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11.強い味方

「つまり、リーゼロッテは未来を変え……生きる道を選びたいと?」


「はい、そうです」


 ドキドキしながら、次の言葉を待つ。


 ずっと強張っていたブランディーヌの表情が、リーゼロッテの返事を聞くとフッと緩んだ。

 

「いいでしょう。私も、もう大切な者を失いたくありません。――ただし! 決して無理だけはしないと約束なさい」


「お祖母様……ありがとう存じます」

 

 ブランディーヌは、今までリーゼロッテが見たことの無い、優しさに満ちた微笑みを向けた。


「では、私は何をすれば良いのかしら?」


「お祖母様は私がこれからすることを、全て知らなかっことにしていただきたいのです。私はこの邸宅で、お祖母様と楽しくずっと過ごしていた、と」


 そう、アリバイ作りを頼みたかった。


「私は、見て見ぬ振りをすれば良いのね? それだけでは、つまらないわ……他は?」


 完全に乗り気になったブランディーヌに、リーゼロッテは苦笑してしまう。


(流石、私のお祖母様ね!)


「私、離宮に居る聖女様を見てみたいのです」


「……リーゼロッテ、流石にそれは難しいのではなくて?」


「はい。正攻法は無理ですから、使用人として忍び込むつもりです。その為に、メイド服も持参しました」


「そんな危ないことっ! いくらお仕着せがあっても、子供のリーゼロッテには無理でしょう!?」


「それが、無理ではないのです」


 来ていたワンピースのウエスト部分のリボンを解くと、全身に魔力を巡らせた。

 見る見るうちに、手足が伸びて女性らしい身体つきになっていく。丸みのあった顔立ちはスッとして、美少女から美女へと変わった。年齢的には、18〜20歳というところだ。


「――エディット!」


 瞠目したブランディーヌは、目に涙を溜め震える手で口元を隠し呟いた。


「お祖母様?」


 リーゼロッテの呼びかけに、ブランディーヌはハッとした。


「……リーゼロッテ、凄い魔法ね。あなたは成長すると、エディットの若い頃によく似ているわ。やはり、親子ね……」


 高度な魔法を人前で使うのは躊躇があったが、この姿をブランディーヌに見てもらえて良かったと、心から思った。


 持ってきたメイド服を着て見せると、宮廷の侍女のエプロンとフリルの形が違うことが発覚した。

 すると、ブランディーヌは口の硬い侍女に、宮廷使用人御用達の店でエプロンを買ってくるよう指示を出してくれる。


 この日は、ずっと二人で楽しい時間を過ごし、翌日に目立たない馬車を用意してもらい、聖女が住むという離宮へと向かうことになった。




 ◇◇◇




 ――そして翌日。



 見上げるほど高い豪奢な鉄柵の向こうには、まるでバラ園の様に美しい薔薇が沢山植えてあり、中が見えないようになっていた。

 ぱっと見は解放的な感じがするが、中からも外からも出入りするのは不可能な造りだ。……普通であれば。


 メイド服のリーゼロッテと、ミニ狼姿のテオは、近くの茂みの中から様子を窺っていた。


『あの奥の建物が離宮ね。特に、結界とかは……張ってなさそうね』


『その様だ。全く、強い魔力も感じないな。いったい聖女とは何者なのだ?』


『私も会ったのは、一度だけだし……。多分、今はまだ13歳位ではないかしら?』


 まだ未熟だから、魔力が弱いのか……実は、凄い魔力があるのを抑えているだけなのかは分からない。

 ただ、ルイスやブランディーヌの情報では、教会から正式に認められた、国を守る力を持った聖女であるという話だった。


『まあ、当人を見てみれば判ることだ。リーゼロッテ、飛び越えるぞ』


 人の気配が消えたのを見計らって、テオとリーゼロッテは鉄柵を軽々と飛び越え、薔薇と植木の間へ着地した。

 そのまま屈んだ状態で、離宮へと近づいていく。服を枝や刺で引っ掛けてしまわないように、それにとても気を使った。


(大人の体型だと、これって結構キツいっ……!)


 身軽なテオは、どんどん進んでいく。


(テオったら……ずるい)


 はぁはぁしながら、ある程度進んだ時……。

 テオの『リーゼロッテ、危ないっ!』と言う言葉が頭に響いた。

 しかし、遅かった。

 リーゼロッテのキッチリお団子に纏め上げられた頭が、ポフッと何かにぶつかったのだ。


 ――最悪の事態。


 リーゼロッテは、仕方なく覚悟を決めて顔を上げる。

 ぶつかった()()は、女の子のスカートだった。


「……あなたは、だれ? 新しい侍女?」


 ふわふわのピンクがかった髪を揺らし、コテリと首を傾げた女の子――聖女アニエス、その人だった。

 リーゼロッテは、さっと立ち上がり侍女らしいお辞儀をした。

 

「聖女アニエス様、新しく使用人として参りました。……リ、リリーと申します!」


「そう! リリーと言うのね、よろしくね!」


 可愛らしく笑みを浮かべたアニエスは、一周目に会ったアニエスとはまるで別人の様な、無垢な少女だった。




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