最終話
「ごめんなさい、雷飛…私が出てきちゃって…」
「なにを言う。お前は悪くない」
「で、でも!」
「楊麗、お前が現れたとき、流れ矢が当たったらどうするんだと言った」
「えっ」
「それが本当になっただけだ。だから気にすることは…くっ」
雷飛は右肩を押さえた。
「雷飛!」
「すこししゃべりすぎたようだ。休ませてくれ」
「うん」
雷飛はゆっくりと瞳を閉じた。
「楊麗、といったかの」
声がした方を振り向くと李統が立っていた。
「李統様…」
李統は楊麗の横に座った。
「戦の勝敗を伝えにきたんだがの」
「えっもう?」
李統はゆっくり頷いた。
「結果は我が軍の大勝利。賊の将が張宝で無かったこともあるが、雷飛の作戦が大きな勝因。一番の功労者は彼じゃよ」
李統の言葉はゆっくりで優しさが込められていた。
詳しい戦況は、まず劉帯軍が打って出て敵に当たり、ほぼ同時に賊軍の後ろから周介軍がせめて挟撃とした。
賊軍は浮き足たち、城門を守っていた周達軍は一気に巻き返した。
これにより賊軍は敗走、逃げ落ちた賊兵は後からきた典勝軍によって討たれた。
「以上が今回の戦の全貌。雷飛の大手柄じゃろ?」
「そんな作戦を指示出来るようになってたのですね」
「うむ」
「でも、雷飛ならきっとこう言います」
楊麗は雷飛の方を寂しそうな目を向けた。
「「私は口を動かしただけです。ですので私の恩賞は財政に当ててください」って……えっ?」
楊麗はハッとした。
雷飛がいつの間にか起きて楊麗の言葉をまねていたのだ。
「起きてたの!?雷飛」
「ああ、さっきからな」
雷飛はゆっくり深呼吸をした。
「李統様」
「なんじゃ」
「今から言う事が遺言になることをお許しください」
「不吉なことを…」
李統は目を袖で隠した。
「自分の身は自分がよく分かっております。私はそう長くありません。すでに矢の毒は全身を回っております」
そして一呼吸入れた。
「先程も言ったとおり、私の分の恩賞はすべて財政に当ててください」
「うむ…。是非もない」
「…楊麗」
楊麗は手で顔を覆って泣いていた。
雷飛は楊麗が泣いているわけを察した。
そして楊麗の頭に手を置いた。
「あっ…」
そしてゆっくりと撫でた。
「俺はすぐ旅立たなきゃならなくなった。戻ることの出来ない冥土への旅だな」
「うん…」
「俺は冥土への土産を、楊麗という天下の美人と過ごした、すべての時間にする」
「うん…ありがと……」
雷飛は楊麗の表情が良い方に変わったら手を静かに戻した。
そして楊麗の方に顔を向けた。
「俺に合いたいんなら、出来るだけ遅くに来てくれ。それに見合うだけの事をするのに準備が必要だからな」
雷飛は楊麗に笑顔を見せた。
「うん、わかった。先に行ったことを後悔させてあげる」
「フフ、楽しみだな」
そういうと雷飛はゆっくりと目を閉じた。
「……」
楊麗はしばらく沈黙していた。
泣きたい、悲しい、そういった感情を必死で押さえつけていたのだ。
「楊麗…」
李統が心配して声をかける。
「大丈夫です」
楊麗は立ち上がった。
「いつまでも雷飛を頼ってちゃいけませんし、それに…」
そして部屋の出口の前まで来て雷飛の方をみた。




