09
雷飛はふと、城の外から見える景色をみた。
緑が生い茂り、川が流れゆく。
いまにも小鳥のさえずりが聞こえてきそうである。
どこに戦乱があるのか、どこに争いがあるのか。
ここからの景色はそれらを物語っているように思えた。
景色に見とれていると、いつの間にか日は昇りきっており、昼食の時間となっていた。
雷飛は朝から何も食べていないことを思い出した。
そんな折、兵たちの演習を見てきた李統が通りかかった。
「どうした、雷飛。なにか憂いでもあるのか?」
「いえ、思えば朝から何も口に入れていないので、ついついボーっとしておりました」
「そうか。ではわしと昼食を共にせんか?」
「はい」
雷飛は李統と食事をしながら、今後の政治についての相談を受けた。
戦は多大な出費をするため、今後の財政は李統を悩ましていた。普通は相手が賊なので討伐すれば中央から恩賞をもらえるが、今の中央は賄賂を渡さないと恩賞をくれない。
それに、賊の影響で商人の往来ができてない。
となると、城民からの最低限の税も確保できなくなる。
「なるほど。ならば李陽とも相談しておこう」
「ええ、その方がいいでしょう。私も気付かないところがきっとあるはずです」
李統との食事を終わらせた雷飛は、自室に戻った。
さっきは寝付けなかったが、今は不思議と眠たい。
雷飛はそのまま意識を失ってしまった。
気が付いたときには日が沈みかけ、空と大地を赤く染めていた。
「結構寝ていたんだな…」
乱れた服装を直し、城の入り口へと向かった。
そこには、夜襲の準備を終わらせた劉帯と兵士500人がいた。
「やあ、軍師殿。いつでも出発できるようにしておきました」
「ご苦労様です。まだ日は落ちていないので兵達に十分な休息をとらせて下さい」
「承知しました」
「あと、攻め込むときは兵一人に五束ほどの松明を持たせて下さい」
「火計を用いるのであるか?」
「いえ、狙いは敵の混乱。同士討ちをさせて兵を削るのが主です」
「流石です。そなたを敵に回したく無いですな」
「ハハハ、歴戦の勇士である将軍にそう言われるなど身に余る光栄です」
「ご謙遜を」
その後も暫く劉帯と話をしていたが、用を思い出して別れた。
用というのは楊麗のことである。
朝に寝顔を眺めてから一度もあっていない。
それに、もうすぐ戦が始まることを知らせないといけない。
馬を走らせ、楊麗の家に向かった。
召使いが門の前を掃いている。
そこへいきなり馬が走ってきたので驚いて門の裏に隠れてしまった。
「君、楊麗は居るか?」
「は、はい。楊麗様ならお部屋にいらっしゃいます」
「そうか。ありがとう」
楊筍は留守のようで、家には召使いしかいない。
昨日、楊麗と過ごした部屋に行く途中の中庭に彼女がいた。
池のほとりで花を眺めながら歌っていた。
「楊麗」
「あっ雷飛」
楊麗は笑顔で駆け寄ってきた。
化粧を落とし、服も普段のままなのでかわいい印象が強い。
「朝起きたらいないから心配したよ」
「悪い。朝早く出ないと軍議に遅れるから」
「なら仕方ないよね。軍の指揮官として遅れちゃいけないもんね」
「悪いな。無理させて」
「ううん、無理なんかしてないよ。雷飛の為なら何でもするから」
「ありがとう」
雷飛にはこの言葉が何よりもありがたかった。
子供の時から気軽に頼れる存在というのが無かった。
だから、嬉しかった。
「楊麗、今夜から戦が始まる。俺はその指揮をしなくちゃいけない。だから暫く会えなくなるけど待っててくれないか?」
楊麗は迷わず頷いた。
「うん。待ってる」
「ありがとう。必ず勝って帰ってくる。そう言う約束だからな」
雷飛は楊麗の家を後にし、城壁の門へと向かった。




