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君がそばにいるように  作者: 涼
日常
5/5

4.

「碧、お早う」


「お早うございます。お母さん」


いつも通り、中庭を歩き道場を目指していると、洗濯物を干している周斎先生の奥様、ツネのことを、

碧は”お母さん”と呼んでいた。

ここに来たその日、「お母さんって呼んで」と言ったツネの優しい顔がつい昨日のように思い出せる。


今日も、相変わらずの優しい顔で碧を呼び止めてくれた。



「何か手伝えることはありますか?あっ、オレ、洗濯物干します!」


「いいの、いいの。碧は、剣の稽古に行っておいで」


「でも……」



”終わったら、ちょっと買い物に付き合ってくれないかしら?”

引かない碧を見かねて、ツネはそう囁くように言った。


(やっぱり、お母さんの笑顔は桜が笑ったみたいに綺麗だ……)




「はい」

碧は、喜んで返事をして道場に向かったのだった。

















「あお、おそいぞ!」


「ごめん。新八っつぁん」


道場に入るなり、愛嬌のある笑みをされ大声で叫ばれた。



(っていうか、新八っつぁん、碧のこと”あお”って優しい声で子供扱いするなって言ったじゃん)






永倉 新八。

 これが、彼の名だ。

この試衛館では、近藤さんの次に体が大きい奴。縦も大きいが、筋肉隆々で横ががっしりとしている。

一見、ただの剣術馬鹿のように見えるのだが、意外とよく本を読む。そして、結構頭もよろしいようだ。

熱血漢で優しい。碧のお父さんのような人。






「な、碧。一緒にやろう?」

「……やだ」


一足先に道場についていたらしい沖田が、碧の腕を掴みにこちらへ歩み寄ってきたので、碧は思わず即答してしまった。




「なんで?」


「なんででも!」


「碧」

沖田の微笑みは、碧には無理やり貼り付けた怖い笑みに見えた。





「だ、誰か、助け……っ」


碧は後ずさるが、その度に一歩詰めてくる沖田。

もう後ろは壁で、逃げ道がないことに碧の顔は引きつる。


ダメもとで助けを呼ぶと、その救世主はすぐに現れた。



「総司。碧が嫌だって言ってんだから、止めてあげろよ」



(きゅ、救世主……)


伸びてきた沖田の長い腕よりも先に、

碧の後ろに回った原田が碧の腰を掴んで引き寄せた。






「……つまんねぇの」



「あ、ありがと。左之さん」

沖田が言葉を荒々しく使ったことに少々驚きながら、碧が救世主にお礼を言うと、沖田は文句を残してやっと碧たちに背を向けた。


碧はさっと振り返って、その人物にお礼を言う。




原田 左之助

 試衛館の人の中でおそらく一番背が高い彼は、どちらかというと痩せ気味の部類に入る。でも、それと筋肉は別だ。普通にある。

 そしていつも優しい。特に女性には。すごく甘いのだ。

この試衛館では珍しく、唯一の槍の使い手でもある。






「どういたしまして」

にこっという、効果音が見えるほど、原田は綺麗に笑った。

原田は、女性にはとことん甘い上、優しい雰囲気を感じさせるような整った顔をしているのでこの笑顔に落ちてしまう女性がいるということは最近知ったことだ。






「しっかしなぁ~……碧は本当に総司と仲が良いな」



「いじめてくる……」


「あー、それは……。何ていうか……」



心配そうな顔で上目遣いこちらを見上げてくる碧に、原田は内心ドキッとしながらもその気持ちを奥にしまい込んだ。



(しっかりしているように見えて沖田は餓鬼だからなぁ。……所謂、”好きな子ほど意地悪したい”ってやつだろう)





「左之さん。剣術、稽古一緒にやろう」


「俺は槍か刀どっちで対戦すればいいですか?」

「槍!」


「はいはい。聞かなくても分かってたけどな」

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