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15.お別れ

 ――今日で、いよいよ最終日。


 教会の方は、特に怪しい所は見つからなかった。


 テオに跡をつけてもらい様子を見て来てもらったが、宮廷から離れた挙動不審男は、普通に過ごしていたそうだ。

 本当にただの教会の人間で、外部とのやり取りは無いらしい。

 まあ、リーゼロッテもたった3日で何かを発見出来るとは思ってはいなかったが。


(うーん、勘が外れたかしら? でも、あの男の顔は覚えておこう……念のため)


 テオからの報告を聞き終わると、綺麗に咲いたピンクローズを選び、一輪取る。

 リーゼロッテは、早朝から離宮の庭園の薔薇を眺め、ある事を考えていた。


『その花をどうするのだ?』


「ふふっ、ちょっと見ていて」


 手のひらに置いた薔薇に魔法をかけると、透明な球状の器に入れる。枯れない花ブリザードフラワーの様に、可愛らしく飾れる仕様にしてみた。


『……その器は、結界か?』


「ピンポーン! 当たりよ!」


 テオは不思議そうに首を傾げる。


「水分と空気を抜いて成長を止めた薔薇を、弱い結界の中に閉じ込めたの。これは、アニエス様へのプレゼントよ。もしも、何か危機が迫ったら、これを投げて壊してもらうの」


『結界が壊れれば、離れていてもリーゼロッテが感知できる。……成る程、面白い事を考えたな』


「でしょ〜! 一度来たことがある場所なら転移できるしね」


 これを渡したら、アニエスとは暫しのお別れになる。

 今日の午後には、ブリジットが配属される予定だ。


 リーゼロッテの予想では、午前中にルイスが領地に戻る挨拶にやって来る。

 リリーは、その前に消えないといけない。


 ルイスはきっと、リリーに離宮以外でまた会いたいと言うだろう。

 アニエスと違って、ルイスには下手な嘘は通じない。適当な退職理由なら、簡単に調べ上げられボロが出てしまう。

 ――そもそも、リリーなんて侍女は存在しないのだから。



 

 アニエスが目を覚まし、支度を済ませると、リリーとして退職の挨拶をした。

  


「……嫌よ。リリー、何処にも行かないで……」


 案の定、泣き出してしまったアニエスを慰める。


「アニエス様、リリーもお別れはしたくありません。ですが、これは仕方のないことなのです。お側にお仕えすることは出来ませんが、アニエス様が……立派な聖女様に成るのを必ず見守っております」


 そっとアニエスの手を取ると、朝作った薔薇の飾りを手に乗せた。


「……きれい……」


 涙声で、アニエスは言った。


「もし――。アニエス様に危機が迫り、助けが必要になった時は、これを壊して下さい。必ず助けに参ります。特別な魔法をかけた、世界で一つだけのリリーからのプレゼントです。ふふっ、誰にも内緒ですよ」


 パアァっと、顔を綻ばせると元気よく頷いた。


「わかったわ、絶対に内緒にするっ! リリーからのプレゼントだから……大切にするわ」


 アニエスは、ぎゅっと薔薇の入った器を胸に抱く。


 午後には新しい侍女ブリジットが来ることと、近いうち信頼できる従僕もやってくると伝えておいた。


 

 ――それから、リリーの姿は離宮から消えた。

 



 ◇◇◇




 その日の昼。

 

 リーゼロッテは、ブランディーヌと一緒に昼食を取りながら、ロビンの状況を尋ねる。


 ロビンは、ブランディーヌの友人で早くに子供を亡くした子爵家の養子になった。

 どうやら、慈善事業に熱心な夫人らしく、喜んでロビンを受け入れてくれたそうだ。

 今は、従僕になる為に徹底的に礼儀作法を仕込まれている最中らしい。


 そして、漸くリーゼロッテを迎えに、ルイスがやって来た。――明らかに、落ち込んでいる表情で。


(うわぁぁ……暗っ!)


 ルイスに黙って消えた申し訳なさを感じつつ、ブランディーヌには、近いうちにまたこっそり遊びに来ると告げた。




 馬車に乗り少し行くと、凝った外観の素敵なお店の前で止まった。


「リーゼロッテ、この店でお誕生日のプレゼントを買おう。ここは、王都で人気の店なんだよ」


 やっと気持ちを切り替えたのか、ニッコリ微笑んだルイスに連れられ入店した。

 テオも、久しぶりに人の姿になっている。


「うわぁ! ……素敵!」


 そこは、とてもお洒落なアクセサリーショップだった。いかにも上流貴族御用達の店。


(お値段は……うん、可愛くなさそうだわ)


 店主とルイスは知り合いの様だ。


 聞き耳を立てると、店主は色々な指輪をルイスに薦めていた。

 徐にルイスが手にしたのは、リーゼロッテの瞳と同じ色の魔石が埋め込まれた指輪……しかも、大人の女性サイズ。切なそうな表情で、それを置き首を横に振った。


 多分、ルイスはリリーの為に指輪を見に来ていたのかもしれない。


(うっ……お父様、ごめんなさい)


 リーゼロッテは、その指輪の魔石と同じ物が埋め込まれた髪飾りをねだった。

 勿論、値段も指輪よりも可愛い。

 指輪は受け取れないが、ルイスの気持ちは素直に嬉しかったのだ。


 早速、髪につけてもらいアクセサリーショップを出る。同じ通りに並んだ他の店で、沢山のお土産を買うと辺境伯領へと出発した。


 長い道のり。


 リーゼロッテはこの数日間の疲れが、ドッと出てしまった。

 やはり、体力はまだ子供なのだ。


 コックリコックリと船を漕ぐリーゼロッテを、ルイスは微笑ましく見ていた。

 テオは人の姿をやめ大型犬サイズになると、リーゼロッテのクッション代わりになって楽な体勢を保たせる。


 リーゼロッテは、気持ち良さそうに眠りながら――モゴモゴと口を動かし寝言を言っていた。


 プッと、思わず笑ってしまいそうになったルイスは、何を言っているのかと耳を澄ませて聞いてみる。


「……アニエスさま……それはまだ……ですよ」


 思わず息を呑む。


「……どういうことだ? 今……確かに、アニエス様と……」


 ルイスは掠れた声で呟いた。


 リリーの瞳と、同じ色の魔石がついた髪飾りを付けて眠る、リーゼロッテから目を離すことが出来なかった。




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