白き影
最後に一つ、注意しておくことを教えよう、希。
それは、別の時間軸の自分だ。
恐らくだが、同じ空間に僕たちは三つ存在する。
異都望の思考が、頭の中に流れてくる。
一つは初めて黒龍と戦った君だ。
今は黒龍の体内にいるだろう。
もう一つはさっきの君だ。
恐らく、龍の怨念にとらわれた僕と戦っている。
そして、僕たち。
これらが出会うと恐らく、タイムパラドクスを引き起こすだろう。
……最も、タイムパラドクスが起きると、どうなるか、それは分からないのだが。
「なるほど。確かにそうだ。」
静止したときの中で、少年は確かに頷いた。
体内と別世界線に自己がいる。
おもしろい。
『こいつ……、嗤ってやがる。影の俺よりも、誰よりもこの戦いを楽しんでいる……。』
時の流れが止まった今、俺たちがすべきこと……。
「それは、龍の世界線を破壊することだ。」
『確かに。ここからの戦いは単純な力の大きさではない。世界線の行使と、相手へ致命の一撃をいかに入れるか、だ。』
俺の手にある世界線と龍の世界線。
比べるまでもない。
向こうのほうが数は多い。
それも、圧倒的に。
鱗をはぎに行く。
世界線の力により、自由に飛翔することができる。
特定の空間座標に体を固定することもできるようだ。
いける。
少なくとも、機動力では負けはない。
その時だった。
止まった時の中で、龍の体が少し動いた。
光だ。
このネガティブな空間で、龍の体は反転、白竜となった。
だから、気づくのに時間がかかった。
あれは世界線を行使するときに生じる光だ。
「同じ世界線、存在するのか……?」
「……思えば、僕たちが奴らの体内にいる……、ということは……。」
『だな。』
白竜は動き出した。
まだ、鈍くだが、体が拍動している。
「せめて一撃ッ!」
龍と化した右手で、殴る。
鱗の一つでもはいでおきたい。
龍の鱗は一枚、落ちた。
しかし、希の右手が元に戻った。
まるで呪いをその身に移すように。
「……まさかな。」
黒龍に支配されていた右手は元に戻った。
そして、その呪いは龍の力へと……。
「……空間の支配はいい。時を元に戻せ、希!」
影が言う。
「こいつにもし、時を止めることに耐性があるというのなら、その耐性ができるまで待つ必要はない。世界線を解除しろ!」
「ああ!」
こうして時は流れ始めた。
「……なにか聞こえないか?!」
耳を澄ますと、確かに何かが聞こえた。
それは、龍の世界線の行使を意味した。
滅びの歌。
強すぎた音は。波動となり、空間を振動させる。
「そうか、浮いてる俺たちを叩き落とすための歌だ。」
あまりの音に、耳から血が噴き出る。
「あ……。」
本能的に、世界線を使い、時を戻す。
この時、希は見た。
自分たちが死ぬところを。
今、一瞬の出来事で、異都望は死んだ。
死んでいた。
「……空間の支配はいい。時を戻せ、希!」
「ああ!」
ということは、だ。
次に俺がすることは。
「異都、この世界線を耳に詰めろ!」
ガラス玉の中にある二重らせん。
これは、逆流捻転世界線だ。
ちょうど右手が人に戻ったので、置く場所がない。
「何を言ってるんだい?」
「いいから!こいつを右耳に入れろ!」
世界線は、右手から自己の肉体に吸収された。
「……おっけ、これで大丈夫なはずだ。」
『(希のやつ、いったいどうしたんだ?急に世界線を、それも耳に入れろとは。)』
「……何か聞こえないか?!」
滅びの歌だ。
今回はいけるのだろうか。
右耳から血が出る。
が、気絶はしない。
世界線のおかげだ。
「よし!」
龍の頭上へと飛ぶ。
かかと落としだ。
効いてる。
確かに手ごたえがあった。
追撃に入る。
その時。
龍は発光した。
まばゆく、白く。
そして、全てをかき消すようだった。
「異都!世界線を行使しろ!」
このとき、希は世界線を行使していなかった。
そのため、観測者は必然、異都となった。
そして、異都望は見てしまった。
一瞬で漂白され、存在が消し飛んだ影の存在を。
時は遡る。
滅びの歌を耐え抜いたところまで。
「よし!」
「希、僕を外に出せ!肉体の外だ!」
「できるのか、そんなことが。」
「いいからやれ!」
13の言葉、『核』。
それは生物の根源をなす。
それを露出させることの危険性は計り知れない。
「影、僕に乗り移る技はないか?!」
『あるにはあるが……、どうした?』
「それを僕に使え!」
『……。』
「いいからはやく!」
『ああ、モーフィング・シャドウ。』
希から影が映り、異都の影となった。
僕の体は白い。
それは色を失ったからだ。
つまり、白く見えるが『何色でもない』はずだ。
『なら、これが正しいはずだ。』
黒龍は再び発光した。