世界の旅
嵐降る戦場の上で、頭上にいるは龍だけか。
目を細め、絶望に絡みつかれた右手を差し出す。
甲には世界線、雷光が作り出す影には自我、そして、異なる世界線の自分。
虚空に差し出された右手は何をつかみ取ろうとしているのか。
もちろん、なにもなかったさ。
『……感傷に浸っているのかい。』
「あぁ、そうだ。現世を離れてからというもの、いろんな世界に行った。そして、今のようにゆっくりすることはなかった、いや、できなかったんだ。」
世界が滅ぶ。
その寸前まで確かに少年は、世界を巡った。
偽善世界線、虐げられし民。
逆流捻転世界戦、砕けた時。
精神漏洩世界線、少年の過去。
自己世界線、影との相対。
理想世界線、俺は、自分の理想に成れたのだろうか?
そして、果ての果て。
世界全てが滅ぶか、それが今から決まる。
閉じていた瞳を開け、全てを確認する。
集めた世界線、一つはラスエルに渡したっけ。
右手、やや元に戻ろうとしているが、やはりまだ黒龍のようになっている。
影、離れようともしない。
自我、大丈夫だ。
俺は俺だった。
いろんな世界に行っても、結局、自分は変わらなかった。
もちろん、変わったところもある。
だけれど、どんな法則に縛られても、世界が変わっても、自分は自分だったのだ。
この旅で俺が気づいたことは、それだけだ。
「……待たせたな、行こうか。」
『最後の戦い……、か。』
「……。」
これから、あの瘴気を纏った龍と戦う。
また、己の肉体が黒龍のようになってしまうのだろうか?
まずはそこからだ。
「行くぞ!」
足に力を籠め飛翔。
右手の世界戦が光る。
「クソ……、右手が痛い!」
見てみると、手の平がこちらを向いていた。
意思とは関係なく痙攣し、いまにも体から抜けそうだった。
この時、無意識に右手に力を入れた。
すると、世界線がさらに光りだした。
途端に体は意思を取り戻し、霧は晴れた。
「これは……?」
『今のは、君が使った世界線の力だ。この感じ、どうやら、世界線と僕の存在が混ざったみたいだね。理屈じゃなくて、感じる。』
そうか、時間を操れば、霧が立ち込める前の空間にすることができるのか。
当然だ。
瘴気は霧状の何か、なのだから。
霧が立ち込める前の空間は、確かに在る。
いける。
黒龍の瘴気、それも対策ができた。
再び右手に力を宿す。
「時を操るのならば……、ここだ。」
『時よ、止まれ!』
お前は美しいとは、言えないが。
視界に広がる景色は全てネガティブ加工された。
白は黒に、暖色は寒色に。
黒龍は、白竜に。
これでいける。
彼の龍の元まで。
一閃、少年は龍の眼前まで飛んだ。




