瞬間
『……、おい、聞こえるか?』
気が付くと、影が顔を覗き込んでいた。
眼前に人がる景色は、やはり宇宙空間の様で。
白く光る地面に、流れ続ける隕石。
向かい側を見ると、そこには光り輝く肉体があった。
「これは?」
『お前がやったんだ。』
「どういうことだ?」
『ああ……、記憶が混ざってるんだな。話そう。』
『あの時、そう、まさに決着の瞬間だ。右手の世界線が機能していないことに気づいたんだ。』
「そんなことがあるのか?」
『ああ、戦いが始まった最初は、互いに世界線の効力が、この空間全体に広がっていた。』
『しかし、原因は不明だがこちらの世界線の力の範囲が、お前を中心とした半径5メートルくらいにまで縮小していたんだ。』
世界線の効力範囲……。
そんなものがあるとは。
『そこで俺は声をかけたんだがな……。』
『……おい。』
その時すでに、右手の世界線の効力は失われていたんだ。
『俺が前を向いたとき、すでに奴は視界から消えていた。』
時間は光速に近づくほど遅くなる。
つまり、加速し続けたアイツからは、お前は止まって見えたはずだ。
そして、ゆっくりと、『歩いて』お前を殺しに来た。
影である俺は、それを眺めることしかできなかった。
眼前に死が迫っているのに、見えているのに、体は動かなかった。
そう、あの時、お前が動くしかなかった。
俺はお前の影。
影が気づいても、体が動くことはない。
しかし、右手の光は消えていた。
世界線が機能していなかった。
だから、0秒で殺されて終わるんじゃないかと思った。
「じゃあ何でここで俺は倒れてるんだよ……。」
あきれ気味に天を仰ぐ。
まるで運動直後の四足動物だ。
「……動いた?」
影は俯いた。