3.
「いただきます!」
今日も、試衛館は賑やかだ。
「おい碧!お前は何度言ったら分かる?……そんなんじゃ倒れると何度も言ってるだろ!」
(いつもいつもうるさいなぁ……)
毎日毎日発される言葉に、碧はもう内心うんざりしていた。
「土方さん。碧は本当にこれくらいしか食べれないです。でも倒れたことなんてないので安心してください」
土方 歳三。
この男は、とにかく美男子だ。色白く、彫り深く……、高い鼻の斜め上には、大きくて鋭く吊り上がった瞳が存在している。
形の良い唇は、碧が知っている限り大抵は弧を描いていた。
漆黒色の細く艶やかな髪は、高い位置に結い上げられている。
その見た目通り、ぞっとするほど頭が切れる。意地が悪いのだ。
「まぁまぁ土方さん。碧ちゃんは女の子なんだから。オレたちとは食べる量だって違いますよ」
碧のことを、こうやって“ちゃん”付けで呼ぶのは、ここには隣に座っている人物一人しかいない。
「碧ちゃん。気にしないでいいからね?」
慣れた手つきで、碧はその人物に頭を撫でられた。
藤堂 平助である。
碧にとって藤堂は、沖田の次に仲が良い大切な友人だ。
藤堂も美男子の部類に入るのだが、意地の悪い土方とは違って爽やかな好青年だ。
伊勢津藩主藤堂高猷のご落胤とも言われていて、そのせいか気品があってとても礼儀正しい。
歳は沖田と同じ19。
長身で色黒な沖田とは真逆で、藤堂は小柄で色白だ。
そんな藤堂は、碧にとってまた兄でもあった。
「でもなぁ、碧君。辛いかもしれないが、あと茶碗半分くらいはおかわりしてくれないか?碧君にもしも何かあったら、私まで倒れてしまいそうだ」
「……っ、はいっ!!近藤先生!」
「……お前は近藤さんの言う事は素直に聞くんだな」
土方さんが”くそっ”と、悪態づきながら碧に文句を言った。
……そう。
この、近藤 勇こそが、試衛館の主であり、碧が最も尊敬している人なのだ。
決して穏やかとはいえない角ばった大きなゴツイ顔。大きな体。
しかし、近藤は身にまとっている雰囲気が他の者とはまるで違ったのだ。
誰が見ても穏やかそうだと思えるような、そんな優しい目をしていた。
また、誰に対しても常に謙虚な姿勢を崩さない近藤は、誰からにでも慕われていた。
その他にも試衛館の食客はたくさんいるのだが、皆碧たちのことを”いつものこと”と、軽く流していたのだった。