しぶりの二人での時間を楽しく過ごしていたと、ブランディーヌ本人から直接言われたのだから。


(やはり、考えられるのは……)


 リーゼロッテの動向を観察していても、以前と何ら変わりは無かった。

 以前と言っても「お父様」と呼んだあの日からだが――。むしろ、それより前のリーゼロッテとは別人だった。


(成長したと言った方が良いのだろうか?)


 フランツや家庭教師がいる時は、子供らしく無邪気な姿を見せた。

 逆に、テオと二人で居る時は、やたらと落ち着いている様に見える。


(気のせいか? いや……テオと二人の時を、注意して観察してみよう)




 ◇◇◇




 ルイスが観察し始めて暫く経った。


 その日、リーゼロッテとテオは屋敷の中には見当たらず、庭でお茶をしていると侍女から聞いた。

 声をかけるつもりは無かった。

 だが、気配を消して近付くと、テオの声が耳に入ってきてしまったのだ。


「そもそも、何故ルイスに隠す必要がある? ブランディーヌにも、ある程度は知らせていたではないか」


 途切れ途切れに聞こえてくる、会話の内容の意味が理解できない。


「全て話したら……きっと、以前のリーゼロッテとは別人だと認識される気がするの」


(以前のリーゼロッテとは別人? ……どういうことだ?)


 ふと眼を凝らすと、テオがリーゼロッテの頬に愛おしそうに触れていた。


(……なっ?!)


 気が付いた時には――足は勝手に二人の元へ行き、リーゼロッテの背後から声をかけてしまっていた。

 二人の視線がルイスに向く。


(後戻りは出来ない……か)


 リーゼロッテがリリーだったらと仮定し、魔石と同じ色の瞳を見詰め――鎌をかけた。


 半信半疑だったそれは、リーゼロッテによって確信へと変わった。

 つい、キツめに問い質してしまい後悔する。出してしまった言葉は、戻すことなど出来なかった。


(私は……父親としての余裕がまだ無い。未熟だな)

 

 そして。


「お父様! 騙してごめんなさいっ!」


 謝罪の言葉と共に、目の前で変身したリーゼロッテ。

 リリー姿になったリーゼロッテに、何を言ったら良いか分からなかった。あれ程までに会いたかった人が、まだ幼い自分の娘だったのだから。

 

 こんな魔法が使えるのはフェンリルであるテオだと思い、騙されたという怒りの矛先はテオに向いた。



 だが――そうでは無かった。



 誰にも聞かれたくないとのリーゼロッテの希望で、場所を変え結界を張る。


 話し始めたリーゼロッテの口調は落ち着いていて、見た目は子供なのにリリーそのものだった。

 

 しかも、想像だにしない内容。

 異世界からの転生、桁外れの魔力、リーゼロッテの二度目の人生……次々に信じ難い言葉がやってくる。

 ルイスは頭が混乱した。

 

(けれど……それら全てが本当ならば、今迄の出来事の辻褄が合う)


 そして、何よりも驚かされたのは、これらの大本のきっかけが15歳のリーゼロッテの死であるということ。


(リーゼロッテは、私を助けようと……)


 15歳の女の子が、どんな思いで死を迎えたのかを知った。リーゼロッテはその辛い記憶を残したまま、必死で回避しようと奔走していたのだ。


(7年後の私は、一体何をしていたのかっ! 子供達を守れないなんて……)

 

 不甲斐ない自分自身に腹が立った。

 そんなルイスの心を見透かしたかの様に、テオは言う。


「さて、ルイスよ。我が主人は全てを話した。次は、我々の番ではないか?」


 テオの言葉に、この辺境の地について、リーゼロッテには知る権利があると思った。

 代々伝わる資料を見せ、子供達には隠していた兄夫婦の死の真相を伝えた。

 

 また、テオも自身が捕らえられた経緯を話した。プライドの高いフェンリルにとっては、余り言いたくなかっただろうが。


 暫く考え込んでいたリーゼロッテは、大きく息を吐き、真っ直ぐ前を見据えて、こう言った。


「私が、全てを守ってみせます」と。


(この娘は、どこまで自分を犠牲にするつもりなのか? 全く……)


 呆れて、思わず笑ってしまう。

 

「「何を言っているのだ?」」


 テオと同時に言葉が出てしまった。


(リーゼロッテを守るのは、私の役目だ)


 二度も同じ苦しみを、絶対に味合わせたくない。

 必ずやリーゼロッテを守ると、心に誓った。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ