序章
「碧」
「おき……たっ」
オレをそんな甘い声で呼ばないで。
自分から出る声に恥ずかしくなって、顔を腕で覆い隠そうとすると、
自分より一回り以上大きい手に掴まれ、止められる。
「恥ずかしくてもだめだ」
にやりと笑う沖田の顔を、オレは何度見てきたのだろう。
本当は、
嫌だ嫌だというけれど、沖田の元気な姿が見られるならこの顔でもいいんだ。
たまに、この顔が見られなくなるんじゃないかって不安になる。
そういう世の中だから。
……ねぇ、沖田。
碧は今、幸せなんだよ。
祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらはす
おごれる人も久しからず
ただ春の夜の夢の如し
武き者もつひには滅びぬ
ひとへに風の前の塵に同じ
―――――この世に、変わらないものなんてない。
やがて、この新選組も、時代の波に飲み込まれる時がくるのだろう。
碧と沖田との関係もいつか、崩れ落ちるのだろう。
“でもね、沖田。オレは……”
君がそばにいるように。
今も、この先もずっと。
願はくは、貴方との永遠を。 月島 碧。