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18.ルイス視点①

お読みいただき、ありがとうございます!

ルイス視点での話の流れです。

重複している部分も多くなります。

 ――それは、突然の訃報だった。


 いつもの近衛騎士団の訓練場に、緊急の連絡があった。辺境伯である兄と、義姉が亡くなったと……。

 聞かされた内容に、ルイスは頭の中が真っ白になった。


 だが、ショックを受けている暇はない。

 先ず、国王陛下との謁見を取りつけ、直ぐに領地へと向かわなければならなかった。


 エアハルト辺境伯領は、この国にとって最も優先すべき重要な土地なのだ。だからこそ、ルイスは傍系であるにも関わらず、実弟として育てられた。


 宮廷での手続きを済ませ、兎にも角にも急いで馬を走らせた。



 ◇◇◇



 心配した結界は、完全修復されていたが――。


(なんてことだ……)


 兄達の元へ着くと、それは酷い有様だった。


 魔力不足で結界が弱まると、周囲の森に住む魔物達が活発になり、辺境伯領に入って来てしまう。通常なら、辺境伯領の騎士団で対処しきれる程度だが――。


 万が一、魔玻璃によって保たれていた結界に亀裂が生じると、かなりの高位魔獣が結界の向こう側から出てきてしまう。


 まさかの後者だった。


 魔玻璃のある洞窟の中には、兄リカードが倒した侵入者と、馬鹿でかい魔獣の死骸が転がっていた。


(――くそっ! 兄上は、魔玻璃の修復で全ての魔力を……)


 兄と共に戦った側近は何とか一命を取り留め、後日状況を聞くことが出来たが――。ルイスは領地と爵位継承、その他恐ろしい程の執務量で、身内を亡くした悲しみに浸ることも、睡眠さえもろくに取れなかった。




 ◇◇◇




 そして、漸くひと段落ついた頃――。


 兄夫婦の忘形見である、姪と甥の将来を考え、自分の養子にすると決めた。

 甥のフランツは、まだ小さく人懐っこくて直ぐに慣れてくれたが。姪のリーゼロッテは、一年経っても全くの平行線。


(完全な反抗期か……。参った)


 挙げ句の果ては、泣きながら啖呵を切って、邸宅を飛び出す始末。


(泣きたいのは、こっちだ)


 心配し、使用人と一緒に探していた矢先、フランツを連れて帰ってきた。

 リーゼロッテは今までと打って変わり、驚くほど素直に謝罪すると――ルイスを「お父様」と呼んだのだ。


 正直、ルイス自身の心が限界に来ていたのかもしれない。リーゼロッテの言葉で、堰を切ったように涙が流れ出していた。




 ◇◇◇




 本物の親子になれたと思っていた――そんな矢先。


 フェンリルがいる地下牢に異変があり、慌てて駆けつけると……リーゼロッテが、銀髪の美しい青年になったフェンリルと、従魔契約を結んでいた。


 どう考えてもあり得ない事態だが、フェンリルはリーゼロッテが気に入っている様子だった。

 契約は確かに本物で、フェンリルはリーゼロッテを守ると誓ったので、認める他なかった。リーゼロッテに対する馴々しさは、少し引っかかったが……。

 


 フェンリルのテオが居る生活に慣れた頃。


 リーゼロッテとテオが森で取ってきた花は、最高級の回復薬が作れる素材だった。

 その回復薬の件を宮廷に報告すると、国王陛下からの呼び出しがあった。


 本来、この時期に当主が王都へ赴くのは厳しいのだが。テオの存在により、魔物がおとなしくなっていたおかげで可能になった。

 ただ、何故かリーゼロッテとテオまで一緒に行くことになってしまったのだが。




 ◇◇◇




 国王陛下との謁見と、高濃度の最高級回復薬の献上を済ませると、ルイスはもうひとりの重要人物に会いに向かった。

 以前、近衛として護衛についていた聖女アニエスの元へ。


 王族と教会によって、国を守る聖女として連れて来られた少女は、大きな力は持っていなかった。

 辺境伯となった今、国の結界についての真実は全て理解している。そのせいで、余計に平民の聖女に対する扱いが心配になってしまったのだ。


 久しぶりに会った聖女アニエスは、相変わらず元気そうでルイスはホッとした。しかも、優秀で頼りになる侍女も出来きたと言う。


 だが、紹介された侍女の顔を見た瞬間――ルイスは心臓が鷲掴みにされたように苦しくなった。


 ルイスの初恋で、ずっと片想いだった相手。もう遠くから見ることさえ叶わない、義姉にそっくりな女性が立っていたのだ。


 その侍女は、リリーといった。


 初めは義姉に似ているリリーを、つい目で追ってしまったのだが――。立ち振る舞いも完璧で、何よりもアニエスを本当に大切にしているのが、傍目からでも分かった。



 日に日にルイスは、彼女自身に惹かれていった。

 少しでも長く、一緒の時間を過ごしたかったが……あっという間に、領地へ戻る日になってしまった。


 意を決して、正式な付き合いを願い出るつもりで、離宮へと向かったが――リリーは居なくなっていた。


(嘘だと言ってくれ……)


 目を真っ赤にしたアニエスの顔が、それが嘘ではないと物語っている。リリーからのプレゼントなのだろう薔薇の飾りを、大事そうに抱えていた。


 ショックを隠しきれぬまま、リーゼロッテを迎えに行き、約束していた誕生日のプレゼントを買いに向かった。リリーに指輪を渡したくて、一度下見に来た店へ。


 リーゼロッテは喜んでくれ、リリーの瞳の色と同じ魔石が埋め込まれた髪飾りを選んだ。よく見れば、リーゼロッテの瞳も同じ色だった。


 帰りの馬車の中、リーゼロッテは相当疲れていたのか、すぐにスヤスヤと眠ってしまった。


(あんなに反抗的だった時期が、まるで嘘のようだな)


 無邪気な寝顔で、モゴモゴと何かを言っているのが聞こえて来て、思わず笑ってしまう。


(寝言を言っているのか……)


 何を言っているのかと耳を澄ませて聞いてみた。


「……アニエスさま……それはまだ……ですよ」


 自分の耳を疑ったが――確かにはっきりと、リーゼロッテは聖女アニエスの名前を呼んでいた。


(どういうことだ?)


 訳がわからなかった。

 真相を確かめたくて、その日からリーゼロッテを観察することにした。



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