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13.聖女の想い人

「えっ?」


 アニエスは、聖女が口にしてはいけないことを、軽く言ってしまった。

 確か――この国の聖女は、婚姻は出来ない筈だ。


(好きな人がいるって……。一周目みたいにイケメンを侍らすのもどうかと思うけど、聖女がそれ言ったら不味くない?)


 唖然とするリリーにお構い無しで、アニエスは勝手に話し出す。


 同じ孤児院にいた2歳年上の男の子。お兄ちゃん的存在でいつも頼りにしていたそうだ。


 アニエスが聖女認定された時、これから先は教会に仕えて幸せに暮らせるだろうと、一緒に喜んでくれた優しい子だとか。

 まさか、こんな国を守護する大役の聖女だとは、二人共考えもしなかったらしい。


 あれよあれよという間に、教会のお偉いさんと面会させられ、枢機卿に宮廷へ連れてこられた。

 気が付いたら、この離宮に居たらしく、その彼とは会えなくなってしまったそうだ。

 一応、相手の相手の名前は秘密だと言っていたが、会話の中で「ロビン」と呼んでいたので、その男の子の名はロビンなのだろう。

 アニエスは……ちょっと、天然なのかもしれない。


「ちゃんと、お別れも言えなかったの……」


 そう、伏し目がちに言ったアニエスは、寂しそうだった。


(うーん……。15歳位の男の子ねぇ)


 リーゼロッテとテオは、目が合うと同時に思った。


『『……あれかっ』』

 

 先程からずっと感じていた視線――。

 テオは、スッとその場を離れた。


「アニエス様、少し失礼致します」と、リリーもお茶セットのワゴンを押して、厨房に向かった。


 ワゴンを置き、厨房の勝手口から外へ出る。

 植木の間を小走りに移動し、視線を感じた窓の近くにやって来た。どう見ても、不自然な動きをしている植木の葉がある。

 

「……やめろよっ。離せって! な、なんなんだよぉ……このクソ犬っ!」


 植木と植木の間、隠れる様に蹲み込んでいる赤髪の少年と、その少年の服をしっかり噛み付いて離さないテオ。

 必死で服を放させよと引っ張っているが、小さいのにテオはピクリともしない。

 その上、少年は軽く威圧されて半ベソになっている。

 

(まあ、見た目は小さくなってるけど、フェンリルだからねぇ……)


 リーゼロッテは苦笑した。


「その子はテオよ。クソ犬じゃないわ」


 急に声をかけられ、少年はビクッとする。

 さっきまで、アニエスと一緒にいた侍女が目の前に現れ、真っ青になった。


「正直に話せば、見逃してあげるわ。あなたは誰? 此処で何をしているのかしら?」


 大方の検討はついているが、一応本人確認をする。


「…………」


「あら、言えないの?……仕方ないわね。テオ、お願い」


『承知した』


 テオは、見る見る大きくなり、少年を前足で押さえ込むと、大きく口を開いた。仔犬だと思っていた()()が、大型犬サイズになり狼だと気がついた。……本当は、魔獣であって狼ではないが。


「……ヒィィッ! ごめんなさい、話すから食べないでっ!! 俺は、ロビンですっ。厨房に食材を運ぶ仕事をしています!」


 ――予想通りだった。


 離宮の中に入ってから感じていた視線。敵意を全く感じなかったから、放置していたが。

 聖女の想い人、孤児院で一緒に育ったロビン。きっと、アニエスのことが心配で、少しでも近くに居たかったのだろう。

 

「ねえ、ロビン。あなたはアニエス様が心配なのね。それで、隠れて見守っているの? でも、アニエス様は気が付いていない……」


 図星をつかれ、目を見開いた。


「そうだよっ! アニエスが……元気で楽しそうならそれでいい。あいつは寂しがり屋だから。俺に気が付かなくてもいいんだ。だけど、近くに居れば悪い奴が来ても守ってやれるからっ!」


(……守るねぇ。どうしたものかしら?)

 

 頼もしいが、全く実力が伴っていない。

 リーゼロッテは、暫く考えて……決めた。


「ロビンは、毎日ここへ来ているの?」


「ああ、毎日食材を届けている」


「じゃあ、明日もこの時間にこの場所に来て」


 きょとんとするロビンに、リーゼロッテはニッコリと微笑みながらもう一言を付け加える。


「そうそう、私とテオのことは誰にも言ってはダメよ。もしも、誰かに喋ったら……」


 テオの大きく開いた口が、ロビンの目の前にあった。


「ぜ、絶対に誰にも言わない! ……だ、だけど、アニエスに何かしたらタダじゃおかないからなっ!」


「大丈夫、私達はアニエス様の味方よ。また明日ね」


 クスッと笑って、リーゼロッテはテオを連れて離宮に戻った。




 ◇◇◇


 


 ――その晩。


 リーゼロッテはブランディーヌに相談したいことがあり、伯爵邸に転移した。


「お祖母様、ただいま帰りました」


 突然、目の前に現れたリーゼロッテに、ブランディーヌは驚く。

 手にしていたティーカップをそっと置いた。


「リーゼロッテ……。急に、驚かさないでちょうだい。転移魔法が使えるなら、前もって言いなさい。……心臓に悪いわ」


 そう言いつつ、全く動じないブランディーヌ。


「驚かせて申し訳ありません。……お祖母様に、相談に乗ってほしいのです」


「何か、離宮であったのね?」


 今日一日で起こったことを話し、リーゼロッテはブランディーヌの力を借りたいとお願いした。

 


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