異世界にて
「それでは、行ってくる。」
「はい。」
「……は、まだ寝ているのか??」
「ええ、はい、そのようです。」
「まったく、いったい何があったのだ。」
「それが、何度聞いても答えないんです。」
「……そうか。」
「では、行ってくる。」
「はい。」
『時計が鳴っている。』
『仕切りに時計が鳴っている。』
『……もう朝か……。』
「おはよう!」
「今日も今日で、眠そうだね。」
「……何か部活すればいいのに。」
「……君は?」
「どこに行くの?次は音楽の授業じゃないの?」
「どうしたの?」
「ああ、それじゃあ……。」
「え……。」
「どうしたの、また何か考え事?」
「いいの?」
「……ようやく君から話をしてくれたね。」
『……初めて会ったときのこと、覚えてる?』
「……本当は、覚えている。」
『……あの時、君だけだった気がする。』
『君だけが……。』
『ただ、僕だけを見てくれていた。』
『髪の色も、この目の色も、君には見えていなかった。』
『ただ、他の一人として見てくれていた。』
「……お前も、大変なんだな。」
『そういう君もね、フフフ。』
「……。」
『怒らないでくれよ。これでも結構恥ずかしいんだ。思っていることを話すのは。』
『僕のこと、どう見てた??』
「どういう意味だ……。」
『いや、なに、初めて見たとき、どんなことを思ったのか、それを知りたくてね。』
「そうだな……、周りの奴は『興味』を示していた。」
『うん。』
「ただ、それをうまい具合に表現できなかっただけだろう。もしくは、お前の反応が気にいらないか、そんなところだと。」
「だから、あの場では誰かが言う必要があった。相手に……、お前に、興味があるのだと。それも、お前が正直に話すような、誤魔化しのない言葉で。」
『うん。』
「ただ、同時に……、お前と周り、それが一緒に生活すること、仲良くすること、それが、お前のためになるか……、そんなものは俺にはわからない。だから、教室内で五月蠅い奴は黙らせていた。正論と、気怠さで。」
『おい、こっちは眠たいんだ。隣の席で騒ぐのはやめてくれ。』
『なんだよ希、少しくらいいいだろ。』
『今何時だと思ってるんだ。そろそろ読書の時間だろ。』
『ふぅん……。』
「つらい、か??」
『わかんないや……。』
「そんで、俺はそれ以上は何もしてないが??」
『確かに。』
『それ「以上」はしていないね。』
『名前聞いたら寝ちゃうんだもん。』
『あの時は驚いたなぁ。こんな人がいるんだ、って。』
「そうか。実はな、俺もなんだ……。」
『え??』
「そのあと周りと仲良くするかはお前次第で、仲良くする選択をしたようだった。」
「だから、もう来ないと思っていた。」
『それで??』
「甘味と飲み物が二つ必要になった、それだけだよ。」
「さて、もう帰るか。暗くなったしな。」
『……ありがとう、希。』
これは、俺の記憶だ……。




