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17.テオの過去と女神伝説

「それで――、その魔法はテオがやったのか?」


 少しだけ怒りを含んだ瞳で、ルイスはテオを見た。

 テオは動じずに何も答えない。


「お父様、テオではありません。全てをお話し致します。……ですが、それは誰にも聞かれたくないのです」


 元の姿に戻ったリーゼロッテは、チラッと庭を見渡した。ルイスがここに居るならば、必ず近くに従者が待機している筈だ。

 辺境伯邸の使用人達を信頼はしてはいるが、個々のプライベートな事情は知らないし、どこでどう犯人と繋がっているかは分からない。


 ルイスは、リーゼロッテの真剣な表情を見て頷いた。




 執務室へ移動するとルイスは人払いをして、音遮断の結界を張る。

 

「これから、お話しする事が私の全てです」


 そう言うと、リーゼロッテは木から落ちて目が覚めた所から、今日までに起きた事を話し出した。


 ルイスは信じられないとばかりに、胡乱げな表情でリーゼロッテの話を聞いていたが――。徐々に、それが本当の事だと思わずにはいられなくなる。


 齢 9歳の子供がする話の内容ではなかった。


 リリーとしての立ち振る舞いも、大人の女性らしく侍女としても完璧だった。だからこそ、ルイスはリリーに惹かれた。

 そもそも、ブランディーヌを巻き込んだとしても、離宮にまで入り込むなど、普通の大人ですら不可能の所業なのだ。


 ルイスが、今まで感じていた違和感……点と点が繋がって行く。フェンリルを従魔に出来たことにも納得できた。 

 

 そして、リーゼロッテの話が終わった。

 リーゼロッテの背負っている事の重さに、ルイスは言葉が出なかった。


「これが、私の嘘偽りの無い全てです。私は、この世界に転生する前の記憶と、リーゼロッテとして15歳まで生きた記憶が残っています。ですが、何故また子供に戻ってしまったのか、私には解りません」


「……どうして、最初から言わなかったのかい?」


「たかが8歳の子供が、この話をした所で……お父様は信じてくれましたか?」


「……確かに。今だから信じられる……か」


「さて、ルイスよ。我が主人は全てを話した。次は、我々の番ではないか?」


 リーゼロッテを見詰めていたルイスに向かって、テオが言う。


「そうだな……リーゼロッテは知るべきかもしれない」


 立ち上がったルイスは、沢山の本が並んだ棚の中から、古めかしい年季の入った手書きの本を取り出す。

 リーゼロッテに渡すと、読むように言った。


 ――それは、先代の当主が後世の為に書き残した物だった。



 昔、この地には一人の不思議な少女がいた。


 とても強い魔力があり、人間にも魔物にも慕われていた。人々は、彼女を女神と呼び、魔物達は魔王と呼んだ。

 ある時、人間の王は権力を使って彼女を娶り、全てを我が物にしようと考えた。それに怒り、魔物達は人を襲うようになった。

 平和な共存を望んでいた彼女は悲しみ、この地に戻ると、魔物が住む地と人々が住む地の間に結界をつくり、其々が相手の地を脅かさないようにした。


 そして、彼女の命が終わる時――。

 最後の魔力を使い、結界の境界線の真下に、結界を維持するための魔玻璃(まはり)を残した。

 

 その後、彼女の子孫はこの辺境の地で、唯一魔玻璃に魔力を送り続けられる血族とし、結界を守り続けている。

 魔物達も彼女を本能的に慕い続け、血族以外で魔玻璃に触れた者から、魔王の残した魔玻璃を衛っているのだ。


 最悪の事態を招いた王は失脚し、次代の王は女神の血を絶やさないようにと、領地継承に『特記事項』を付与した。



「これが、代々受け継がなければならない、この辺境の地である領主の役目なのだよ」


「……魔玻璃ってなんですか?」


「魔力で出来た水晶の様なものだ」


(水晶……それって、光っていたのかしら? 光っていたら、剣に反射するかも……)


 考え込むリーゼロッテに、今度はテオが話し出す。

 

「いつの世にも、私利私欲に塗れた者は現れる。

 その魔玻璃を聖遺物と考え、持ち去ろうとする者がたまにやって来るのだ。血族以外が、それに触れれば結界に亀裂が生じてしまうのにな。

 100年程前の者達は厄介だった。亀裂から守りに出た私を捕らえることが出来たのだからな。勿論、当主によって亀裂は塞がれ、奴等の残党は捕まった。 

 国は残った私を処分しようとしたが、そんな力がある人間など居なかった。当時の当主は、人間のせいで申し訳ないと言っていたが……私は人間を襲った為、そのままあの地下牢に入れられたのだ。

 亀裂も塞がり、どうする事も出来なかったのだろう。

 そして、100年経った今。リーゼロッテが現れたのだ。その女神と同じ力を持ってな」


(そうだったのね……)


 リーゼロッテが願った事を叶えてくれたのは、御先祖である彼女だったのだと確信した。

 

 ルイスの話では、父リカードと母エディットは、その聖遺物を手に入れようとやって来た人間のせいで、亀裂から出た魔物にやられたのだ。


 母は、人質にされたフランツを守る為に盾となり、父は戦いながら結界修復に魔力を使い切ってしまったそうだ。

 幼いフランツには、その記憶が残っていない。ある意味、それは良かったとリーゼロッテは思う。


 そして、気がついた。


(私は、多分誰かを連れて其処へ行ったのかもしれない。そして、魔物に襲われた……)


 浅はかな自分の行動のせいで、結界に亀裂を生じさせ、ルイスやフランツを巻き添えにしたのかもしれない。

 

(もし、そうだとしたら……)


 苦しい程に胸が痛くなった。


 ――これは、女神様がくれた二度目の命とチャンス。


 絶対に、一周目の過ちは犯さないとリーゼロッテは心に誓った。


(つまり、これから先……。私に接触し、利用しようとしてくる人間が――黒幕だ!)


 緊張からか身体中に入っていた力を抜くため、大きく息を吐き、テオとルイスに向かって言った。


「私が、全てを守ってみせます」




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