表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見山さんは決められない  作者: あけがえる
2/5

01.兎にも角にも

 「やりたいことが分からない、ねえ。」


 カラカラとグラスの氷を揺らしながら、中田がつぶやく。中田は思案するような顔をした後、思い切ったようにグラスの氷を口の中に放り込んだ。ガリガリと豪快に音を立てながら氷を噛み砕いていく。ありがちな話ではあるのだ。就活を前にして、やりたいことが分からない大学生何ていくらでもいる。むしろ掃いて捨てるほどいるくらいだ


 「ちなみにその子は何学部何だ。」


 「商学部だ。」


 「商学部かー。」


 中田は苦虫を噛み潰したような顔をしている。きっと、見山さんに提案するべき言葉を咄嗟に思いつけずにいるのだろう。理工学部の俺らからしてみれば、商学部の人がどんな職業に就くのか想像できない。どんな勉強をしているのかが分からないからだ。無論、商学部の人たちからしたら俺ら理工学部がどんな職業に就くのかは想像できないだろうから、お互い様とも言える。


 「んで、山岡は見山さんに何てアドバイスしたんだよ。」


 中田は考えることを諦めたのか、話の続きを促した。


 「まずは経験値を積め、って言ったよ。」


 にやり、としながら中田は言った。まるで俺の答えが分かっていたのかのように。

 

 「俺の時と一緒だな。」


 そう言って、ハイボールのおかわりを注文した。


************************************************************


 「何か興味のある業界とか無いのか?」


 「うーん……何となく、食品とか、広告とかですかね。」


 見山の反応を見る限り、興味のある業界があるというよりは何となく知っている業界名を挙げているだけの気がした。そして重大な失態に気付いてしまった。


 「あ、見山って何学部だっけ。」


 俺は見山が何学部なのかを覚えていなかった。何となく経済学部とか、経営学部とか、そのあたりだった気はするのだが思い出せない。まずは見山の基本情報を思い出すところから始める必要がありそうだ。


 「商学部です。」


 予想していた学部と全く異なる回答だった。商学部か。


 「商学部か……周りの同期はどんな業界を受けてるんだ?」


正直なところ、商学部が目指す業界は俺には分からない。商学、という文字を読んで思い浮かぶことは物を買って売るという商売そのものだ。そのイメージだけで言えば、商社辺りがドンピシャだったりすると思ったが。


 「金融とか商社とか広告とか、色々ですね。」


予想は三分の一だけあっていた。金融だと経済学部、広告だとデザイン学部というイメージだが、その学部通りの業界に進む人はあまり多くはない。むしろそうじゃない人の方が多い。


 「やっぱり人によっては、もう内定を持っている人もいるのか?」


パスタをくるくるとフォークに巻き付けながら聞いてみる。見山は首を縦に振り、大きくうなずいた。


 「そうですね、インターンに積極的に参加していた人とかは、もうそこの会社の内々定を持っていたりしますね。それか、テレビとか外資系の人も内定を持っている人がいます。」


就活生が就活に向けて早く動き出しているか、業界としての採用時期が早い、または新卒採用と関係ない場合は、内々定をもらえるようだ。この内々定と言う言葉もいささか疑問だ。内定を出すと経団連のルールに反するからと、内々定と言う言葉が使われているが、今ではその内々定にも出せる時期が決まっている。そういう意味では今では内々定の前の内々々定があることになる。なんだかアホらしい話だ。


「でも、何でこの時期に俺に連絡してきたんだ。」


見山と俺はサークル内では仲の良さは普通だった。プライベートで飲みに行ったり遊びにいくような仲ではなく、サークル内の飲み会とかで席が近ければ話すような仲、くらいのものだ。見山は「んー」と唸りながら、答えた。


「山岡さん、って後輩思いじゃないですか。こうやって久々に相談させてもらっても、しっかり答えてくれそうだなと思って。」


えへへと笑いながら見山が答える。そんなイメージを持たれているとは思いもよらなかった。なんて答えて良いかも分からなかったので、見山のコメントは流しつつ、話を戻すことにした。


「そうは言われても、相談の内容が内容だからな。やりたいことがわからない、って言われても俺にはどうすることもできない。他に誰かには相談したのか。」


さっきとは違うニュアンスで「んー」と言いながら、「学校の就職課には相談にいきました。」と答えた。就職課と言う単語は聞いたことはあったが、俺としては特に利用したことはなかった。「どうだった?」と聞いてみると、見山は首を横に振った。


「色々な業界の説明会にいってみたら、くらいしか言われませんでした。そのいってみたい業界が分からないのに。」


しょんぼり、という言葉が似合うように見山は肩をおとした。久々に会って思い出したが、見山はこういった感情表現が素直な奴だった。うるさいわけではなく、反応がストレートで、からかうと面白い奴だった。


「役に立たないアドバイスだな。でも、よく就職課の存在を知ってたな。」


「最近は大学で就活に関する説明の授業とかありますよ。何月に解禁とか、就職課の使い方とか、そういうのを教えてくれたりします。」


最近はそんなものがあるのか、と思いつつ、俺が学生の時にもそんなことがあった気がする。就職担当の教授の紹介とか、推薦の使い方とか。もう記憶としてはうろ覚えである。


「選考はいつから開始なんだっけ。」


「......三月からです。」


少し間を空けて、見山は答えた。俺に怒られるとでも思ったのだろうか。そういう分かりやすいところが見山らしい。きっと、就活で苦労するだろう。


「あと二ヶ月ってことか。」


別に、俺は怒るつもりもなければ、指導するつもりもない。ただ受けた相談に応じて、アドバイスするだけだ。今までもそうだし、これからもそのつもりだった。手元の水を飲み、一息ついて、俺は言った。


「見山、インターンを申し込め。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ