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「どうして? なんで神田君が!?」
ミヤが髪を振り乱して泣いている。
先程まで神田の葬式に行っていたミヤは、いつもの病院着ではなく制服姿だった。
スカートにギブスの姿が痛々しい。
「ミヤちゃん、落ち着いて」
「だって!」
ミヤは自分の両手に顔を埋める。
先日は神田が座っていたミヤの横には田島が座り、ミヤの肩を優しく抱いてなだめる。
僕は彼女の傍に佇むことしかできなかった。
おそらく、彼女の周りで起こる死の連続について、周りからあることないことも言われただろう。
しかし彼女はそんな誹謗中傷より、神田の死を純粋に嘆いているようだ。
「どうして? やっぱり呪いなの? 私のせいなの?」
「馬鹿なこと言うなよ。そんなわけないだろ」
ミヤは俯いたまま涙を流し続けている。
こういう時、神田だったら何て言うんだろうか。
きっと簡単に彼女を慰められるのだろう。
「おばちゃんが外まで付いて行ってあげればよかったね。
そうすれば、神田君も歩きスマホなんてせずに、ちゃんとおうちに帰れたのに」
神田は歩きスマホをしながら道路を渡り、横から来たトラックに轢かれた、という話のようだ。
アイツなら有り得そうだ、なんてミヤの前にいう訳にもいかない。
「呪いだったら、私、本当にどうしたらいいの?」
ミヤの細い肩が揺れる。
「ミヤ、僕が……」
力になってあげたい。
以前ミヤがいじめられていた僕を助けてくれたように。
気持ち悪いとか言われて殴られて鼻血を出していた僕にハンカチを貸してくれたのが、僕らの初対面だった。
彼女は僕がいじめられているなんて気にもせず、優しい顔でハンカチを差し出してくれた。
そしてそのハンカチを返した時も、僕の事を心底心配しながら、それを受け取ってくれた。
洗濯をしたとはいえ、誰かの、しかも異性の血が一度染み込んだハンカチなんて、普通気持ち悪いと思うと思ったのに。
彼女にとって何気ない普通の行動だったのだろうが、それにどれだけ僕が救われたか。
僕もあんな風になりたい。
そう胸に秘めている僕の横で、田島が何かを思案している。
「うーん、お守りでもあれば、ミヤちゃんの支えになりそうだけど」
「……お守り?」
田島がミヤの不安を抑えるための方法を模索しているようだ。
お守り、という言葉にミヤが反応する。
そして足元の鞄を開けると、一本のかんざしを取り出した。
銀色で赤い蝶々のガラス飾りがついたそのかんざしに、僕は見覚えがあった。
「ミ、ミヤ。
それって」
途端に僕の頬が赤くなる。
「あら、素敵なかんざしね」
田島の言葉に、ミヤがやっと少し顔をほころばせる。
そして胸の前で優しく握る。
「これ、私のお守りなの」
「……ミヤ」
少し照れ臭そうにミヤが言う。
「あらぁ、青春なカンジ?」
暗い雰囲気を払拭しようとするように、田島が明るく言う。
ミヤは驚いたようにきゅっと唇と尖らせる。
彼女の癖だ。
僕の好きな彼女の顔。
そしてその後、ふっと力を抜いて彼女はほほ笑む。
「もう、田島さんたら。
そんなんじゃ、ないです。
修学旅行の時に、ちょっと……」
「ちょっと? ちょっと、何よぅ」
何だか僕まで照れ臭くなって顔を逸らす。
そんなに喜んでくれて大切に持っていてくれるのなら、もっといいやつを買えばよかった。
男の僕がかんざしを買うなんて恥ずかしかったけど、彼女が心惹かれたように立ち止まって見ていた姿が忘れられず、修学旅行中に同じ場所を二度も訪れて買いに走ってしまった。
ミヤはかんざしを両手で握る。
「大丈夫。大丈夫。
私は、大丈夫」
祈るように呟く彼女の姿は、とても綺麗だった。
「うん、大丈夫だよ、ミヤ。
頑張って乗り越えよう、な?」
僕は神田じゃないけれど。
でも僕は僕なりに、彼女を支えていかなければ。
そう決意した。