10
日は既に落ち、哨兵の松明しか見えなかった。
雷飛が門の前で馬を下りると、哨兵は礼をした。
「礼はしなくても結構です。賊の様子はどうですか?」
哨兵は礼を解いた。
「はい。薪をして、夕食をとっております」
「わかりました。これは私からの選別です」
雷飛は馬に結んでいた箱の中から肉まんを取り出して哨兵に与えた。
先ほど、楊麗の家でもらった物である。
一人では食べきれないほどもらったのだ。
「あ、ありがとうございます…!」
「いえ、兵とて人間。戦に勝つためには必要な存在です。なので私からのささやかな労いということです」
雷飛は哨兵の小屋に行き、休んでいる兵達にも肉まんを与えた。
そして自分は城壁に登り、残った肉まんを頬張っていた。
「後一刻くらい…だな」
いくら遠く離れていても明かりや薪の煙はよく見えた。
影の量から言って、先鋒の3000人は確認できた。
よく見てみると、兵達は酒を飲んで酔っぱらっていた。
雷飛は伏兵の心配をしていたが、この様子なら無いと言って良い。
一時間ほどすると、だいぶ酔ったらしく、寝始める兵が出ていた。
その一時間後、明かりは哨兵の松明しか見えなかった。
「そろそろだ」
下にいる兵に劉帯を呼んでくるように頼んだ。
だが、その兵は直ぐ帰ってきた。
「すでに劉帯様はすぐそこまで来ております」
雷飛は急いで城壁から降りた。
たしかに、いくつもの松明がこちらに向かっている。
「やあ雷飛殿。時は今で良かったかな?」
先頭を馬に乗って歩いてきたのは劉帯であった。
「ええ、さすがは将軍。時節をよくわかっていらっしゃる」
「いやいや、長年の勘というものです」
「そこばかりは、私でも将軍より年を重ねないと得られないものでしょう」
また話が長くなりそうなので程良いところで雑談を終えた。
雷飛は再び城壁に上り、敵陣の様子を見た。
「雷飛殿。伏兵の気配はあるか?」
「いえ、先程から見ていましたが、賊は酒に酔って熟睡しているようです」
「ならば」
劉帯は城壁の外に出て兵達の列を広げた。
そして、横並びに付け、兵達に背負わせている松明に火を付けた。
周りは暗いので実際の数より多く見える。
「よし、ゆくぞ!」
兵はオーと声を上げて前進していった。
全員騎兵なので速度は速い。
騎兵隊は銅鑼を鳴らし、敵陣に突っ込む。
賊の哨兵はあわてて警報の銅鑼を鳴らしたが、既に時は遅かった。
劉帯の軍は柵を乗り越え、見回りをしていた兵を斬った。
丸腰の賊は混乱に陥り、逃げ出したり武器の取り合いを始めた。
その間も劉帯は賊を斬って殲滅を加えていった。
賊は武器を取ると敵も味方もわからず、ひたすらに抗戦した。
しかし、結果的にそれが同士討ちに繋がっていた。
やがて、陣に火の手が上がった。
劉帯率いる騎馬隊はそれを合図に背負っている松明を捨て、城内に退いた。
捨てられた松明は陣が焼けるのを助けていた。
劉帯達が退いた後も賊の同士討ちは終わらなかった。
結局、賊の先鋒は3000人だったが、この夜襲で1000人ほどに減ってしまった。
それに比べて劉帯の騎馬隊はけが人が出たというものの、一騎も欠けなかった。
雷飛の戦略も見事だが、劉帯の用兵もそれ以上に素晴らしかった。
この二つが相重なって賊の先鋒は散々に打ちのめされたのだ。




